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山ペンギン8 いいまつがい

本社からコンビニの経営者がたずねてくるらしい。

主任が

「オレ君、頼みがあるんだけど。」

「はい。なんでしょうか。」

「本社からえらいさんが来るのよね。」

「はい。聞いてます。」

「セックスの練習したいんだけど」

「なんつぜよ!!!!」

思わず自分の故郷の言葉が出た。

「あ、間違えた。接待の練習したいんだけど。」

この人の脳内の予備変換機能はどうなってるんだ。

だいたいコンビニに勤めてるんだから「せっ」と始まったら「せっけん」くらいの間違え方にしてくれよ。

「分かりました。えと、何を練習すれば?」

「昨今、接待の強要などもパワハラになるんだけど、だからと言って一緒に飲みに行ってほったらかすわけにもいけないじゃない?」

「一緒にお酒飲みましょう。」
さすがのオレも期待感は高まる。

だが、相手は「主任」だ。

すでに「セック(自重」などというかなり斜め上の一発をくれている。

「今日、チューハイとつまみ買って、オレ君の家に行くわね。」

まったく接待の練習になりそうでない提案が来た。

しかも、コンビニ内の期限近い商品をついでに片付けるつもりだ。

人気がなく冷蔵庫どころか、バックヤードに置きっぱなしの期限の近いチューハイを半額で買いこんでいる。

家に帰ればイマドがいる。2人きりになりたいのはやまやまだが、まあ、そんな段階(どんな段階)でもないので、イマド用にコンビニから出てスーパーで少し生魚を買った。

家に主任が来た。

「お酒ついだりするのもNGなことあるのよねー。じゃあ、何しろって話なんだけど。」

「そっすね。」

去年から棚に残っていた「シークゥアーサー」チューハイ(無果汁)を飲む。

無果汁のくせに「シークゥアーサー」と銘打っているのが少しいらっとする。

主任の方は「はずれめ」という駄菓子を食べている。「あたりめ」であるイカの菓子じゃなく、タコを乾燥させたものらしい。

ネタとしてもお菓子としても面白いと思ったが、意外に売れなかった。
人は新しいものに飛びつかないのだ。

イマドは三匹ほど生魚を飲み込むと、酒を要求してきた。

「お前・・酒飲むつもりか・・?」

梅が丸ごと入った梅酒を渡す。
この商品は中の梅が傾けると注ぎ口を閉ざしてしまい、梅酒を飲むのにずいぶん苦労する。
その上、梅を取り出すのが非常に難しいのだ。
梅酒の味にこだわった商品らしいが、本末転倒だ。

だが、イマドはくちばしを使って梅を食い、梅酒を飲みほした。
そしてそのまま倒れこんで仰向けにいびきをかきながら寝てしまった。

「接待・・、せいぜい会話くらいよね・・・」

「そうっすよね・・」

主任の場合、その会話が一番ネックな気がする。

「ほめたりするのがいいのよね」

「まあ、けなすよりは・・」

全く会話がはずまない。

そのうち主任は寝てしまった。

本当ならこれは大チャンスと言えるだろうが、

主任が寝たのはイマドの腹の上だった。

オレはおとなしく、空になった缶とごみを片付けて、
主任の寝顔を見ながら横になった。

ちなみに主任は早朝からのシフトで着替えもせずに朝の4時に出勤してしまった。


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