雪柳 文

書くより読む方が好きな小心者。あなたの目に留まったことを嬉しく思います。どうぞよろしく。

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最近の記事

ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド

惚れた相手を手に入れたいと思うのは、人間の業であろう。 人の心は金では得られないが、幸いにも私が惚れた相手は植物であった。 私は金の力で惚れた相手を手に入れたのである。 私が一目惚れをしたのは、つるバラのギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンドである。 一昨年、念願の庭付き一戸建て住宅に引越し、昨年12月にギスレーヌの苗を迎えた。 そして今年5月、我が家での初めての開花シーズンである。 愛らしい杏色の蕾が開くと徐々に白く変化していく。 朝、杏色で開いた花が夕方には桃色に、あるいは

    • 一目惚れ

      一目惚れをした。 前回の一目惚れはかれこれ20年以上前で、相手は現在の夫である。今回のお相手は、つるバラだった。その名をギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンドという。 愛しのギスレーヌちゃんは、杏色から白色に花の色が変化していくバラ…と聞くのだが、杏色の蕾が開くと、花の色は白色であったり、杏色であったり、薄桃色であったりする印象である。蕾は全て杏色であるので、本当は全て杏色で花開き、瞬く間に色変わりしているのかもしれない。 小柄な花が房状に咲く。棘もなく、葉の色は明るい緑で、あどけ

      • プールへ行く

        この2年、コロナ禍でプールに行っていない。 ネットで調べてみると、プール自体は塩素が添加されていて感染リスクは低く、どちらかというと人が密集しがちな更衣室の方がリスクがあるらしい。 思い切って子供を連れてプールに行くことにした。 更衣室ではマスクである。シャワールームは感染防止対策で使用不可。屋外のシャワーは使える。有料席は、席と席の間にビニールシートが固定されている。 天気が良く、たくさんの家族連れが思い思いにプールを楽しんでいる。 水に入るので、みんなマスクをしていな

        • 子猫

          子猫の声がする。 先程から不規則に声がしている。 その都度、網戸越しに猫の姿を探すのだが、夕闇に紛れて見つけられない。 そのうち日が暮れて声も止んだ。 翌朝、再び鳴き声がする。 外に出てみると隣家の裏手、我が家との柵越しに子猫が一匹いた。 白地に橙色の斑がところどころに入った子猫である。 私の顔を見て上目遣いにこちらの様子を窺っているが、「あなたどうしたの?ママは?」と声をかけると一目散に逃げた。 走る気力があるのなら大丈夫だろう。心配な気持ちを無理に押し込めるがやはり気

        ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド

          まぐろを煮る

          生の魚が苦手である。 食感がどうにも駄目なのだ。喉につっかえる感じがするのである。奴らは、私がまだ噛んでいたいのに、つるりと喉の奥に滑り込もうとする、気がする。 刺身用のまぐろのサクを買った。特売だったのだ。だが、私は刺身を上記の理由により食べない。 なので、煮る。 砂糖とみりん、酒、醤油、生姜でグツグツ煮てしまうのだ。水は入れない。照りが出るまで煮詰めるのだ。 刺身でも食べられる魚を煮る、このちょっとした背徳感・罪悪感。 落とし蓋の豚が汗をかいている。 私の代わりに

          まぐろを煮る

          運命の梅干し(ファムファタール)

          NHKの所さんの番組で、「最近の若者は梅干しが嫌いで、梅おにぎりが売れない。」と言っていた。 コンビニでおにぎりを買うときには、まず紀州南高梅を選ぶ私にはカナシイ情報だ。セブンイレブンの期間限定、梅おかかも大好きだ。 一時期、梅干しを自分で漬けていたこともある。でも、カビを恐れすぎてホワイトリカーをつい多めに使ってしまうようで、どうもイマイチな仕上がりになってしまう。 私は自分で漬けることを諦めて、スーパーで梅干しを買うことにした。 ところが、スーパーの棚に並ぶ梅干した

          運命の梅干し(ファムファタール)

          春の訪れ

          その昔、某テーマパークで桜の植樹ができた。 1万円払うと、枝垂れ桜か八重桜のどちらかの苗木の前に、メッセージプレートを建てることができて、さらに10年間の入園料が半額になる。 メッセージプレートは10年後には外される。 ほぼ毎年、春になると出かけて行った。 枝垂れ桜や八重桜は、ソメイヨシノより開花時期が遅くて、4月半ば頃でも観ることができた。 結婚を祝うプレートが多かったように思う。ほうほう、とプレートを読み、桜を見上げる。ひょろひょろと頼りない木もあれば、しっかりと枝を

          春の訪れ