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【札束で殴るが正義】J2第7節 松本山雅×ジュビロ磐田 マッチレビュー

スタメン

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松本は直近2試合と同じく3-4-2-1の布陣を選択。変えた部分としては、前貴之がボランチに復帰し、大野佑哉に代わって橋内優也が右HVに入ったことだ。J2ではチート級の選手と言っても過言ではない大森に対して橋内をぶつけて抑え込むことが狙いだろう。

対する磐田は司令塔の遠藤保仁を怪我で欠き、開幕からフル出場を続けていた山本義道も負傷により欠場となった。山本に代わって中川が今季初出場初スタメンを飾っている。また、3-4-1-2で大森をトップ下に置くシステムが今季の基本だったが、この試合ではルキアンを頂点に据えて1トップ2シャドーのような並びで臨んできた点も変化が見られた部分だろう。


ハマった松本のプランA

松本は毎度のことではあるが前線から激しいプレスを掛けて、ショートカウンターを狙う。磐田はボール保持に執着することはなく、GKの三浦がシンプルにルキアンへロングボールを放り込んでプレス回避をしていく。個の質で優るルキアンや大津を効果的に使いながら、セカンドボールを山田・大森・松本昌あたりで回収するという形を作ろうとしていた。

この日の松本のプレスは非常に効果的だった。圧倒的な運動量を誇るボランチ(あるときはインサイドハーフ)を軸に組み立てられている松本のプレッシングは、時として左右の揺さぶりに弱い。前貴之や佐藤和弘、河合秀人の可動域に依存している部分が大きく、サイドチェンジを交えられるとスライドが間に合わなくなってしまうためである。ただ、磐田は中盤でボールを散らす役割を担う遠藤を欠いていることも影響してか、大きな展開は少なく松本のプレスの餌食となっていた。

実際の場面を紐解きながら、少し具体的に松本のプレスを見ていこう。
取り上げるシーンは24:20~。GKのスローイングから素早く攻めようとした磐田だが思うように運べず、攻撃をやり直そうとする場面である。

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松本が前線3枚でプレスを掛けるため、最終ラインで数的優位ができるように磐田は今野を下げて対応。大井と2枚のCBのような位置取りになり、両サイドのHVはサイドに張り出す。ダブルボランチの相方である山本は阪野の背後を動きながら、死角に入って最終ラインからのパスを引き出す役目。さらには大津が下がってきてビルドアップを助ける動きを見せていた。

磐田は人を動かして効果的なビルドアップを狙っていたが、逆に松本のプレスを促進してしまう。松本のプレスがハマらない時のパターンとしては、誰が誰を見るかはっきりしていない事が多い。しかし、最終ラインに下がった今野と大井の両CBを阪野が牽制し、両HVはシャドーが対応。山本にはボランチの前が一列上がって圧力をかけて大津には佐藤が付く、というようにかなり役割が明確だったように思う。

松本は相手の攻撃に対して正面からぶつかるようなベクトルでプレスを掛けるので、一番怖いのは相手と入れ替わってしまい背後を突かれること。自分が自転車で走っていて、すれ違った車を追いかけるようなシーンをイメージしてほしい。すれ違ってしまい自分が方向転換した時点で車には大きく距離を離されていることだろう。同じようにプレスをかいくぐられると追いつくことは難しい。そして入れ替わってしまう時のあるあるが、”迷い”である。迷うということはつまり判断スピードが落ちているということ。その一瞬の迷いがピッチ上では数メートルの差を生み、相手選手への寄せが甘いという状態を引き起こす。

少し説明が冗長になってしまったが、要するにこの日の松本は”迷い”から解き放たれていたということだ。それによって陣形もコンパクトで度々ショートカウンターを繰り出すことができていた。


仕込みの成果

ここまで松本の守備について話してきたが、前半は攻撃面も悪くなかった。個人的にハイライトだったのは、26:23~の一連の攻撃。ハーフライン付近で磐田のビルドアップを引っ掛けたところから、右サイドへ大きなサイドチェンジ。フリーで受けた外山が慌てて戻ってきた松本昌と1on1になるシーンである。

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中川が素早くフォローのポジショニングを取ったことで外山が単独で突破することは叶わなかったが、もう一度攻撃をやり直す。ポイントになったのは、パスを受けた佐藤和のオフ・ザ・ボールの動き。佐藤和はインナーラップで中川の背後のスペースを狙い、外山からのパスを引き出した。大外レーンでボールを持った時のお手本のようなハーフスペースへのランニングは練習から仕込んでいたのだろう。今季初ゴールとなった河合の得点もサイドこそ逆だが同様な形から生まれている。佐藤和の折返しを前が落とし、外山が放ったシュートはGKにセーブされてしまったが、一連の攻撃として完結できた点も含めて評価したい場面である。

これ以外にも河合秀人が積極的にハーフスペースで受ける姿勢を見せて磐田の守備を混乱させており、概ね攻守ともにプランAはハマっていたと言えるのではないだろうか。だからこそ、この時間帯に先制点を奪えなかったのが非常に悔やまれる。


個の質で殴られる

良い流れの中でネットを揺らせなかった松本にとって、怖かったのは個の質で上回る磐田に理不尽に殴られること。少ない決定機をモノにできるだけのタレントが揃っており、押し込んでいるとはいえ気は抜けないはずだった。

そして僕の懸念は悪い方に当たってしまう。前半最初の決定機と言える場面でハンドを取られてPKを献上。ルキアンに決められてまさかの先制を許してしまう。VARがあったらどんな判定になっていたかは分からないが、自業自得と捉えるべき失点だ。ほぼほぼワンサイドゲームだった時間帯に最後のクオリティ不足を露呈し、磐田に付け入るスキを与えてしまった。ペナルティエリア内でルキアンに楔のボールが入ったら止められるDFはJ2には数えるほどしかおらず、PKの判定でなかったとしても失点を覚悟すべき状況だったと思う。

さて、入念に磐田を分析して構築したプランAで刺し切れず、そればかりか失点してしまうという最悪のパターンに陥った柴田監督。今季ここまで90分の中で変化をつけることを苦手としているが、ここからがウデの見せ所のはずだ。前半の戦い方で毎試合勝ち切ろうと思ったら札束で殴ってJ1級のストライカーを連れてくるしかない。それこそウタカとか元新潟のレオナルドとかね。


逆境を跳ね返せず

先制した磐田は最終ラインでボールを回す際の位置を自陣ペナルティエリア付近まで下げてきた。味方同士の距離が遠くなりミスが起こる可能性が上がり、かつミスをした際に決定的なピンチを招くリスクを背負っているが対価もある。変わらず前線からハイプレスを敢行する松本の選手の移動距離を伸ばし、徹底的に走らせて機能不全に陥らせるという狙いである。”ボールは疲れない”という名言を残したのは誰だったか忘れたが、消耗が激しくなるのは松本の方である。磐田のパス回しにミスが出るのが先か、松本が動けなくなるのが先か、緊張感のある時間帯が続くかと思われた。

ところが56分に左サイドでプレス回避されたところを起点として磐田の逆襲をくらいオウンゴールで2失点目。松本昌の入れた低くて速いクロスの質も非常に高く、その前にバイタルエリアでキープして時間を作ったのがルキアンであったように、やはり個の質は高い。そしてここまで試合を通じて3回目くらいの決定機で2つをモノにされてしまっていてはどうしようもない。

失点後さらに攻勢を強める松本は、左サイドを駆け上がった(?)篠原の左足のクロス(??)にファーサイドで鈴木国友が合わせて1点を返す。なんで篠原が左からクロス上げてんだよと思った方は僕だけではないと信じているが、少し巻き戻すと篠原自身がドリブルで持ち運び、野々村がカバーのために中央へ移動した流れだった事がわかる。そしてこの場面、鈴木国をフリーにしてしまった中川はよろしくなかった。クロスが上がる直前に数回首を振って背後にいる鈴木国を確認しているが、おそらくクロスの目測を誤ってしまったのだろう。ニアへ2、3歩踏み出した後に頭上をボールが通過していった。

これでイケイケムードになるかと思われた矢先、セットプレーからあっさり失点。ファーサイドでヘディングの強い選手が折り返して、中で合わせられるというオーソドックスな形。ショートコーナで始められた分、少し全体的にボールウォッチャーになってしまい、目線を2度変えられてマークを見失ってしまったようだった。直後に選手交代をしていることからも、1点差に追い上げた直後でもったいない失点だった。

70分すぎくらいからさすがに疲労の色が濃くなってきており、磐田のボール保持にプレッシャーを掛けられなくなってくる。3点目を奪った磐田は自陣にブロックを構えるようになってきて松本がボールを持つ時間帯が増えてくる。というよりはボールを持たされているという方が正しいかもしれない。守備ブロックの中で受けて真価を発揮する小手川の投入は妥当だったと思うが、いかんせん周りの選手がバテバテで彼一人で戦況を大きく変えられる状態ではなかった。

最後は伊藤に今季初ゴールを献上して万事休す。磐田の倍以上となる21本のシュートを放ちながら、アウェイの地で4失点を喫する結果となった。


まとめ

4失点というスコアが強く印象に残ってしまうが、プランAで試合を進められていた前半35分くらいまでの時間帯に先制できなかったことにフォーカスすべきだろう。最後の質の部分で磐田に上回られた結果、チャンスを多く作りながらも敗れてしまった。

難しいのは一朝一夕で解決できるような問題ではないというところだ。個の力で解決するか、仕組みで解決するか。本文でも書いたように、手っ取り早いのは金を積んで優秀なストライカーを獲得することだが、J1平均の予算にすら届かない松本にそんな余裕はない。誰かの覚醒を待つか、チームとして仕組みを整えてチャンスを多く作り、1%でも得点の可能性を上げるか。今季の松本が取り組もうとしているのは後者の解決策だろう。

いずれにせよ言及しておきたいのは時間を必要とするということだ。手っ取り早い解決策を望めない以上、サポには我慢が求められる。まあ柴田監督が仕組みを作って解決できるという大前提があるのだけども。

さて、次節から地獄の連戦が始まることになる。チームの成績が上向くことも願ってほしいが、僕がプレビュー&レビューを書き上げることができることも祈ってもらえたら嬉しかったりする。

ではまた。


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