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スポーツに関わりたい看護師こそ、スポーツ医学"以外"の爪から研ぐべきだという話

アスレティックトレーナーになろうと決意したとき、私が思い描いていた理想は、「それぞれの専門/得意分野を生かしたチームで最高の結果を出す」という働き方だった。

その気持ちは今もあまり変わっていない。

私はクライアント(患者)の身体機能やパフォーマンスを、"この手で改善させる"というような働き方を選択していないので、いわゆるアスレティックトレーナーとしては「なんやそれ」って感じかもしれないが、そうじゃない。私がすべきことはそうじゃないんだよな、やっぱり。というのが、資格を取得してから6年、もう迷うこともないくらい確信するようになった。

スポーツ現場で働きたい看護師さんの話はよく聞くし、たまに知人の紹介などでそういう志のある学生さんなどからの個別相談に乗らせていただくこともある。

そこで思うのは、スポーツに関わる看護師は、筋骨格系の解剖やスポーツ傷害についての知識を持っているのはもちろんだが、それ以上に内科的な疾患やフィジカルアセスメントなど、一般的な看護師としての基礎力をきちんと身につけていることのほうが大事だということだ。

スポーツに関わる看護師を目指す看護学生さんとお話をしていると、「やっぱり最初は整形外科で働いた方がいいですか?」と聞かれることがよくある。ほぼ100%聞かれると言ってもいいかもしれない。

実際、私も今、整形外科で働いている。もう基本的には、白衣を着て仕事をするなら整形外科領域一本でやっていこうと思っている。

だけど、医療従事者としての土台を作る時期(=新卒1年目とか)には、ぜひひと通り全身状態をきちんとアセスメントでき、一般的にどんな疾患にはどんな臨床所見・症状がみられるのか、医療機関でどんな検査をし、医師からどのような治療が選択されるのか、どんな経過をたどるのか、などが浅く広くでもわかるような経験をしっかりと積んでおくことをおすすめしたい。

将来看護師としてスポーツに関わりたいと思うなら、なおさらだ。スポーツ現場で!って考えるとまず思い浮かぶような、骨折とか脱臼とか捻挫とか肉離れとか投球障害肩とか野球肘とか、そういうのの診療の場に身を置くのは、そのあとでいいと個人的には思う。

なぜか。理由は主に2つ。

①看護師こそ、スポーツ傷害以外のアセスメントと対応が求められるから

②浅く広く一般的なこと→専門分野に特化という順番で学ぶほうが効率がいいから

それぞれについて詳しくみていく。

①看護師こそ、スポーツ傷害以外のアセスメントと対応が求められるから

スポーツの現場には、自分(看護師)以外にどんな人がいるだろうか。
選手、コーチ、場合によってはチームのアスレティックトレーナー、そして看護師が配置されるくらいならチームドクターもいると考えていいだろう。もちろんイベントなどによって状況はいろいろだけど。

チームのアスレティックトレーナー(PTかもしれない)やドクター(たぶん整形外科医)がいるなら、整形外科的な外傷が起こったときにまず対応できるのはとりあえずその人たちだと思う。彼らはそのためにいるのだから。もちろん看護師は手伝わなくていいという意味ではない笑。できることを全力でやりましょう。

そうではなく、ではなんのためにわざわざ看護師が用意されているのかというと、ざっくりいうと彼らの得意分野ではないことを補えることを期待されている、と考えるのが妥当だろう。

具体的になんだと書き出すとキリがないし、それはその現場の状況やチーム編成によって色々なのでここでは詳しく言及しないが、つまりそういうことである。

大きな病院と違って、スポーツの現場は基本的に少数精鋭だ。他の人とカバーできる領域が被っているのは全く無駄ではなく、むしろちゃんと共通認識を持って同じページで話ができないとよいメディカルチームにはなれないが、まず他の人が得意でないところに強みを持っていることに意味がある。と、私は考えている。それが何かはその人次第、状況次第だ。

ルパン三世のチームに剣士は2人もいらない。一人は剣なら、もう一人は銃で敵を倒し、ひとつの目的に向かって協力して前へ進むのである。

これが、私がクライアント(患者)のトレーニング/コンディショニング指導や、治療的介入を生業にしないと決めた理由の一つである。自分の強みを最大限に活かして効果的に社会に還元するために、周りに流されずに自分が本当に磨くべきものに集中したいと思っている。

②浅く広く一般的なこと→専門分野に特化という順番で学ぶほうが効率がいいから

なんでもそうだけど、浅く広く強固な土台を構築してから、その上にいろんな特殊な知識やスキルを乗せていくほうがスムーズでいい。土台があるから細かい知識もつなげて理解しやすい。

医師だって、研修医の2年間で全科をローテして一通り経験してから、自分の専門科に絞っていくというステップを踏んでいるので、同じような考えである。

特にまっさらな若い頃は、へんなこだわりやプライドなどもなく、素直に環境から学べることを幅広く吸収しておくのがいい、と私は思う。このへんは人それぞれ考え方や好みがあるかもしれないけど。

さらに、これもすごく個人的な意見ではあるものの、看護師のキャリア感でいうと、一度絞ってしまった専門性を経験年数が経ってからやっぱり広げろとなると、なにかと大変だと思う。世の中の看護師クラスタの人間関係も含めて。別に無理だとは思わないけど、順番が逆だったらそんなに苦労なく身につけられるはずなのに、絞っちゃった後からジェネラルなことを学びなおそうとすると、余計な労力が倍以上かかる気がする。これは気がするというだけで、科学的根拠は特にない。うまくいくパターンももちろん全然あるとは思う。

ただ私の感覚では、最初から「整形外科だけ」って絞っちゃうのはかなりマニアックだし、習得できる看護技術が同じ年数の他の看護師と比べると少なくなる可能性が大きいので、後々のキャリアの選択肢を必要以上に狭めてしまうリスクが少々高いと思う。

スポーツやりたいから整形外科だって思いすぎずに、できれば色々なところで働いてみて、自分の興味や気質に合うな、好きだなと思える働き方が明確になってきてから「自分の得意分野はこれ!」って、自分の専門といえる領域をゆっくり絞っていけばいいのではないでしょうか。



私の仕事の目標は、世界のトップ・オブ・トップのスポーツ選手のケアをする活躍がしたいとかではなく、自分の得意を効果的に発揮してチームとしてのパフォーマンスを最大化したい、というものだ。だからこういう道を選択している。

もう、自分以外の何者かを無理に目指そうとも思わない。
今ないスキルを無理して埋めることに時間を使うよりも、今できることをちゃんと活用して伸ばしたい。

その上で、医療に関わらず自分の人生に本当に必要だと思えるものを学び、磨くことにお金とエネルギーと時間を投資したいと考えている。

おまけ

太陽の塔をさがせ

以前ふらりと行ってみた南青山にある「岡本太郎記念館」のお庭。よくみると2階のバルコニーから太陽の塔がのぞいていてかわいい。

◇トップ画は数年ぶりに観戦したBリーグの千葉ジェッツの試合。めっちゃ盛り上がった!

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