フリーランスエンジニアの法人化のメリット・デメリットを徹底解説
「今までフリーランスをやっていたけど、稼ぎが安定してきたので法人化したい」と思っている方はいると思います。
とはいえ、会社設立周りの知識は学校では教えてくれませんし、「会社作るってどうすればいいの?リスクあるんじゃないの?」と不安になってしまいますよね。
私は2016年1月にフリーランスエンジニアとして開業し、2017年7月に個人事業主から法人成りを行ったので、その経験を元に記事を書くことにしました。
これから法人成りを考えている方の参考の一つになれば幸いです。
法人成りするにはどれくらいの稼ぎが必要か
個人事業主から法人成りをする、その損益分岐点は人によってまちまちで、利益400万から法人成りしたほうがいい、という人から1500万くらいまで必要ない、という方もいます。
ざっくり意識するべきラインとしては、売上に消費税が課税される「年商1000万」というラインがあると考えています。
自分は2017年時点で売上が1000万を超えそうな見込みだったので法人化に踏み切りました。
とはいえ、法人化には節税という側面もありますが、後述するように社会的信用の向上や会社周りの知識が身につくなど、額面では計れない面もあるので、あまり厳密に損益分岐点を議論する意味はないと個人的には考えています。
合同会社・株式会社どちらを選択するべきか?
法人成りするときに検討できる会社形態としては合同会社と株式会社の2つです。厳密には他の会社形態もありえますが、メリットはほとんどありません。
合同会社は設立費用が安く、決算の公表義務がないというメリットがあります。
一方、出資者と経営者が密に結びついてしまうため、VCなど第三者からの出資を受けづらいというデメリットがあります。
合同会社から株式会社にすることもできますが、そのときには追加費用を支払う必要があります。
「今後も出資を受けたり、会社を売却することは想定せず、節税のためだけのプライベートカンパニーとして運用する」場合ならば合同会社のほうが良いかと思います。
実際、不動産管理のためだけの個人会社などは合同会社で設立されるケースをよく聞きます。
AppleジャパンやGoogle日本法人やDMMなど、皆が知るような会社でも合同会社の形態を取っているところもありますが、このケースは株式公開による資金調達など必要ではなく、営業利益と借り入れだけで完全に会社の運転資金と投資CFを賄えるケースです。
株式会社を設立する場合、合同会社よりも設立費用が高く、決算公告などのコストもかかってきますが、株式の譲渡による資金調達などがしやすく、合同会社よりも社会的信用は高めです。
私の場合は「まだ出資などを受けて成長するケースを切り捨てたくないな」という思いがあり、株式会社を選ぶ選択をしました。
人によっては合同会社のほうが適している場合もありますし、自分の指向性や状況によってどちらの会社形態を選択するかは変わると思います。
さて、次の段落以降で法人成りのメリット・デメリットを比較していきましょう。
法人成りのメリット1:社会的信用が得られる
人間の思考プロセスというのは不思議なもので、一人で動いていても個人事業主より法人の方が信用される傾向にあります。(個人事業主のほうが無限責任なので実際の責任は重いと思うのですが、人間の信用形成メカニズムは不思議なものです)
クライアント如何によっては単価にダイレクトに響いてきたり、法人というだけで個人では取引できなかった相手とも取引ができたりします。
会社という体裁を取るだけで信用を得ることができ、良い条件で仕事を取れるチャンスが広がるのでこれは明確なメリットの一つかと思います。
法人成りのメリット2: 個人事業主の無限責任から、有限責任へ
個人事業主は法的には無限責任であるため、万が一取引先に損害を与えてしまった場合、自分の貯金や家などの資産も差し出してでも債務を弁済しなければいけないということになっています。
事業のための借り入れをする場合にも、「個人の借金」になってしまうので万が一事業に失敗すると債務はすべて自分が払う必要があります。
しかし、法人化して会社として取引をすれば、前述のような事態が起きても株主である私個人は「出資金が返ってこないことを受け入れる」だけですみます。
個人として受け取った役員報酬を返上して会社の債務の弁済にあてる義務はないということです。
借り入れに関しても(私個人への個人保証を例外的に明記していない限り)、会社が倒産した場合は債権者には諦めてもらうしかないです。(もちろん、倒産するとお互いにマイナスなので、それを回避し続けるための経営努力は必須ですが)
これだけ聞くとなんだか無責任のように思えますが、会社というのはそもそも「リスクを限定・分散することで、不確定で大きな利益を取りに行く」仕組みなので、そういうものです。
法人成りのメリット3: 消費税が2年間免税される
ある程度稼ぎのあるフリーランスならば、「消費税が課税されるライン」として、年商1000万を意識する方は多いかと思います。
法人成りした場合(資本金1000万円以下等様々な要件はありますが)会社設立から2期の間は消費税が免税されます。
私の場合は稼働を下げて毎年1000万以下になるように調整することもできました。
が、「仕事を止めることになるのでクライアントへの信用上よくない」と思ったので、「もう突き抜けるしか無い」という感じです。
法人成りのメリット4: 役員報酬は給与所得控除が適用され、さらに会社の損金として計上できる
建前上、たとえ一人会社であっても「会社」と「個人」は明確に分離されています。
なので、私個人は会社から役員報酬を毎月給与として受け取る形になります。
給与扱いなので、給与所得控除が適用され、かつ会社の損金として計上することができます。
フリーランスに比べてサラリーマンが優れている点の一つとして「給与所得控除で税金が安くなる」という点が挙げられますが、会社役員になると実はこのメリットを享受することができます。
ずるいと思いましたか?もうそう思ったなら、今すぐあなたも会社を作りましょう。
法人成りのメリット5: 経営を一人称で体感することができるので勉強になる
会社を作って実際に自分で小さいながらも運営をしていると、やはり本で読むより知識の定着度が高く、自分の言葉で会社の仕組みについて説明できるようになります。
法人成りのデメリット1:役員報酬は1年間変更することができない
会社から個人に支払う役員報酬は会社の期の最初に設定する必要があり、よほどの事情がない限り途中で変更することができません。
売上に対して役員報酬が少なすぎれば、個人として使えるお金が少なくなりますし、会社として黒字になったぶんは法人税として持っていかれます。
法人税は営業利益800万/年までは23%ですが、超えると33%になってしまうため、基本的にはこの数字を意識しながら調整していくことになります。
逆に役員報酬が高すぎると、法人税の支払いは少なくすることができますが、後述する厚生年金と個人の所得税が上がります。
また会社が赤字になってしまった場合、会社として銀行融資などを検討している場合にはマイナスポイントとなりえます。
難しい点としては「一年後の未来なんてわからないのに、一年間の給料を自分で決めなければならない」という点で、これは結構頭を悩ませる問題です。
ある程度は予測するに足る材料を集めて、最後はエイヤで決めるしかないです。
法人成りのデメリット2:社会保険料が(とんでもなく)高い
「消費税増税」ばかりがメディアに取り沙汰されるその裏側で、社会保険料は年々値上がりしています。
一人会社であっても社会保険への加入は義務となっているので、この支払いを逃れることはできません。
特に個人事業主から負担が増大するのは厚生年金です。(健康保険料は個人事業主を今までやっていた方なら全額負担している前提なので、ほぼ変化は無いかと思います)
個人事業主の年金は国民年金なので、月16490円固定だったのですが、会社を作ると役員報酬を月20万にした場合でも月36600円の厚生年金を支払う必要があります。
厳密には会社と個人で折半負担なのですが、一人会社の場合は自分ひとりで負担しているのとほとんど同じです。
私は法人成りした初年度の役員報酬を月54万、年収654万にしていましたが、計200万近く社会保険料を納めることになってしまいました。
役員報酬を決定するときには下記の保険料額表とにらめっこしながら決めることになります。
法人成りのデメリット3:赤字でも税金を支払う必要がある
個人事業主の場合は、赤字(売上から経費を引いた数値がマイナス)だと課税されませんが、法人の場合は赤字であっても7万円の税金を支払う必要があります。
代わりに、個人事業主の場合、損益通算の範囲が3年であったのに対し、法人の場合は損益通算の範囲が9年になります。
法人成りのデメリット4: 税務処理は税理士に任せないと厳しい
個人事業主の税務処理は、簿記三級程度の知識があれば回せるので、勉強すれば自分だけでなんとかなる範囲です。
株式会社の税務処理は簿記二級程度の知識が必要になってきて、よほど簿記が得意な人以外は厳しくなってきます。
なので、基本的には法人成りした後は顧問税理士に見てもらったほうがいいですね。
私も顧問税理士にお願いしていますが、話していて学ぶことも多く、顧問料を払って損はないと思っています。
まとめ
・1000万超えが見えてきたら法人化を見据えて
・株式による資金調達をしないなら合同会社が安くてお得
・法人成りすると信用UP、免税措置、節税、有限責任になるメリットが
・しかし、役員報酬固定、社会保険料UP、赤字でも納税、税務が複雑化するデメリットも
さらに知りたい方は
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