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「音楽の現場、もう限界です」#失くすわけにはいかない - Lutz Leichsenring(Clubcommission/ Berlin)インタビュー全文


昨夜、#SaveOurSpaceChoose Life Projectの共同企画であるこちらの番組に出演させて頂きました。

番組の中では(短い議論の時間で私が喋りすぎたにも関わらず!)時間が限られていたのでご紹介しきれませんでしたが、事前にベルリンのクラブ事業者団体「Clubcommission」の広報担当兼理事であるルッツ・ライヒセンリング(Lutz Leichsenring)氏のインタビューを行い、その回答の中には今後クラブやライブハウスが公的援助を求めている上で非常に参考になる内容も含まれていたので、ここで改めてインタビュー全編をご紹介しておきたいと思います。

政府に対してのみならず、地元の行政などとも今後公的支援や事業再開について議論する機会が増えていくかと思いますので、参考にして頂ければ幸いです。

ルッツには、実は過去に二度取材に応えてもらったことがあります。一度目は風営法問題がクラブの経営や存続に深刻な影響を及ぼしていた時期に磯部涼君が編集した『踊ってはいけない国、日本』(2012年)に寄稿した「ベルリンのロビー団体”クラブ・コミッション”とは?」というコラムを執筆した際で、二度目は2013年の朝日新聞の取材のコーディネートをした際でした。これを読んでもらえると、ベルリンのクラブを取り巻く環境とClubsommissionがどのような団体なのか分かりやすいと思います。

この記事にあるように同団体は2000年に発足しており、ベルリンが世界の「クラブ・カルチャーの首都」として文化的にも産業としても発展を遂げることを可能にする環境を整えてきました。

逆の言い方をすれば、政治家との対話や行政への働きかけなど、20年にわたる地道な努力がずっと続けられてきたからこそ、今回のパンデミックのような危機の下でも連邦及びベルリン州政府と迅速に連帯し、ロックダウンが長期化している現時点においても「閉店に追い込まれた音楽ベニューはゼロ」という援助プログラムが実現できているのではないでしょうか。

以下が全Q&Aです。


Q. 昨年春のパンデミック初期に、ドイツのモニカ・グリュッタース文化大臣が文化や芸術の重要性を訴え、「アーティストや文化施設を必ず守る!」と宣言し、世界的にも注目されました。それからほぼ1年が経過しようとしていますが、ドイツ政府の実際の対応をどのように評価しますか?

Lutz: 短く答えると、まずその意図はとても良かったと思いますし、コミュニケーションも迅速でした。我々もかなり早い段階で話し合うことができ、支援の緊急性と必要性を理解してくれました。そして、我々(クラブ、ライブハウス事業者)もグリュッタースの予算(=文化予算)に組み入れてもらうことができました。

このようなことは「自然」に起こるわけではないので、(働きかけによって)文化事業であると認められたおかげで、例えば一般のレストランやバーといった商業施設や、ブッキング・エージェンシーのような小規模事業者は受けることができない支援を受けることができました。これが評価できる点です。もうひとつ評価できる点は、十分な予算を確保してくれたことです。少なすぎるということはありませんでした。

このために我々がやったことは、実態調査をすることでした。月々の経営コストが具体的にいくらなのかを(会員の事業者に)聞きました。それがあったので、政府は我々が文化施設存続のために必要だと提示した額に同意してくれたのです。

欠点を指摘するならば…ドイツにおいて「漏れ」のない支援プログラムを短期間で実現するのは極めて困難であるということです。支援対象者の条件設定ひとつ取っても、速さを優先するとどうしてもミスが出ますし、一度発表してしまうと、プログラム内容はそう簡単に変更できません。そのせいで、申請対象に含まれない事業者が出てきました。例えば、すでに銀行から融資を受けている場合は対象外となっていたので、その融資額を使い切ってからでなければ申請できなくなってしまいました。しかし、当然銀行の融資には利子が発生します。それまで事業が好調でより大きい額の融資を受けた事業者ほど、公的援助は受けられなくなってしまった。

もうひとつの例としては、支援対象の条件が「2〜10人の雇用者を有する事業者」となっていたので、正社員は1名で多数のアルバイトを雇っていた店は対象から外れてしまった。そのようなお店でも、当然家賃などの維持経費は同じようにかかりますから、支援は必要なわけです。こうした情報は、私たちも把握できていませんでした。


また、実務的な面では補助金の実際の支払いが遅れるという問題もありました。申請を受理されているのに、口座にそのお金が振り込まれてこない、または1/3だけ振り込まれて残額がいつ入金されるのか分からない、というケースも多く、それでも事業者には毎月1日には家賃や従業員の手当て、社会保障コストなどの支払いの責任があります。

Q. コロナやロックダウンによって減収した、全業種の事業主やフリーランスを対象とした給付金のプログラムがいくつかありましたが、それとは別に文化施設のための補助金をクラブやライブハウスが受けられるよう交渉したということですね?

Lutz: そうです。連邦政府とベルリン州(都市州)政府の両方に働きかけ、またそのプログラムの設計に参加しました。

Q. 実態調査をされたという話が出ました。政府との交渉のために、具体的に要求する支援額を提示したとのことですが、その際にどのようなデータが必要でしたか?

Lutz: まず必要なのは、要求する額を明確にすることです。そのためには、数字による証明が必要です。この点において、我々はその他の事業者ロビー団体より有利だったと言えます。なぜなら、私たちには非常に小さい団体の、詳細なデータがあったからです。

例えばこれが、2万事業者を抱える「イベント産業」全体を代表する団体だった場合、難しくなります。産業全体には何十億ユーロという大きな額の支援が必要になるけれど、その具体的な内訳が証明しにくくなるからです。その点我々の場合は、「会員の事業者が300組います、調査を行ったところ60%から回答を得ました」とすぐに説得力のある数字を示すことができました。そのおかげで、政府側から「なるほど、筋が通っている」と承認を得ることができた。

Q. このような会員事業者の実態調査はパンデミック以前から行っていたということでしょうか?それとも改めて調べたのですか?

Lutz: 実態調査というものはしてきましたが、これまでは従業員数や売り上げなどの経済規模の調査で、各事業者の細かい財政状況を聞いたことはありあませんでした。コロナ危機になってから初めてのことです。特に、現在の財政状況ではあとどれくらい事業を維持できるかを聞きました。2日間なのか、2週間なのか、それとも2年間なのか?銀行口座にいくら残っているかは聞いていませんが、経営状況を聞くことで流動資産をだいたい把握することができます。


これまで3回の調査を行い、最後に実施したのが10月でした。11月と12月に新たな支援プログラムがあり、その支払いが1月から2月にかけてあったはずなので、そろそろ次の調査をかけて、それらの支援の効果を評価するタイミングです。予定どおり支払いがあったか、事業を維持するのに十分だったか、といったことです。ですから、調査をする時期も重要です。異なるフェーズごとに状況を把握し、検証するためにです。

Q. かなり説得力のある実態調査結果を提出したとのことですが、それ以外に交渉の上で必要だったものは何かありましたか?

Lutz: 交渉は要求した額を承認してもらうところで終わるわけではありません。支給された金額の使用用途もあらかじめ考えておかなければなりません。店舗の家賃の支払いにまわすのか、新たに屋外スペースを設置する費用にするのか、感染症予防対策に使うのか、ストリーミング・イベントを主催し出演アーティストにも補助金が分配されるようにするのか、など。

例えば、その一環として、我々はベルリン市と共にアワードを企画しました。約50万ユーロの予算で「Tag Der Klubkultur(クラブ・カルチャーの日)」というイベントを行い、市内の40組のクラブ(やイベント・プロモーター)に1万ユーロ(約120万円)ずつ賞金を授与しました。このように、援助プログラムそのものの設計にも参加し、効果的に援助を必要としているところに予算を分配する努力をしました。また、その手続きも極力簡易化するよう求めました。例えば会計士と弁護士を二人ずつ雇わないと申請できないような複雑なものでは、申請そのものにコストがかかってしまいますから。

こういった我々からのインプットは、方針を決定する政治家から、その仕組みを設計する行政担当者、最終的な予算を承認する財務担当者など、様々なレベルの人たちとの対話で行ってきました。これらの人たちは皆、正しく効果的な方法で実施するために実態を理解したいと思っています。

Q. このような様々なレベルの担当者と常にコミュニケーションを取っているということなんですね?

Lutz: はい。財政支援やその額のことだけでなく、再開のシナリオについてや、衛生対策、即時(感染)検査、イベント主催者が適用できるテンプレート、イベントの定員の設定など… 本当に色々ありますから。

Q. なるほど。財政支援策の中には、アーティストや音楽産業従事者個人に限定されたものもあったのでしょうか?

Lutz: そのような支援プログラムは複数ありますが、それらはアーティストの中でも一部の人たちを対象にしたものです。元々、(平時の)公的支援にかなり依存して活動しているアーティストもいますから、そのような人たちに対しては、公演向けの予算がオンライン・イベントに適用されたり、アーティスト・レジデンシー(滞在制作)やアルバム制作プロジェクトに適用されました。

でも全体から見るとそのようなアーティストはごく一部で、大多数は作品の売り上げやイベントの主催、出演料によって収入を得ています。そうした人たちは一般のフリーランスと同じ扱いで、コロナのせいで仕事がなくなり収入を断たれたという人は社会保障の対象になります。(文化支援ではなく)いわゆる失業手当や生活保護を申請するということになります。


社会保障を受けることに抵抗がある人もいますが、少なくとも昨年の前半の時点では、ドイツではある程度貯金があっても(新たな)収入がないことを証明できる場合はそれが申請できるようになっていたので、他国と比較するとかなり良心的な対応だったと思います。ただし、これはアーティストだけに対する特別な措置ではないので、他の業種の「失業」と同じ扱いです。政府の側に立てば、数で言えばずっと少ない企業や組織への対応ですでに手一杯な状態なので、膨大な数に上る個人への対応は、元々個人に対応するための制度である職業安定所に任せる方が効率的なのです。

Q. 昨年フリーランスに対して5000ユーロ(約65万円)の緊急支援金が支給された際、私自身も申請しましたが、オンラインの申請手続きも簡単で、しかも申請から丸1日ほどで入金されたスピードには本当に驚きました。これだけ手続きの簡易化とスピードを実現できたのはなぜでしょうか?

Lutz: あれはドイツ全体ではなく、ベルリン州政府が実現したプログラムです。これは多方面から称賛を受けた一方で、その後実は様々な問題に発展し、批判も受けています。偽りの申請もありましたし、本来は事業経費のみに使用用途が限定されるはずだったのに、それがきちんと申請者に伝わっておらず、非常の多くの人が個人の生活費に充ててしまいました。つまり、意図されていた目的に使用されなかったのです。これには政府側の(コミュニケーション上の)落ち度もありました。今から数週間前に、事業経費として使用しなかった分は返金するよう求めるEメールを受け取った人もいました。後から会計監査をするにも、受け取った人の数が非常に多いのでかなり困難になります。

政府には、税金を無駄遣いしないよう管理する責任がありますが、このプログラムに関しては、支払いを急いだために本当に困っている人を助けることができた反面、そうではない人にも支給してしまい税金を無駄遣いしてしまったと批判もされています。どんなコインにも表と裏があるということです…

Q. なるほど。現在もフリーランスを対象とした、今年6月分まで先払いの補償の申請受付が始まったばかりですが、そこでも手続きの簡易化と支払いスピードの改善が強調されていました。これは日本の財政支援の申請手続きの煩雑さや処理の遅さと比較すると非常に対象的です。

Lutz: これはドイツにおいても、決して当たり前のことではありません。むしろベルリン州政府の例外的な措置です。我々も皆驚いているくらいです。また、これは特にフリーランスに対してであり、他の(企業向けなどの)支援策の手続きはもっと様々な条件が課され、給付も全額先払いではありません。


なぜベルリン州政府がこのような措置をとったかというと、ベルリンにはクリエイティブ産業のフリーランス人口が多く、そのほとんどがドイツで言う「手から口へ」、つまり貯金もなくぎりぎりの生活をしています。州政府がその事実を認識しているということです。また、ベルリン州は左翼系連立政党が運営を担っているので、こうしたフリーランスの人々との直接的な接点があり、彼らが緊急支援を必要としていることをよく知っているとも言えます。その結果として フリーランス・コミュニティを救う必要があるという判断を促しました。そうしなければ、彼らは他の支援プログラムの条件を満たさないからです。

Q. 知っている範囲では、ベルリンでクラブやライブハウスがコロナの影響で閉店に追い込まれたという話を聞かないのですが、実際はあったのでしょうか?

Lutz: いいえ。ありません。財政支援が今のところ功を奏しているということだと思われます。それに我々は、州政府との合意で、万が一緊急の追加支援を必要とするケースが現れた場合は個別に解決策を探すことになっています。基本的な姿勢として、州(市)としても音楽会場を閉店させたくないということです。

しかし、まだパンデミックは終わっていませんから、これからどうなるかは分かりません。家賃を滞納しているお店もあるでしょう。今現在は、家賃滞納でクラブ事業者を立ち退かせたとしても、大家も他に貸す相手がいません。他のクラブ事業主に貸したとしても営業できないのは同じですから。そういう意味で、今は真空状態になっているので、今後何が起こるかは分かりません。パンデミック後に多くの賃貸契約の解約があるかもしれません。もちろん、ないといいですが。これは調査をしても分からない、不確定要素です。

Q. 最近Clubcommissionのスポークスパーソンであるパメラ・ショーベス氏が、クラブの通常再開は2022年末になるだろうという見通しを示して話題になりましたが、コロナの影響が長期化する中でClubcommissionが現在直面している課題、あるいは政府と交渉しているのはどのようなことですか?

Lutz: この発言については誤解を解いておきたいのですが、「再開」ではなく 「元どおりになるまでに」の間違いです。 観光客が以前のように街に戻り、アーティストも自由にツアーで行き来ができるような状態のことで、そう戻るのには2022年の末頃までかかるだろうと言ったのです。

音楽施設の営業の再開は、(感染者の)数字が下がり次第、ロックダウンが緩和され次第、もっとずっと早くに見込めるでしょう。屋外のダンス・イベントは 4月、遅くとも5月には再開できると思います。ただ、屋内に戻れるのがいつになるかは不明です。これは我々にも分かりませんが 、今年の秋になるのではないかと予想しています。


このパンデミックで学んだことは、あまり先を考えすぎず向こう2〜3ヶ月に集中することです。私たちは預言者ではありませんから、あまり先のことは知り得ません。今目の前が緊急事態なので、それより先を見ることよりも目の前のことに集中するようにしています。現在考えていることは、どうやって屋外スペースを増やすかで、昨年9月から取り組んでいることです。一刻も早く、まず屋外スペースから営業を再開すること。そして、即時(感染)検査にも注目しています。低価格で導入し、実施可能なツールだからです。これまでよりずっと多くの検査が必要になるでしょう。これも昨年10月から取り組んでいることですが、ロックダウンのせいで実行できていません。


秋に屋内クラブを再開するシナリオを考えるなら、ワクチン接種か検査の陰性結果を入店の条件にすることになると思います。クラブをマスク着用+ソーシャル・ディスタンスで営業することは不可能です。ですから、夏以降の屋外から屋内に移るタイミングに大多数の人がワクチン接種を完了しているといいですが、そうでない場合は即時検査がさらなる安全のレイヤーになるでしょう。


クラブをマスク着用+ソーシャル・ディスタンスで営業するという選択肢はないと思っています。食べ物を提供せずにレストランを再開することはないでしょう?それと同じで、クラビングの最も不可欠な要素は密な状態でいろんな人と交流すること。それが提供できないなら開ける意味がなくなります。


これから夏が来るのは幸運です。夏の間に感染者数を抑えながら(屋外)イベントを開催することができます。衛生面に気をつけ、検査もして 人々の安全を守らなければいけませんが、去年の夏より大きな規模でイベント開催はできるでしょう。

(以上)


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