1本のシャーペンに込められた、2人の男性の思い出
思い出のシャーペンがある。1本200円で買える普通のシャーペンだけど、あのシャーペンには2人の男性の思い出が詰まっている。
シャーペンを買ってくれたのは父だった。父がわたしにプレゼントをくれるのは、特別珍しいわけではなかった。出張帰りには、よくキーホルダーやお菓子を買ってきてくれたから。ただ父が買ってくれたシャーペンが特別な存在になったのは、父が文章を書くフリーライターの仕事をしていたからだと思う。
物書きにとって、シャーペンは命のような存在だ。私が小学生だった時、喧嘩した腹いせに父のシャーペンを隠したら、いつもは温厚な父からこっぴどく怒られた思い出がある。本当に大事なものなのだ。だからこそ、父がシャーペンを贈ってくれたのが嬉しかったのかもしれない。父は受験に関して、一切何も口出ししてこなかった。それでも父からもらったシャーペンを使っていると、応援されているような気持になれた。
受験本番、どの大学の試験もお気に入りのシャーペンを使って挑んだ。結果は見事合格、本命から滑り止めまですべて合格する快挙だった。ここまでいい結果が出るなんて、、大人しい父もこの時は思いっきり喜んでくれたっけ。
この合格を機に、あのシャーペンは願いをかなえてくれる縁起のいい存在へと変化した。
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受験で結果を出せた私は、今度はシャーペンで恋愛成就を狙った。来年受験を控えた好きな人に、縁起のいいシャーペンをプレゼントして親しくなろうとしたのだ。
好きだった人は、難易度の高い国立大学を受験する予定だった。そこそこ高望みした志望校だ。でもその人にどうにか合格してほしかった私は、あのシャーペンをお守り代わりとしてプレゼントする作戦を思いついた。「実はこのシャーペン使ってほとんど受験合格できたんだ。縁起がいいと思うからあげる」そう言って、好きな人にプレゼントした。今思えば気持ち悪いけど、当時はただ好きな人に喜ばれたい一心だった。その人は嬉しそうにお礼を言って、シャーペンを受け取ってくれた。
好きだった人があのシャーペンを使ったかは分からない。結局、その人は秋頃にその人は志望校のランクを落とした。その大学も、結局不合格になった。その人を励まそうとしていた矢先、あんなに優しかった好きな人から冷たく振られてしまった。
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あのシャーペンは結局、縁起がいいものじゃなかった。
シャーペンをあげた人には振られるし、シャーペンをくれた父は食道がんで3年前に亡くなった。あのシャーペンに関わった人間は、わたし以外いなくなってしまったのだから。
ただあのシャーペンをもらったことも、あげたことも、両方後悔はしていない。父がわたしにシャーペンを買ってくれたから、そして好きな人のためにシャーペンを買った私がいたから、今の自分がいる。1本のシャーペンを通して、大切な愛と触れ合えた。もう二人とも近くにはいないけど、それで十分ではないか。もしわたしのことばが届くなら、2人に「ありがとう」と伝えたい。
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あのシャーペンを手放してから、もうすぐ10年が経つ。
26歳になった私の手元には、自分で買った1本1,000円のシャーペンと、夫からプレゼントしてもらった高級ボールペン。あのときの面影は、もうどこにもない。
でも、これでいい。シャーペンの思い出を胸に、私は前に進む。
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たまたま見つけた非公式?のお題。自分のためにあるテーマかと思った(笑)
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