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「オッサンの放物線」 #10ベクトル

~連続しょうもな小説~
「オッサンの放物線」 第十話 ベクトル

2023年1月3日

結局ルカと二人、リビングでたこ焼きを食べている。
家には誰もいなかったのだ。
妖怪とはいえ、女性(多分)と二人で自宅でたこ焼きを食べているのは変な気分だ。

「今、女性と二人で家でたこ焼き食べてる事に違和感を感じたでしょ。」
「すいません。ちょっと感じました。」
なんで分かるんやろ…。
「コレならどう?」
ルカが両手を広げると、頭から腰まで放射状に沢山の腕がズラリと並んだ。
そう。千手観音の様に…。
「あ。ありがとうございます。」
余計、違和感増したけど。
そう言えば、さっきジョギング中に屁をこいた時、確かにあの口(ケツ)から出たよな。
どないなってんやろか…。

2つ目のたこ焼きを口に含んだルカは小さな声で呟いた。
「好吃。 」(美味しい。)
「え?中国語話せるんですか?」
「少しね。あなたは?」
「ごく簡単な日常会話だけです。」
「そう。検定は?」
「HSK3級です。口語試験の初級は落ちました。」
「あらそうなの。中途半端ね。」
腹立つわー。
「今、腹立つわー。って思った?」
「不好意思。」(すいません。)
「你为什么学中文?」(あなたは何故中国語を勉強するの?)
「実はね…。」
私はルカに中国語を勉強し始めた経緯を話した。

概略はこうだ。
私は高校生の頃韓国人の友達がいたので、少しだけ韓国語を勉強したことがあった。
この歳になってその事を思い出し、韓国語をもう一度勉強しようと思った。
色々調べると「言語交換アプリ」というものがあって、SNSで世界各国のネイティブとお互いに言葉を教えあえるらしい。
私はすぐに登録して韓国人の友達を探した。
しかし、そのアプリ内は学生が多くて50前のオッサンを相手にしてくれる人は中々いない。
私は学習言語を「韓国語」だけに設定していたのだが、ある日突然中国人の女性が「あなたは中国語に興味がありますか?わたしは中国語を教えます。あなたは日本語を教えて。」と、自動翻訳機能を使ってダイレクトメッセージを送ってきた。
最初はやんわり断ったのだが、あまりの熱意に一緒に勉強を始めることになったのだ。
それから一年、その女性は日本語の勉強をあまりしなくなったが、私の方は他にも中国人の友達が増えて楽しくやっている。

ルカは頬杖つきながら、私の話を聞いていた。
その頬杖ついている手は何本目の腕なんだろう…。
気になったら、ルカがチラッと手の甲を見せた。
うっすら「35」と書いていた。
どっから数えて35やねん…。
話を聞くルカの顔を見ていると、「なんか。綺麗な目、してるんやな…。」って思ってしまった。
あかん。あかん。あかんぞー!
色んな意味であかん。

その時、私の後ろで「ガシャーン!!」と金物の食器が落ちる音がした。
どうせ猫のサスケが何か落としたのだろう。
振り返ると、案の定サスケがサーッと走って行くのがみえた。
やっぱりな。私が向き直ると。
!!!
ルカの目玉が向かって右方向に1.5mぐらい飛び出している。
私の背中越しに後ろを見ているのだ。
前言撤回!「綺麗な目」もクソもないがな。目玉と脳ミソ繋いでる筋ってあんな色してたんや。気持ち悪いのー。

「気持ち悪いってなによ!」
「不好意思。」
完全に心読んどるな…。
私はたこ焼きを一つ口に入れた。
もう、だいぶ冷めてきているので一口だ。
ルカは立ち上がって、トイレの方へ向かう。

「あ、そうそう。私の口とあなたのオシリが繋がってるかもって件だけど。」
「对。对。对!気になってたんです。ソレ!」
「逆方向もあるかもよ。」
「什么?」(なんて?)

逆方向?
どっちから、何を見て逆方向?
俺の口?ケツ?あのケツ?口?
私は口の中のたこ焼きをゆっくり咀嚼しながら考えた。

ルカがトイレの扉をパタン!と閉めた。
「ちょ、待てよ!!」
前世紀末のドラマの声が出た。

つづく。






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