森絵都著 『ブレノワール』を読んでガレットを食べたくなった話
1・前置き –この感想はネタバレ含みます!
この記事は『チーズと塩と豆と』というアンソロジーに収録されている、森絵都の『ブレノワール』に関して書いたものです。
一般的な感想とはちょっと異なり、作中の料理に着目して書いています。
なぜ料理なのかというと、2020年10月18日に足立区立舎人図書館で開催する「本と、おしゃべりと、」というイベントのテーマが「小説の中のひと皿」だからです。
そのため、登場する料理にガッツリネタバレします。
ネタバレ無しで作品を味わいたい方は、いったんこの文章を離れて、作品読了後にこの記事に戻ってきていただけると嬉しいです。
2・前半では主人公にとって「避けたい料理」として登場するガレット
本作はフランスのブルターニュ地方に生まれた男性が主人公の話です。
物語の中で、ガレットというデザートメニューがしばしば出てくるのですが、最初はどちらかというと「美味しくないもの」として描写されます。
ガレットってカフェでも扱っているのは見かけますが、私はまだ食べたことがありません💦
検索すると、肉やキノコ、チーズなどを載せて食事として出している店もあれば、フルーツやクリームを載せてデザートとして提供している店もあります。正直とても美味しそうです。
作中でガレットはクレープの一種と紹介されていますが、小麦粉と砂糖を使った甘味がある一般的なクレープとは違って、地味でしょっぱいだけのものと扱われています。
本作では材料を「黒麦」と表現していますが、黒麦というのは日本で言う「そば」です。
物語の舞台ブルターニュ地方は、日照が少なく土地も痩せているので小麦粉が育たず、黒麦(そば)の栽培が盛んだったことからそばのガレットは郷土料理として知られています。
日本ではガレットはオシャレな一品というイメージが強いですが、主人公が子供のころから食べていたのは心おどるトッピングなどない、超地味なガレットです。
日本のそばにも高級感があるイキでイナセな印象がある一方、スーパーで3玉100円くらいで売られているイメージもありますよね。安いそばも工夫すれば美味しく食べることができますが、具が無い状態、毎日同じ味付けで食べていたら正直なところ誰でもうんざりするでしょう。
主人公にとってのガレットは、毎日食べさせられた、何の工夫ない安いそばに当たり、イナカの「つまらなさ」と「貧しさ」の象徴になっているのです。
3・読み終わったら「ガレットを食べたい」と思わせる、森絵都の表現のうまさ!
ぜひ作品を読んでいただきたいので細かいことは書きませんが、物語の中盤で主人公は「ガレット」に関係したある事柄で母親と決定的ないさかいを起こします。
その後は母と合うことなく、きらびやかなパリで一流シェフを目指すのですが、いろいろな体験や母の死、一人の女性との出会いからガレットを見つめ直します。
そして、主人公が地味で不味いものの象徴と思っていたガレットを、工夫を凝らした一品として自分の店で出そう、と思い立つ瞬間があります。
「地元のビーツやアーティチョークと組み合わせ」た「サラダ風の前菜」が登場するシーンを読むと、おなかが鳴る音とともに「ガレット、マジで食べたい!」と思いました。
飲食アプリで見ても近くにはなかったのでまだ実食していませんが、来週あたりGo To Eatを利用して友人と行ってみようと計画しています。
4・本作のもう一つのポイント:そばという植物
主人公の母親の象徴として扱われているそばの花を、本作を読んで初めて検索して見ました。決して目立つ花ではないですが、白い5枚の花びらが印象的です。
物語の前半で、主人公は母親を古い慣習にとらわれた口うるさい人と感じていますが、実は自由気ままな生き方をしていた時代もありました。『奔放な躍動に命の力が漲(みなぎ)り、日だまりにも似た光の粉をむせかえらんばかりに発散する』というそばの葉の描写が美しく、自由だった母親のはつらつとした姿が、読んでいる私たちにも想像できます。
中盤まで生きることの窮屈さを描いていた物語が、ふわっと解放されて、カタルシスを得られる瞬間です。
私は森絵都作品が持つ、地味だけどしっかり生きているキャラクター像を好んでいますが、この作品もそんな魅力にあふれています。
ちなみに、物語には出てきませんが、そばの花言葉には「幸福」、「懐かしい想い出」「あなたを救う」「喜びも悲しみも」などがあるそうです。
『ブレノワール』の物語にとても合う花言葉なので、もしかしたら著者はこの花言葉を知って書いたのかもしれません。
5・まとめ~ 森絵都著 『ブレノワール』、ぜひ読んでみてください
森絵都著 『ブレノワール』は、ベテラン女性作家4人がヨーロッパを舞台にして「愛と味覚」をテーマに描いたアンソロジー『チーズと塩と豆と』に収録されています。
今回紹介した森絵都の作品以外に、角田光代、井上荒野、江國香織の小説が読めるので、ぜひ手に取って見てください。
なじみが無い作家の作品も入っているので買ってまで読むのはどうだろう? と考える人は、ぜひ図書館での貸し出しを利用してください。
出版業界も図書館業界も全力応援中!のゆっきー舎 小柳でした ( ´∀` )
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