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ファンダメンタル分析と将来業績:Abarbanell and Bushee (1997)のレビュー

今回はファンダメンタル分析と将来業績の関連性を検証した著名な論文であるAbarbanell and Bushee (1997) をレビューします。

※Abarbanell, J. S. and B. J. Bushee. 1997. Analysis, future earnings, and stock prices. Journal of Accounting Research 35 (1): 1-24.

最近、筆者が企業の投資水準と将来業績の関連性を日本の上場企業を対象に検証している際に改めて読み直した論文です。

将来業績に与える影響を考察する際に多くの研究で引用されています。

日本の上場企業を対象にした研究は以下の書籍をどうぞ。

財務諸表分析で将来の株価を予測することはできる?

Abarbanell and Bushee (1997) の関心は詳細な財務諸表データ(ファンダメンタルシグナルズと呼んでいます)が将来の業績や株価予測に有用であるかを明らかにすることです。

こうした研究の背景として関連研究が2つほど挙げられています。

①Penman (1992)・・・会計利益を予測することで株式リターンを説明する

②Lev and Thiagarajan (1993)・・・ファンダメンタルシグナルズと同時点の株式リターンを調査する

Abarbanell and Bushee (1997) は会計利益だけでなく「財務諸表から得られる様々な指標」に注目しており、それが財務諸表が入手できる時点だけでなく将来の業績や株価予測にまで有用であるかを調査しているのです。

仮に将来予測に役立つ指標が明らかになれば財務諸表分析の必要性はさらに向上すると考えられます(一方で市場の効率性とのかかわりは常に疑問ですが)。

研究の意義

筆者たちは今回の研究が証券アナリストにとって非常に重要であると主張しています。

「ファンダメンタル・シグナルズと将来利益との関係を検証することで、アナリストがどれだけ効率的にシグナルを利用しているかを評価するためのベンチマークを確立します。アナリストがいかに効率的に情報を利用しているかという問題はシグナルと同時期の異常リターンとの関連性を調べるだけでは解決しません。私たちのアプローチはアナリストが使っていると公言している(またはアナリストが使っていると研究者が公言している)シグナルのうち、どのシグナルが実際に業績予測に影響を与えているかを調べることを目的としています。シグナルと業績変化の関係をシグナルと予測修正(およびシグナルと予測誤差)の関係と比較することで、将来の業績に関する基本的なシグナルに含まれる情報がアナリストの予測修正において十分に活用されているかどうかを評価することができます」(p. 2;投稿者和訳)

Abarbanell and Bushee (1997) で取り上げられているファンダメンタルシグナルズは以下の変数です。

・棚卸資産の対前年度変化(売上高の対前年度変化との差)

・売上債権の対前年度変化(売上高の対前年度変化との差)

・設備投資額の変化(産業の設備投資額の変化と個別企業の設備投資額の変化の差)

・売上総利益の変化(売上高の対前年度変化との差)

・販管費の変化(売上高の対前年度変化との差)(※)

・実効税率

・利益の品質

・監査法人の特性

・従業員一人当たり売上高の対前年度変化

分析結果については「アナリストの予測修正がファンダメンタル・シグナルズに含まれる将来利益に関する情報を十分には捉え切れていないことを示唆しており、株式リターンに基づくテストでは投資家は平均的にこの事実を認識している」(p.2;投稿者和訳) と記述しています。

ファンダメンタルシグナルズが必ずしも将来予測に有用かは不明であり、その機械的な導入には慎重な姿勢を示しています。

この論文が公表されたのは1997年。big dataやAIで話題になる昨今ではさらに精緻な将来予測ができるようになっているものと思われます。興味はつきません。


※・・・日本企業を対象とした販管費に関する包括的な調査については以下の書籍が大変有益です。


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