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「オッサンの放物線」 #13怪我の功名

~連続しょうもな小説~
「オッサンの放物線」 第十三話 怪我の功名

〜この物語はフィクションであり、着地点は無い〜

簡単に言うと。
この話は嘘やし、オチもありません。

2023年1月27日

やっとコロナの療養期間が終了し、外出している。
外出と言っても行き先はまた病院だ。
整形外科にMRIの結果を聞きに来たのだ。
結果、腰については既知の椎間板ヘルニア一箇所。
問題の首は、ヘルニア三箇所。
だんご3兄弟のように3つ並んでいた。

「どうしたもんかな〜。」
「什么?」(何が?)
帰り道。私は何故かルカと二人で歩いている。
「手術するか、やめとくか。」
「それは、市民病院の先生に相談してから決めるんでしょ?」
「まあ。そうなんですけどね。」

出来れば初めての方は第一話から読んで頂きたいところであるが、恐らくそうもいかないので簡単に説明する。
このルカというのは顔の下半分が「ケツ」になっている妖怪で、何故か時々片言の中国語を喋る。そして恐ろしいことに、その口と私のケツ、あるいはそのケツと私の口が何らかの形で繋がっている。
そして厄介なのは、どうやら私の心が読めるのだ。

今行ってきた病院は地域の中核病院ではあるが、脊椎の手術はあまりやっていないらしい。主治医の先生曰く、もし手術するなら市民病院などの大きい病院でするべきだと。
そして私の場合、今の症状と手術のリスクを考えてあまりお勧めはしないとのことだった。三箇所治すとなると結構大きな手術になるそうだ。
とりあえず、市民病院への紹介状を書いてもらった。

「確かに、今ちょっと痛みマシなんですよね。」
「コロナで一週間も寝てたからじゃないの?」
「そうなんですよね〜。ところで、何食ってるんですか?」
「这是花生」(これはピーナッツよ。)

手のひらに一粒ずつ乗せては、手を叩いて口に放り込んでいる。
ジャッキーチェンの食い方やんけ…。
しつこいようだが、放り込んでいるその口は「ケツ」なので一瞬ギョッとするが、見慣れてくると目を離せない面白さがある。
「想要吗?」(欲しいの?)
「いや、いいです。」

「ところで、あなたがここへ来る前に家で歌っていたのは何の曲?」
「ああ、聞いてたんですか。あれは昨日自分で作った曲です。old home place。」
「どういう歌なの?」
「まあ。昔住んでた家があった場所の歌ですね。」
「そのまんまね。そして、そのタイトルはパクリね。」
「う。」
「まあ。サビは悪くないわ。」

〜old home place〜

old home place
笑い声だけは
old home place
あの頃のまま
old home place
生きてさえいれば
old home place
そう思いのまま
この広い世界へ翔んでいこう

「なんかね。正月実家へ帰ったり、震災の日があったりして毎年1月になると感傷に浸ってしまうんですよね。」
「別に悪いことじゃ無いんじゃない?あなたはその頃に戻りたいの?」
「まさか。昔のあの街も、その頃の家族もあんま好きではなかったんです。ましてやその頃の自分なんて記憶から抹消したいぐらい嫌いですね。」
「それでも、その地に立つと懐かしいのね。」
「ええ。なんか矛盾してますよね。」
「素晴らしいじゃないの。過去に捕らわれ過ぎず、未来に期待し過ぎず、思い出を原動力に今日を生きる。それで良いんじゃない?」
「ルカさん…。ピーナッツちょうだい。」

ルカに貰ったピーナッツを手のひらに乗せて叩いてみた。
上手く入らない。
もう一粒。
ダメだ。
「口の近くまで来たら、思いっきり吸うのよ!」
(どんな吸引力やねん。しかもケツやし…。)
「ダイソンと呼んでちょうだい。哈哈哈哈哈。」
「ケケケケケ。」
家についた頃、ルカはどこかへ消えていた。

2023年2月7日

首の調子はさらに良い。
仕事中もほとんど痛み止めを飲まずにやれている。
手のひらの感覚が鈍いのと神経痛があるが、なんとかやり過ごせる程度だ。
実はずっと寝ていた以外にも思い当たるふしがある。
咳が止まらなくて、腹筋がガチガチに筋肉痛だったのだ。
お陰でちょっと腹が凹んだ気がして、それからほぼ毎日腹筋運動をしている。
多分、姿勢がちょっと良くなっているんだと思う。
あとは首の可動域が拡がれば申し分ない。
そうだ。あの人に頼もう。

夜勤明け。
私は車で友人の治療院へ向かった。
実は友達にゴッドハンドの鍼灸師がいる。
コロナで走れなかったマラソン大会の話など、ちょこっとお話しながら治療してもらった。
もっと早く来ればよかった。
思惑通り、首がグイングイン回るじゃないか。
ケケケ。

家に帰って、少し昼寝しようとベッドに入った。
首の調子が戻れば、来月からトライアスロンの練習会にも復帰しよう。
そして…。
少し前から考えていたこと。
やるなら今だ。
こういうのは、気持ちが上がっているうちに風呂敷を広げるのだ!
勿体つける訳では無いが、まだ始まっていないので今は言わない。
30年前の忘れ物を拾いに行く。
私は申し込みメールを送った。
さあ、少し眠ろう…。

天井から蜘蛛男の「あーにゃん」が舌を伸ばして柿の種を一粒取った。
「あーにゃん。ジャッキーチェンの食べ方、教えたろか。」


つづく。