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美容の法律ガイド: ヘア&メイクの知的財産権を知ろう
先週、美容師国家試験受験者にとって待ちに待った合格発表がありました。美容業界で新たなキャリアをスタートさせる皆さん、おめでとうございます。美容業界では、ヘアスタイリングやメイク技術がプロフェッショナルのアイデンティティや競争力を示す大切な要素です。今回は、そのような美容業界の価値を保護する知的財産権に触れてみましょう。
今回のポイント
ヘアスタイルやメイクに著作権はあるか?
著作権の有無をどのように判断するのか?
ヘアスタイルやメイクに著作権を認めた事例はあるのか?
著作権以外に保護方法はあるのか?
ヘアスタイルやメイクの著作権
りょう:ヘアスタイルやメイクに著作権ってあるの?
ゆう:ヘアスタイルやメイクが「著作物」に該当するのか?っていうのがキーだね。
著作物:思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
また著作権法では、以下のような著作物が例示されてる。これも重要なポイント。
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物
りょう:ヘアスタイルやメイクって、どちらかというと美術に近いのかな?
ゆう:そうだね。ヘアスタイルやメイクが「美術の著作物」と言えるのであれば、著作権があるってことになる。
著作権が発生するか否かの判断基準
りょう:著作権法には、判断基準が書かれているの?
ゆう:いや、著作権法では、何が美術の著作物なのかは定義されていないんだよ。
だから、美術とは何か!というところから考えないといけないんだ。
美術といっても、絵画や彫刻みたいに鑑賞のみを目的とするもの(純粋美術)もあれば、実用品に応用されたもの(応用美術)もあるよね。
一般に、ヘアスタイルやメイクは、この応用美術に当たるって考えられてる。
純粋美術:鑑賞のみを目的とした美術(例:絵画、彫刻等)
応用美術:実用品に応用された美術(例:美術工芸品、被服等)
りょう:それは、ヘアスタイルやメイクは美術の著作物ってこと?
ゆう:いや、応用美術すべてが美術の著作物というわけではないよ。
だから、ヘアスタイルやメイクが美術の著作物と言えるのかどうか、をさらに判断する必要がある。
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りょう:判断基準は書かれていないって言ったよね。
ゆう:そうそう。著作権法には、美術の著作物に「美術工芸品」が含まれることは記載されているけど、それ以外の応用美術については何も書かれていないんだよ。
この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。
※美術工芸品:一品製作の手工的な美術作品(例:壺や茶碗等)
りょう:じゃあ、どうやって判断してるの?
ゆう:古い裁判例では、美術の著作物として保護されるのは、純粋美術と美術工芸品に限られるという考え方(A)があったけど、最近は美術工芸品以外の応用美術も美術の著作物として保護される場合があるという考え方(B)が主流。
A:「美術の著作物」として保護されるのは、純粋美術と美術工芸品に限られる
B:美術工芸品以外の応用美術も美術の著作物として保護される場合がある(主流)
りょう:じゃあ、ヘアスタイルやメイクにも著作権があるの?
ゆう:可能性はあるよ。ヘアスタイルやメイクにも色んなタイプがあるし、応用美術のうち、どの範囲まで著作権法で保護されるのかっていうのがポイントになる。
この判断方法にも色々な考え方があるんだけど、最近は、実用目的の構成から美的鑑賞対象の部分を分離して把握できれば著作権法で保護される、という考え方(b)が主流だよ。
a:応用美術のうち、純粋美術と同程度の美術鑑賞の対象となり得るなら著作権法で保護
b:実用目的の構成から、美的鑑賞対象の部分を分離して把握できれば著作権法で保護(主流)
c:美術の著作物を特別扱いせず、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば著作権法で保護
ヘアスタイルやメイクの著作権の事例
りょう: 結局、ヘアスタイルやメイクはどうなの?
ゆう:ヘアスタイルやメイクについては、相当ハードルが高いね。
ヘアスタイルやメイクを真正面から扱った「Forever21」事件では、以下のように著作物性を否定してる。
上記化粧及び髪型について,その美的要素(外観や見栄えの良さ)は,他の者から見られることが想定されるものではあるものの・・・シティやリゾートのパーティ等の場面において実用される衣服やアクセサリーとのコーディネートを想定する実用的なものであり,それ全体が美的鑑賞を目的とするものではなく,また,実用目的のための構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えた部分を把握できるものでもないから,美術の著作物に当たるともいえない。
知財高裁 平成26年8月28日判決
りょう:じゃあ、ヘアスタイルやメイクに著作権はないってこと?
ゆう:今のところ、ヘアスタイルやメイクに著作権を認めた事例はないね。
だけど、ヘアスタイルやメイクが著作権法の保護対象から外されているわけではないよ。以下のように述べた裁判例もある。
・・・原告各写真の被写体のうちの,独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して,別途何らかの著作物として成立する余地がある・・・
東京地裁 平成27年12月9日判決
ただ、通常の実用的なヘアスタイルやメイクには、著作権は認められない可能性が高いね。
これらに著作権を認めてしまうと、商用目的で自由にヘアスタイリングやメイクを行うことができなくなっちゃうっていうのもあるし。
りょう:著作権を広く認めすぎると問題もあるんだね。
著作権以外の保護方法とは
りょう:著作権以外に、ヘアスタイリング等を保護する方法はあるのかな?
ゆう:あるよ。例えば、ヘアカット方法等に特許が認められている。
特許権によって、これらの方法を独占することができるってことだね。
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りょう:ヘアスタイリングでも特許が取れるんだね。
ゆう:美容業界では、常に新しいスタイルや技術が開発されているからね。美容業界でも特許を活用するというのは一つの選択肢だと思うよ。
りょう: なるほどね。意外と穴場かもね。
今回のまとめ
ヘアスタイルやメイクは応用美術に該当する。応用美術には、著作権が認められるものと認められないものがある。
ヘアスタイルやメイクに著作権を認めた事例はないが、保護対象から外されているわけではない。
そのため、ヘアスタイルやメイクに著作権が認められる可能性はあるが、実用的なものには著作権が認められない可能性が高い。
ヘアカット方法等を特許で保護できる場合がある。
今回は、美容業界におけるヘアスタイルやメイクの知的財産権に焦点を当ててみました。この情報が美容業界における知的財産権活用のための手助けとなれば幸いです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁理士 中村幸雄
https://yukio-nakamura.com/
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