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「オッサンの放物線」 #8他人のフンドシ

~連続しょうもな小説~
「オッサンの放物線」 第八話 他人のフンドシ

2023年1月3日

昼ごはんは家にいる男子2名の子供を連れて近所のうどん屋へ行った。
ここの鍋焼きうどんは680円とリーズナブルだ。
しかし今日は正月限定の「大海老鍋焼きうどん」になっていて980円。
海老がいつもより大きくなって(いるらしく)、鶏肉が牛肉になっている。
あとは同じ。
微妙な感じやけど。
正月やし。
えっか。
美味しいし。

家に帰って運動着に着替える。
少し走ろう。
最近買ったHOKA ONE ONEの「リンコン」を履いて、SUUNTOのGPSを起動。
ゆっくりと走り出す。
この三年間ほとんど大会に出ていなかったが、久しぶりにフルマラソンを走ろうと去年の秋からペース走(らしきもの)を再開していた。
その矢先のヘルニアだ。
厚底のクッション性の高い靴を買って、GPSウオッチはペースではなく距離を見て「こんぐらいでやめとこう。」と思うために起動させているようなもんだ。
少しランナーっぽくなりかけたが、またジョギングオジサンに落ち着いた。
それでも走る事を辞めないのは、「これ以上腹が出るのが怖い。」という一言に尽きる。
まあ他にも理由はあるにはあるが、取って付けたような格好つけたような後付オプションだ。

腹が出てきたのを気にすればするほど、どんどん腹は出てくる。
こういうのを「引き寄せの法則」と言うのだろうか。
腹が出るのを気にしていなかった頃は、腹は出てなかった。
腹が出たら腹が出てるのが気になった。
腹が出るのを気にしだしたら腹が出てきた。
どっちが先やっけ…。
えーと。
腹が出ましたー。
もうエエ?

どんな距離を走るときも最初の2キロぐらいはしんどい。
そこを越えたら少し走れるようになってきて、10キロぐらいで「もうエエかな」がやってきて、そこを越えたら暫くは「いつまででも走れるんちゃうんかモード」に入る。それでまた20キロぐらいで「もうエエかな」がやって来る。
大体みんなこんな周期で走ってるんじゃないだろうか。

それが最近1キロ刻みで「もうエエかな」がやって来る。
いつからこうなったんやろか…。
どう言ったらいいか、何か調子悪い。
走ることは確かに身体のバロメーターになっている。
でもちょっとややこしいのは「気持ちの問題」が、そのメーターを若干狂わせている。
様な気もする…。

私が走り始めたのはちょうど40歳になった頃だ。
走るのは子供の頃から苦手だった。
運動は週に1回プールで泳いでいたのと、武道の習い事少々はしていた。
ある日インターネットで「オープンウォータースイミング」というのを見つけた。
海でやる水泳大会だ。
中学の頃は水泳部で、速くはないが泳ぐことは好きだ。
早速その年の夏、参加した。
500mの部、年代別4位という中途半端だがまあまあの成績。
続けようと思った。
そして同じ団体が主催するレースで「アクアスロン」というものがあった。
海で泳いでから、走る。
なんかオモロそうやな。
そう思った時には、もう自分が走ることが嫌いだったことは忘れていたのだ。

その日から8年。
飽き性の私としては珍しく続いている。
バロメーターとか言ってるぐらいに。
でも。
バロメーターとか言ってんのに。
どこが調子悪いかいまいち言葉に出来ない。
もちろん首は痛い。ヘルニアやから。
左手が動きにくい。左脚が突っ張っている。
ヘルニアやから?
でも、その前に根本的な何かがあるような気がする。
無いような気もする…。
モヤモヤしながらも、走る。
いつもの神社。やっぱり今日も初詣客が多い。
石段を登るが、参拝はせずに出口へ向かう。
しもた。入らんかったら良かった。

出店の行列に足止めを喰らい、歩いて出口へ向かう。
向かいながらも「いつから、どんな風に」調子悪かったのかを考える。
そう言えば半年前からこんなことがあった。
朝のウンコが必ず2回に分けて出る。
そしてウンコが出ている時の感覚がちょっと解りにくい。
私は職場の同僚に相談した。
「なんかさあ。他人のケツでウンコしているみたいやねん。」
「歳やろ。他人のフンドシで相撲とってるみたいやな。」
「そのうち俺のケツ、ブラック・ホールなるんちゃうやろか。」
「なったら教えて。ぶち込みたいヤツおるから。」
なんのこっちゃ…。

人混みを抜けてやっと神社の外へ出た。
道路にはまだ参拝客が沢山いるので、私はちょっとマイナーな道を選んで走った。
キツめの坂道を登る。
上り坂はリズムで登る。
フッフッフッと息を弾ませて登ると腸のガスが動いた。
ああ。屁が出そうや。
前から人の気配がしたが、上りの最後の一歩で力が抜けてしまった。

「ぷう〜。」

あ。
しもた。
でも、なぜか「ぷう〜。」は前方から聞こえた気がする。
私はゆっくり顔をあげる。
見たことのあるミニスカートが視界に入っていく。

しもた…。
他人の口で屁をこいてしまった…。


つづく。




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