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はじめての躁転とそのときにおぼえた夜遊びの話

 なんとなく感じるのだけど躁のエピソードを書く方が反響があるみたいだ。鬱のことを書く方はとても多いけど躁のエピソードを書く方は少ないのかな。そういわれてみるとあまり見かけないような気がする。
 躁のエピソードは振り返ると辛いことが多いからなかなか文字に起こせないのだろうか。わたしも躁のエピソードを思い返すとしんどい。声をだして叫びたくなる時もあるし、急に独り言をつぶやき出して挙動不審になることもある。衝動的に万年筆を太ももに刺してしまったこともあった。

 でもわたしは書く。なぜならば書いて文字になったものを見ると案外うまく気持ちの整理ができることもあるということに気づいたからだ。とはいえとてもじゃないけど思い返すことが出来ないような強烈な思い出もある。ここに書いたはいいけどすぐに消した記事もある。そういつもは上手くはいかない。そういうのはもう蓋をしてしまっておくことにした。

 わたしは高校二年生になった頃に短い期間だけ人が変わったように夜遊びをした時期があった。中二のときに母親を亡くしたあと父親ともうまくいっていなかったから不良になりやすい素地みたいなものはあったのだろう。
 その間なにかと悪いこともやった。いま振り返ってみるとこの夜遊び期が初めての躁転だったのかもしれないと思っている。その年の秋に初めての鬱にもなった。だから医師からもその可能性はあると言われている。

 わたしは高校二年生になるすこし前から夜遊びをするようになった。誰もいない真っ暗な家にただいまって帰って夕飯を一人で食べる。でもお母さんの匂いはまだ残っている家にひとりでいるのが嫌だった。それに少し前にけっこうしんどい失恋をしていた。
 最初のころはお父さんが帰ってくる10時までには家に帰っていた。だからこのころは完全に不良になってしまったわけではないし、なんだかんだ言ってもお父さんに心配をかけるのは良くないって思ってた。それにわたしは小心者だったし大人にはおどおどしていたから不良になれるほど強い子ではなかった。補導されるのも怖かった。そんなふうに意気地なしだった。
 たぶんわたしはは夜遊びをするような子には見えなかったと思う。自分で言うのもおかしいけれど、真面目で清楚な女の子に見えてたはず。
 もともとわたしの友だちはみんな真面目な子ばかりだった。でもこのころ真面目じゃない友だちができた。

 その子は川村という女の子だった。苦手だった体育の授業でいつも川村が助けてくれていた。川村は陽気でみなから好かれるタイプだった。わたしはそんな川村に懐いていった。
 川村は大学生の彼氏がいたせいか少し遊び慣れていた。そんな川村と遊ぶうちにその大学生の彼氏と知り合い仲良くなって、その彼氏から大学生の友人を紹介された。
 その大学生は手塚という十八歳の大学生だった。見た目がよくて品もよかった手塚と仲良くなって、そして付き合うようになった。

 大学生と高校生はぜんぜん違った。くるまを持っていたり、一人暮らししていたり、遊び方がぜんぜん違う。なにより同級生の男子たちとくらべたら物知りで考えかたも大人だった。そういえば村上春樹をおしえてくれたのも手塚だった。わたしはそんな大学生たちと一緒にいるのが楽しくて自分自身も大人になったような気がした。そうして彼らの輪の中にだんだんと馴染んでいった。
 手塚はとても優しかった。わたしが高校生だということもきちんと理解していた。お酒を飲むようにすすめたりはしなかったしわたしを夜遅くまで連れ回すこともなかった。でもわたしはそんな手塚がだんだん物足りなくなってしまった。

 わたしは手塚の友だちの野口とも仲良くなった。野口も優しくていい人だったけど手塚よりも遊び慣れていた。そして野口はわたしを行きつけのバーに連れて行って友達に紹介してくれた。
 わたしはそういう場所にいくのは初めてだったし怖かったけれどみんなやさしかった。それにみんなわたしのことをいちいち詮索したりしなかった。
 ずっと陰キャだったわたしは遊び慣れていてもてそうな男性からちやほやされたことがなかったから浮かれてしまった。そのうち手塚よりも野口と一緒にいるほうが楽しくなってしまった。そしてわたしは野口に夢中になった。そして手塚と別れて野口と付き合うようになった。
 野口はくるまを持っていたしわたしをいろんなところに連れていってくれた。学校まで迎えにきてくれることもあったしおしゃれなレストランにも連れて行ってくれた。わたしのことを十八歳と偽ってクラブにも連れていってくれた。
 同級生たちと比べたらはるかに大人だった野口と付き合っていることを友だちに自慢したくなった。実際にはそんなことはしなかったけど。

 野口と一緒に遊びあるいているうちに大人の知り合いが増えていった。そしてだんだんとそんな世界に慣れていった。当然下心があって近づいてくる男もいたけど、優しくされたらついていってしまうこともあった。どうしようもなく寂しかったり辛いときは優しくしてくれそうなひとに連絡してかまってもらうこともあった。

 そして終電を過ぎても帰らない日も増えていった。男の人と一緒にいて朝帰りする日もあったしそんな日は学校をサボるようになった。
(つづく)

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