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大学受験数学の標準的な勉強法


はじめに

 数学は、人によって好き嫌いがかなりはっきり分かれる科目だと思います。受験で選択しないという選択肢もありますが、数学を選択することで受験の幅は大きく広がります

 今回は主要三教科の3つ目となる大学受験数学の標準的な勉強法を扱っていきます。数学の他に、英語現代文古文漢文世界史地理の標準的な勉強法についての記事もありますので、もしよければそちらも参考にしてください。


 毎回同じような説明をしていますが、改めて述べておきます。

 ここでは、広く受け入れられていそうな参考書や考え方を紹介していきますので、特に目新しいことないかもしれません。私が個人的におすすめする参考書や勉強法については、別の記事を書く予定です。また、「勉強法」とどう向き合うかについては『自分に合った勉強法や参考書を見つけるためのヒント』を参考にしてみてください。


 まず、ここで紹介する勉強法は、高校入学から大学受験直前までの期間を想定しています。つまり「このランクの大学を目指す人向け」といったレベルは設定していません。その分、大まかな流れを示すに留まっていますがご了承ください。

 世界史などの他の科目とは違って、数学は志望大学によって勉強の方向性が大きく変わることはありません。つまり、大学を問わず同じ流れで勉強を進めるけれども、志望大学のレベルによって、ここで示した流れの内の「どこまで進められるか」という完成度が変わってくるということになります。


 また、高校の先生の方針や予備校のカリキュラムをそれぞれが抱えていると思いますから、ここで示す流れの通りに進まなくとも気にしなくて構いません。それぞれに得意不得意もありますから、これから示す勉強の流れや参考書のすべてをやる必要はありません

 なお、私は文系で、理系数学については大学入学後に自分で勉強しただけで、受験では選択していません。その点だけご了承ください。


 数学については、好き嫌いが別れることと相まって、いくつか流れが分かれています。まずはそれについて説明していきます。


受験数学の勉強の大まかな流れ

基礎固め

 受験数学の勉強をどういうルートで進めるのかについては、時期と戦略、成績によって変わってきます

 たとえば、時期は「高1~高2夏前」と「高2秋以降」、戦略は「数学を得点源にしたい」「数学は足を引っ張らない程度にして他の科目で稼ぐ」、成績は「かなり良い」「普通」「あまり良くない」に大雑把に分類して、それらを組み合わせて考えてみましょう。

 「高1~高2夏前」で、「数学を得点源にしたい」のであれば、まだ時間がありますから、網羅系問題集を使って演習量を増やしながら勉強を進めていくのが良いでしょう。

 「高1~高2夏前」で「数学は足を引っ張らない程度にして他の科目で稼ぐ」のであれば、網羅系参考書を例題を中心に解いていくのでも、「数学問題精講」シリーズでじっくり基礎を固めるのでも、どちらでも良いでしょう(最難関大志望者は「足を引っ張らない程度」でも網羅系参考書が良いです)。

 「高2秋以降」で「数学を得点源にしたい」場合は、成績が「普通」なら「1対1対応の演習」シリーズでもう一度基礎固めをしてから応用系問題集に入りましょう。「かなり良い」なら基礎点検を飛ばして、応用系問題集や過去問を解いていっても良いでしょう。

 一方、「高2秋以降」で「数学は足を引っ張らない程度にして他の科目で稼ぐ」場合は、時間があまりないですから網羅系問題集は解けません。成績が「普通」なら「1対1対応の演習」シリーズでもう一度基礎固めをして応用系問題集はスルーしてもかまいません。成績が「あまり良くない」なら、「数学問題精講」シリーズに急いで取り組んで基礎を固めていくことになります。

 ざっくり示せばこんなところになります。これはイメージを掴むためにかなり単純化してしまったので、ここから詳しく説明していきます。

 この説明で伝えたかったことは、基礎固めには「網羅系問題集ルート」「1対1対応の演習ルート」「数学問題精講ルート」のようないくつもの道があり現状や目標に合わせてまずはそれを選択する必要があるということです。

 まずは基礎を徹底的に固めていくことが大切です。


応用問題演習~過去問演習

 基礎が固まってきたら、応用問題演習に入っていくことになります。ここで、難問と立ち向かう考え方を身に付けていき、入試レベルの問題に慣れる必要があります。

 そして応用問題演習をある程度積んだら、過去問演習に入っていくことになります。大学によって、同じ傾向の問題、同じ考え方の問題が頻繁に出題されることもあります。それをつかみ取れるようにしましょう。

 応用問題演習、過去問演習をどのくらい積むかは、戦略によって変わってきます

 「本当に数学が苦手で、基礎固めを終えたあと応用系問題集を1冊解いてあとは直前に過去問演習を少しやって残りの時間を他の科目に割く」という人もいます。逆に、「本当に数学が得意で、基礎固めを早い段階で終わらせて応用系問題集も何冊も解き、過去問も数十年分解く」という人もいます。

 自分がどういう戦略をとるのかを考えてみましょう。ただ、数学に限らず言えることですが、大学受験においては、苦手科目を作らずバランス型を狙う方がはるかに安定します

 「この科目でほぼ0、あの科目でほぼ満点」というような戦略をとると、模試などで上手く行っても受験本番で上手くいかないリスクも上がります。数学が苦手でも何とか足を引っ張らない程度まで伸ばしましょう


ⅠAⅡBⅢCの分類ごとの流れ

 ⅠAⅡBⅢCごとの流れについても説明を加えておきます。

 基本的には、高1でⅠA、高2でⅡB、高3で理系はⅢC(文系は総復習)を扱うことになるとは思いますが、新課程の導入もあって少し流動的かもしれません。中高一貫校では、中3でⅠA、高1でⅡB、高2で理系はⅢC(文系は総復習)となります。最難関大学を目指す人は予備校に通いながら先取りで勉強を進めることも多いでしょう。

 ⅠAがⅡBの土台に、ⅡBがⅢCの土台にあるという形です。そのため、それぞれ土台をある程度固めてから次の範囲に入っていく必要があります。

 ただ、そうはいっても、ⅡBをやっていればⅠAも完成してくるという類のものでもないため、ⅡBの1周目をやりながらⅠAの復習は必要になるし、ⅢCについても同様です。

 また、同じ数学という科目であるとはいえ、たとえば微積をしばらくやっていないと計算でミスをしやすくなったりもします。毎日全分野やるとは言わずとも、できるだけ頻繁にいくつもの分野に触れながら、少しずつ全体の完成度を高めていきましょう

 以下では、まずその3つのルートについて詳しく説明していきます。そして次に、応用問題演習について参考書を紹介しつつ説明していきます。


各分野の勉強に使われる参考書と注意点

 先ほど述べたように、3つのルートがありました。まずはそれについて説明していきます。

網羅系参考書を使うルート

 ここで、網羅系参考書とは、よくある数学の分厚い参考書のことを指しています。これから参考書の紹介に入るのですぐにわかるかと思います。

 網羅系参考書は、その一冊だけで初めから入試本番まで使えるような参考書です。一から丁寧に解説してあるため勉強を始めやすい上に、例題だけでなく練習問題など問題数が豊富で演習量が積みやすく、章末や巻末の問題で入試対策までできます。

 しかしその分、かなり分厚く、終わらせるのも大変です。また、ある程度早い時期から始めないと終わらせることができません。そのため、最難関~大学の志望者や、数学を得点源にしたい方が高1、高2夏前から始めるのに適した参考書と言えるでしょう。

 巻末にある問題集は、この記事における「応用問題演習」に相当するものです。網羅系参考書のその問題を利用して演習をしてもよいし、新しい参考書を買うのでもどちらでも構いません(後述)。


 それでは、代表的な4冊の参考書の紹介をしていきます。

 まずは、極めて評価の高い参考書である、チャート研究所(2022-2023)「青チャート」シリーズ(数研出版)です。「基礎からの」とあるように、基礎的な内容も丁寧に書いてあって、これを使っておけば間違いはありません。

 「チャート式」シリーズが好きで、ただ「青チャート」より難易度の高いものをやりたいという方には、加藤文元・チャート研究所(2022-2023)「赤チャート」シリーズ(数研出版)が良いかもしれません。

 「チャート式」ほどの歴史はないものの、超難関大学志望者に人気のある「Focus Gold」シリーズ(啓林館)もあります。リンクの都合上、上手くタイトルが表示されていないのですが、上から順に「数学Ⅰ+A」「数学Ⅱ」「数学B+C」「数学Ⅲ」です。書店にて購入できます。

 これまでの3シリーズと比べると少し知名度は落ちますが、同じく網羅系参考書として、ニューアクション編集委員会(2022-2023)「NEW ACTION LEGEND」シリーズ(東京書籍)もあります。


「1対1対応の演習」シリーズを使うルート

 良問が厳選されて掲載された参考書として有名なものに、東京出版編集部(2022-2024)「1対1対応の演習」シリーズ(東京出版)があります。これは、問題数も少なく、時間に余裕がないときに全範囲を網羅するのには最適な参考書です。

 しかし、問題数が少ないということは、これだけでは十分な演習量を積むのが難しいということでもあります。また、問題の難易度は低くないので、一から学ぶのにはあまり向いていません

 基本的には高2夏以降の時期に使われることが多い参考書です。高1、高2夏前でまだ時間に余裕がある受験生は、網羅系参考書などを使って十分な演習量を積みましょう。

 高2夏以降で、成績が悪くはない人は、この参考書を使って基礎固めをしていきましょう。成績が既に十分良くて基礎的な知識が身についている人は、飛ばしても問題ないでしょう。そして、数学を得点源にしたい人はさらに応用問題演習に進みたいところです。

 「1対1対応の演習」シリーズは、6冊に分かれていて、1冊ずつはかなり薄めです。自分が苦手な分野のものだけを解くといったこともできるでしょう。


「数学問題精講」シリーズを使うルート

 「数学問題精講」シリーズ(旺文社)という参考書があります。入門・基礎・標準・上級まであり、どれも定評があります。

 特に「入門問題精講」シリーズはものすごく丁寧に解説が書かれているほか、入門・基礎といった形で分かれているため網羅系参考書ほどは分厚くなく(全部合わせたらもちろん分厚い)、数学が苦手な人でも取り組みやすい参考書です。

 高1、高2夏前の、時間に余裕のある時期であっても、網羅系参考書ではなくこちらを使う手もあります。超難関大学以外をめざす人や、数学で足を引っ張らなければよい人、数学が嫌いな人には向いています

 ただ、「入門問題精講」だけで終えてしまうと演習量が不足するので、基礎・標準まで手を伸ばせるとよいでしょう

 また、高2夏以降で、数学の成績があまり良くない人は、数学が嫌いであったりあまり勉強量を積めなかった人が多いと思いますから、このシリーズに入って急いで基礎を固めましょう。


 冊数が多くて、ⅠAⅡBⅢC、入門・基礎・標準・上級をどのように行き来するか悩んでしまうかもしれませんが、基本的には自分の好みと完成度に応じて進めていきましょう

 ただ、「ⅠA入門→ⅡB入門→ⅢC入門」といった進み方をすると、前の分野の理解が浅くてうまく進みにくいと思われるため、「ⅠA入門→ⅠA基礎→ⅡB入門→ⅡB基礎→・・・」といった流れを軸に、演習として「標準」を挟み込んでいくのが良いでしょう

 「入門・基礎」が理解のステップ、「標準」が演習のステップのイメージです。上級問題精講は、この記事における「応用問題演習」にあたるので、またあとで言及します。


 まずは、入門・基礎からです。ⅠAⅡBⅢCを問わず入門がピンク、基礎が黄緑色の表紙で統一されています。

 標準は薄めの青色です。 

 「標準問題精講」シリーズについては、分野別のものもあります。


応用問題演習

 ここまで説明してきたように、まずは、網羅系問題集、「1対1対応の演習」シリーズ、「数学問題精講」シリーズなど、基礎の完成度を上げていくことが大事になってきます

 しかし、難関大学の入試問題では、基礎的な問題が組み合わさったような問題や、より思考力を問われる難問も出題されます。そこで、応用系の問題集を解いていくことになります。

 応用系の問題演習を通して基礎的な知識の確認をしていくこともできますが、基礎が不足している状態で解いていくと手も足も出ずに困惑してしまいますから、挑戦してみて弱点を発見できたら戻ってその補強を行いましょう。

 応用系の問題集を1,2冊やって過去問演習に入ることが多いですが、それぞれの取る戦略によってどのくらい応用問題演習に取り組むかは変わってきます。自分がいまどのくらい数学ができるのか、得点源にしたいのか、過去問はどれくらい取り組むか、などを考えてみましょう


 これから参考書を紹介していきますが、網羅系参考書を使った人は、章末、巻末問題を解いていくことから始めても構いません。むしろそういった付属の問題だと、解けなかった際に確認すべき例題を示してあったりして、有用です。

 では、よく使われるものを紹介していきます。まず、「大学への数学」の「新数学スタンダード演習」シリーズ(東京出版)です。「1対1対応の演習」シリーズと同じ出版社で、その接続を意識した構成になっています。

 「数学問題精講」シリーズの中の応用系の問題集である、「上級問題精講」シリーズ(旺文社)もあります。

 応用系問題集の中で最も名高いものとも言えるのが、「入試精選問題集 数学の良問プラチカ」シリーズ(河合出版)です。数学Ⅰ・A・Ⅱ・B・Cについては、「文系数学」と「理系数学」の両方がありますが、「文系数学」の方が難易度は高めです。理系で難易度が高いのを解きたい人は、「文系数学」の方を解くということもできます。

 文字通りかなり難易度の高い応用系問題集として、米村明芳・杉山義明(2023)「ハイレベル数学 完全攻略」シリーズ(駿台文庫)もあります。非常に優れた問題集ではありますが、難易度が高いので、ある程度実力がないと解くのは難しいかもしれません。

 また、数学受験者の多くは共通テストも受験することになると思いますが、共通テストの過去問・問題集も積極的に解いていきましょう。形式に慣れておく必要があります。


おわりに

 数学は、得意な人は得意だし、苦手な人は苦手だ、センスがあるかないかだ、というように得意不得意が最初から決まっているかのような科目に思えるかもしれません(ここまでそういう書き方をしてきてしまったかもしれません)。

 しかし、基礎的なことから一歩一歩理解を重ねていけば、数学力はついていきます。そして、ある程度数学ができるようになってくると、難問に対して、どのように解けばいいかを試行錯誤していくのが楽しくなってくるはずです。

 入試数学は、手持ちの武器(知識)をそろえて、あとはその場で必死に考えて問題を解く糸口を探していくような、そういう科目です。覚えてきたことをただ書き出すわけではなく、その場で思考をしていかなければならないのが数学の楽しさでもあるはずです。

 そこで養われる問題解決のための思考は、数学に限らず、日常生活の他の場面でも活きてくるものです。文系理系を問わず高校で数学を学ぶ意味の一つは間違いなくそこにあるでしょう。

 頑張っていきましょう!

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