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【北欧図書館・最前線3】デンマークから:「あなたが来るのは大歓迎」不登校の子どもたちのための図書館プロジェクト

<デンマーク図書館協会のニュース記事から>

デンマークでは5人に1人の子どもが登校日の10パーセントを欠席しているという報告がある。また多くの子どもが学校、家庭、社会で果たさなければならない重責にプレッシャーを感じていると専門家は指摘する。そうした状況の中で、図書館やそのほかの文化施設が、登校に困難を抱える子どもや若者にとって安息の場所となる可能性が検討されている。ラナス市では図書館を中心に学校、教育関係者が連携し、登校が困難な子どものための空間づくりに着手した。

この背景にはデンマークの図書館が資料や情報へのアクセス機関としてだけでなく、コミュニティにおける文化福祉的な役割を担うことを優先課題としている現状がある。実際にデンマークの図書館は、子どもと若者が自由に振る舞える数少ない空間として機能してきた。図書館で飲食やおしゃべりが自由にできること、コミックやコンピュータゲームがあることも、子どもたちの図書館での柔軟な過ごし方を可能にする要因だろう。

ラナス図書館が2024年春から開始したプロジェクト「あなたが来るのは大歓迎(GODT DU KOM)」は、デンマーク文化省宮殿・文化庁の助成金による事業である。図書館は学校を欠席しがちな生徒を対象に、館内に特別のスペースを作ってサービスに着手した。このプロジェクトは大学、公立学校、美術学校、演劇学校リサイクル・アート・センターといった地元の団体、それから教育心理や青少年教育の専門家らと連携して進められている。

プロジェクトの目的は学校への登校に何らかの問題を抱える子どもたちが、図書館という安全な空間で成長し、社会的スキルを育むこと。プロジェクトを始めた司書は「私たちは司書として、図書館を自由に振る舞える空間として利用している子どもや若者によく出会います。だからこそ(このプロジェクトを通じて)学校を欠席している子どもや若者に対して、文化的コミュニティがどのような役割を果たしているのか調査したいのです」と語っている。教育コーディネーターは「図書館は学校とは異なります。その理由として成績が付けられることもなく教育面での期待が課せられない点が挙げられます。このような図書館の性質は、不登校の子どもたちにとって必要なことかもしれません」と述べ、プロジェクトが登校に困難を抱える子どもたちに対して貢献することへの期待を表明している。

2024年春からは実際に不登校の生徒など20名を対象に8週間のプログラムがスタートした。プロジェクトの参加者は、演劇ボードゲーム、クリエイティブ・ライティング、イギリス発祥の読書活動で読書を通じて精神的健康を育む「ガイド付き共同読書(Guidet Fælleslæsning)」、リサイクルセンターでのアート創作活動などに取り組んでいる。プログラムは飲み物を片手に行われ、リラックスした雰囲気づくりが重視されている。参加者同士での共同活動が多く取り入れられていることも、プログラムの特徴と言えるだろう。

このプロジェクトは、安全で安心できる空間を提供することで、住民の「よき生のあり方<ウェルビーイング>」の実現に取り組んできたデンマーク図書館界の実験の場でもある。ラナス図書館は子どもの居場所づくりのプロジェクトを通して、デンマークの他の図書館も同様の取り組みができるような指針を作ることを目標として掲げている。

出典:“Godt du kom” – trivsel i Randers, https://db.dk/bladartikel/godt-du-kom-trivsel-i-randers/
出典:Biblioteket som øvelsesarena for unge med skolevægring, https://www.randersbib.dk/biblioteket-som-ovelsesarena-unge-med-skolevaegring


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