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午前5時、ホットミルクとカウントダウン。

 眠れない夜は、はちみつをたっぷりとたらしたホットミルクを飲むといい。どうしていいのかはわからない。気持ちが落ち着くからだろうか。

 眠れない夜は、noteを書くと落ち着く。
 通話の先で、愛しい恋人の寝息が聞こえる。きっと不安にさせてしまっただろう彼の、穏やかな寝息。悪夢を見ていないことにほっとして、私はノートパソコンを開いた。

 私には年下の恋人がいる。とても優しくて可愛らしくて、でもかっこ良くて大切にしたい大好きな人だ。
 もし彼が恋人でなくなったら、そう口にするのも恐ろしいくらいに私は彼にどっぷりと浸かってしまっている。

 いつだって、彼は「好き」を言葉にしてくれた。
 「好き」に「好き」を返すのが幸せだった。この数日、彼は私にその言葉をくれなくなった。

 彼いわく、なんでもないのだという。今までもそういう時期があったから、周期的な何かなのかもしれない。それでも、先日見た悪夢が私の脳裏をよぎった。

「他に、好きな人ができたんだ」
「ゆきさんのこと、好きじゃなくなった」

 私と彼は向き合っている。私は、口ではうまく伝えられない感情を手紙にしたためていて、それを渡すタイミングをはかっているところだった。

 これは、夢の話しだ。現実じゃない。

 今日、私は彼に会いにいく。これは何日も前から決まっていたことで、彼に「会いたい」と言われたから決めた予定だった。

 私は悪夢を見る前に、彼に手紙を書いていた。彼に伝えたいことをまとめた、人生初のラブレターだ。彼の好きそうな便箋を選んで、何回も下書きを繰り返して書いた手紙。

 渡せないかもしれない。
 数時間後、私は彼の恋人でなくなって、彼女ですらなくなって、ただただ泣いているのかもしれない。大丈夫、何度も練習した。「好きじゃなくなったのなら、しかたがないね。別れよう」泣かずに言える自信は少しもない。

 口を開けばすがりそうになる。嘘でもいいから好きだと言って、嫌いじゃないなら私の彼氏でいて。恋人でいてなんてわがままは言わないから、なんなら友人でも構わないし知り合い程度でも構わない。

 もう関わるなと言わないで。好きじゃなくてもいいから嫌いにはならないで。なんて最低な言葉。最低で、わがままで最悪な感情。

 ホットミルクとはちみつではごまかせない不安感の答えは、数時間後には出るだろう。彼に会ったとき、私はちゃんと笑えるだろうか。きっと、ちゃんと笑える。

 会いに行っても迷惑じゃないだろうか。また、手を繋いで歩いてくれるだろうか。あの甘い声で私の名前を呼んでくれるだろうか。左の薬指に指輪をつけていても許されるのか。抱きしめても、振り払われないだろうか。

 今日が、最後にならないだろうか。

 みっともなく追いすがらないように、彼に会うまでにちゃんと練習をしよう。練習をして、練習で涙を枯らしておけば、きっと笑っていられるから。

 まだ、好きでいてくれていると信じている。信じているのに怖がっている。悪い癖だし、なおしたいと思っている。そうしてこの不安を、彼に伝えられていないことが一番の問題だともわかっている。

 空は明るい。雨は降っていない。向こうはどうかわからないけれど、天気予報は雨マークで、さながら私の心をあらわしたよう。

 今回の目標は、手紙を渡すことにしようと思う。渡した後、読まれなくたっていい。捨てられても燃やされても構わない。

 ただ、渡したい。そんな我が儘を許して欲しい。

 ぬるくなったホットミルクを飲み干して、あと1時間だけ眠ろうと思う。そうすれば、不安も少しは消えているはずだ。

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