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持ち帰る女と室外機置き場から広がる世界

私は日々、いろいろなものを持ち帰っているようだ。

というのは、ある人を訪問してゴボウ茶を煎れたときのこと。急須の網に残った茶葉(つまり出がらしのゴボウ)を、「これ、まだ食べられるんです」と持ち帰る私に、その人は「持ち帰る女」とつぶやいた。

そう言われてみると、身に覚えがある。

取材先で泣いてしまった日は(筆者の職業は新聞記者だ)、そこのお母さんの手作りのもんぺを持たされて帰ってきた。
近所の旅館に「私ここが好きなので、閉館するときはいろいろ捨てちゃう前に教えてください」と言っていたら、ある日おやつを食べさせてもらった帰りに、「まだ閉めないけど、」と旅館のスリッパを持たされた。
居酒屋のおばあちゃんからは帰り際にいつも、ポテトサラダとか唐揚げとかをタッパーに入れて持たされる。タッパーを返そうと持って行くとまたそこにおかずを入れて持たされ、なかなか返せなくなり、しまいには「自分のを持ってらっしゃい」と言われて、最近はマイタッパーで持ち帰っている。

部屋を見回すと、これはいつどうしてうちにやってきたのかしら、と思う物がたくさんある。ひとつひとつに、それをくれた人との思い出が詰まっていてほっこりする。

そんな数あるお持ち帰りの中から、今日は〈おかわかめ〉を紹介したい。

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おかわかめって、

なにそれおいしいの?と思ったあなた、
おかわかめはおいしい。
心地よい苦みがあって、熱を通すとモロヘイヤみたいにぬめっとして身体に良さそうだ。
だけど、
おかわかめはおいしいだけじゃない。
おいしい葉っぱなら山ほどある。
私がおかわかめを愛する理由は、
かわいくて元気で優しい からだ。

好きな女の子の話をしてるみたいだ。

話を戻そう。

私は自宅でおかわかめを育てている。
まず、葉っぱがかわいい。濃い緑色のハート型だ。ちょっと厚みがあってぷくっとしている。
次に、放っておいてもすくすく育つ。元気なのだ。
そして、栄養価が高い。だから家計にも身体にも優しい。

おかわかめ ツルムラサキ科。熱帯アメリカ原産。多年草。ミネラル、ビタミンAが豊富。ムカゴを土に植えると新しい株を育てることができる。

それから、語感だ。ドクダミだってヘビイチゴだって、丈夫で栄養があるだろうけれど、おかわかめにはかなわない。だって、声に出して言ってみてほしい。

お か わ か め 。

かわいい。

たまらない響きだ。よく知らなくったって無害で良い子なかんじがするじゃない?ドクダミとかヘビイチゴよりもよっぽど。

よく聞かれるが、わかめではない。〈おかひじき〉とか〈おかのり〉の〈おか〉が〈陸の〉という意味を持つように、〈陸のわかめ〉といったところか。熱を通すとまるでわかめのように、つるつるねばねばする。スーパーではなかなか手に入らないレアキャラだ。

9月にはとてもかわいい花が咲く。初めて見たときの感動は忘れられない。育て始めたときは花が咲くなんて考えてもなかったから。緑の茂みの中に、小さな白い花が鈴なりに咲いているのを見つけたときは、何が起こったのか飲み込めなかった。

アヒルから白鳥が生まれた、そんなかんじだった。

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ともかく、かわいいのだ。花束にしてプレゼントしたり、リースを作ってみたり。

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こんなふうに、私はおかわかめが好きで、成長日記やレシピをインスタグラムで公開したり、自作キャラ〈おかわかめん〉の4コマ漫画を描いたりしている。〈おかわかグラマー〉とか〈漫画家 オカ・ワカメ〉なーんて、そのうちブレイクするかもしれない。

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と勢いに乗っていたこの春、
新型コロナウイルスが暮らしや気持ちに陰を落とし始めた。ステイホームを機に、伸び放題にしていたおかわかめに久しぶりにハサミを入れて整えていた(こうすると、栄養が行き届いて大きく育つ)。

そのとき、思ったのだ。
人間が見えないウイルスに動揺したり落ち込んだりしていることなんか知らん顔で、おかわかめは、なんとすくすく我が道を進んでいるのだろう、と。

ちょうど、ムカゴが発達していて、収穫すると200株分くらいあった。これを植えれば殖やすことができる。

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(写真 おかわかめのムカゴや小さな芽)

…ちょ、待てよ?これ、みんなにあげたら喜ばれるんじゃないか?

思いついてしまった。


全国のみなさーん!!!
かわいくて元気でおいしい子、いりませんか?すくすく育ちます!!

Facebookで呼び掛け、欲しいと言ってきた人や、「この人には」と頼まれてもいないのに勝手に思い浮かんだ人に、せっせと発送した。

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おかわかめの嫁ぎ先からは、「芽が出た」とか「こんなに大きくなったよ」とか写真が送られてきた。おかわかめが各地でみんなを笑顔にしているんだなと思うと、うれしかった。


で、そう、お持ち帰りの話だった。

おかわかめを持ち帰ったのは、2017年11月5日(詳しくは最初の日記に書いたので割愛)。鹿児島県の温泉地、指宿の宿で、朝食の一皿に出てきたのだ。
さつま揚げの下に敷かれた緑のハート型の葉っぱ。
食べてみると、少しぬめっとして、苦みがあった。
「この葉っぱ、何ですか?」
女将さんに尋ねると庭に連れて行かれた。

壁一面を、緑のカーテンが覆っていた。

「おかわかめ。持って帰りなさい。放っておけば育つから」

こうして、プランターごと託されのだった。

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それから、我が家のベランダ、というより、単身向けアパートにおまけのように付いた室外機置き場で、おかわかめはすくすく育った。

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夏には、毎朝のお味噌汁やお弁当のおかずになるくらい葉っぱがついた。日差しを遮ってくれるカーテンも、不完全だが、できた。

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(写真 部屋の中から見たおかわかめの影)

うれしくなって新聞の「記者のイチオシ」に書き、会社の上司や新婚の先輩に「手間要らずですから」と差し上げた。noteを始め、ペンネームは「わかおかみおかわかめ」とした(良質な言葉遊びではないか!と、自慢したかったたが、〈おかわかめ〉を知る人が少なかった)
(最初に書いたおかわかめ記事はこちら)。

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そしてとうとう、

〈おかわかめん〉を作った。

おかわかめ

かわいくて仕方がない。

もう一度言わせてもらう。

かわいくて仕方がない。

にやにやしてしまう。

生みの親の気持ちとはこういうことを言うのだろうと思う。

ちなみに、おかわかめんの両手首の点々はあのかわいい花を表現している。
ちなみに、おかわかめんの「ん」が残念な感じに入りきっていないのには、ほろ苦い思い出を込めている。小学校1年の時、覚えたてのひらがなで自分の名前を持ち物に書いたのだが、最後の文字まで枠に収めきれず泣いてしまったのだ。


おかわかめんを名刺の挿絵にした。名刺交換をすると、自然とおかわかめの話になった。
私の周囲で、おかわかめを知る人が少しずつ増えた。


マグカップも注文してしまった。

名刺をネット注文すると、「こちらもいかが」とロゴを適用した商品を薦めてくる。ペンケースとかマイバッグとか。いつもなら「しょーもない商売め。ついでにって言われたって」とスルーするのだが、


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ついでにどころか一目で欲しくなり、「カートに追加」してしまった。とりあえず、2つ。私のと、誰にかわからないけど、もう一つ。

こうやって、実物でも遊ぶ。

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材料は、おかわかめ(頭と手足)、ご飯(顔面)、焼き海苔(目と口)、卵とケチャップ(衣服)。

いろんな角度から撮影し、食べるのがもったいないと惜しみながら食べ、食べながら写真を撮る。

おかキャプチャ


LINEスタンプにも挑戦中だ。(追記:2020年6月6日 〈おかわかめん〉LINEスタンプが承認され、使えるようになりました!わあああああい!!!)

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このように、おかわかめを持ち帰ってから2年半、暮らしが豊かになりましたとさ、めでたしめでたし。ちゃんちゃん。

と起―承―結の自己満足で終わるところだった私とおかわかめの物語。
そこへ、〈転〉が訪れた。

ということで、もう少し続けさせてもらう。


それは2020年4月の最終日のことだ。

知人から、
「おかわかめの研究者がいる」
と聞いた。

おかわかめの、

?!


!!!


これまで、誰に話しても珍しがられ、知る人さえなかなかなかったおかわかめに、研究者。!。 しかも、目と鼻の先、鹿児島大学に。(筆者は鹿児島市内在住)

農学部農業生産科学科比較環境農学研究室・鹿児島伝統作物保存研究会会長の志水勝好教授。
おそるおそる、研究室の番号にかけた。

「実は、おかわかめが好きで…」
その一言で、知らない女からの突然の電話に不審がる教授の声色はぱあっと明るくなった。


即日、会いに行った。

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負けた。

目の前には、カーテンどころか、おかわかめウォール。

うちの室外機置き場じゃ、とてもかなわない。

敗北感が頭をよぎったがすぐに、

「師匠と呼ばせてください!!!」


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こうして、私は志水師匠に弟子入りした。
(写真は、左端の2つが私の、右の4つが師匠の)


「いつか、おかわかめカフェをしたいと思ってるんです!」
うれしくなって夢まで語る私に、師匠は戸惑いながらもちょっぴりうれしそう。

「栽培に手間がかからないし、おいしいでしょう?こんな万能な作物はありませんよ。普及したいのですがなかなか。。。鹿児島はおかわかめのメッカになれると思うのですが。。。」

師匠の話しぶりは、控えめで落ち着いているが、おかわかめ愛がダダ漏れ。

師匠「どんなふうに食べますか?」
私「卵焼き、味噌汁、刻んで豆腐に乗っけ…」
師匠「私はさっと湯通しして醤油で」
私「鰹節とポン酢が好きです」
師匠「ああ~合いますねえ」

会話は途切れない。


「ムカゴで殖えますからね、九州で生えているおかわかめは全部クローンだと思っていいです」と師匠。

クローン。
つまり、皆同じ遺伝子を持つということ。

”人類皆友達” じゃないが、”全おかわかめ皆家族” とでも言われているような、壮大で温かい気持ちになった。
私の小さなおかわかめも、師匠の大きなおかわかめの家族なのだ、と。


うれしすぎて、帰りの自転車をまっすぐこげなかった。

4月30日は「師匠の日」♪

と思った翌日、またミラクルが起きた。

「昨日せんせぃ喜んではりましたよォ~」
と強烈な大阪弁の兄ちゃんが私を訪ねてきたのだ。

志水師匠とおかわかめ研究をする中野さんだった。師匠から私の名刺を見せられて来たとのこと。
「この春おかわかめやってた学生が卒業してまったもんやさかい、もう、おかわかめやる人ぼくとせんせぃしかおらんようになってしもぉて、そこへ君があらわれたもんやから。ははははは。ほな。」

とママチャリに乗って帰る後ろ姿。背中のリュックサックには色とりどりのフェルトのマスコットがじゃらじゃら揺れていた。まったく、漫画の中から出てきたような大阪人や。


さて、そろそろ物語も〈結〉に向かう。

その3日後、2020年5月4日は、私にとって記念すべき日となった。師匠と2人で、おかわかめを語り尽くすオンライン対談イベントを開催させていただいたのだ。
「師匠、私と語っていただけませんか?」
という無茶ぶりを二つ返事で受け、おかわかめを胸に当ててハイポーズまでしてくださった師匠。ああもう最高。

すでにおわかりだろう。
そう、例のもう一つのマグカップは師匠にプレゼントした。

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私はこの対談イベントをきっかけに、

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おかわかめ尽くしのレシピを開発した。

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(レシピはインスタグラムで続々公開中。#おかわかめレシピ)


5月になり、おかわかめが各地でぐんぐん伸びているようで、続々と報告が届く。
いつか、集まれ!全国のおかわかめ同窓会とか、全国のおかわかめに会いに行く旅とか、したい。

おかわかめフライヤー関係


宿から持ち帰ったおかわかめのおかげで、いろんな人との温かくて楽しい繋がりができた。
室外機置き場で育つ、かわいくて元気で優しいおかわかめが、また誰かのお持ち帰りになり、その人をちょっと幸せにするといいな。
そんな思いで、おかわかめを続けている。

そうだ、最後に。

あのかわいいおかわかめの花言葉を知っているだろうか?

おかわかめ漫画 (2)


興味を持ったあなた、
おたより、待ってます。



※追記2020年6月6日〈おかわかめん〉がLINEスタンプになりました。
初めてのLINEスタンプ挑戦は、申請を2回をリジェクトされ、3度目の正直にして承認されました。申請から待つこと10日間、めっちゃもやもや不安な日々でしたが、よいお返事をもらうことができ、とてもうれしいです(プロポーズみたい!!!)私が使いたいためだけに作りましたが、よかったらクリエーターズスタンプで検索してみてください。

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※書き終わって。
これは、私がおかわかめに関する何かしらで有名になって取材を受けるときに「おかわかめと私のことはこれを見れば全部書いてありますからー」と言える完全版になるのではと思い、略年表も付けてみた
〈おかわかめと私〉
2017年11月5日:鹿児島県指宿市のペンション菜の花館でおかわかめに出会う。持ち帰り、家で育てる。
2018年夏:順調に茂る
2018年8月5日:南日本新聞朝刊「記者のイチ押し」に掲載
2018年秋~2019年春:越冬
2019年夏:2季目の夏も、順調に繁る
2019年9月2日:花を発見
2019年10月21日:note「わかおかみおかわかめのお持ち帰り日記」開設
2019年秋~2020年春:越冬
2020年3月:ムカゴの全国発送開始
2020年4月19日:〈おかわかめん〉の完成
2020年4月21日:漫画を描き始める
2020年4月30日:おかわかめんのマグカップが届く。鹿児島大学の志水勝好教授を訪ねる。弟子になる。
2020年5月1日:研究員・中野さんが訪ねてくる
2020年5月3日:インスタグラム開設
2020年5月4日:志水先生との対談〈おかわかめ本舗〉開催
2020年5月24日:LINEスタンプ申請1回目。
午後9時23分 #キナリ杯 投稿、行け!おかわかめん!
2020年5月25日:LINEスタンプ、リジェクト
2020年5月26日:LINEスタンプ申請2回目。
2020年5月27日:LINEスタンプ、リジェクト
        申請3回目。
2020年6月6日:LINEスタンプ承認!!!




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