【創作】異世界エッセイ2 映え

  最近、若い女性たちと間で、流行っている飲み物があるらしい。

 光学スクリーン上でもはや見ない日はないその飲み物は、シュテールルと呼ばれている。
 五色の青が渦巻く液体の中に、光る粒が浮かんだそれは、スクリーンの中の若い女性タレント曰く、とても「映える」のだそうだ。
 これだから最近の若い者は、などと言ってしまったら、その時点でもう老いは始まってしまう。偏見は良くないと思い、機会があったら飲んでみようと考えた。

 ちょうど打ち合わせで遠出することになったので、駅の近くにあるカフェに入った。深い青を基調とした店内は、女性客で賑わっていて、男一人で来ているのは私くらいだ。天井から吊り下げられた星の形の照明が、淡い光を放っていた。
 テーブルの上にあるメニューを見る。シュテールルの写真が載っていた。その他、エジテフルーツのケーキやタルトもあって、こちらも美味しそうだったが、シュテールルの味が分からないので、ひとまずケーキは保留にする。
 女性ヴォーカルの歌う弾んだポピュラー曲が流れているのは、さすが若者向けのカフェといったところか。天井の中央に設置された再生機に目を留める。
 しばらく待って、シュテールルが運ばれてきた。球体のグラスが、木製の箱に入れられる形で固定されている。このグラスの形に意味はあるのかとスタッフに尋ねたら、「この形でご提供しないと、境界が崩れてしまうんです」と説明してくれた。
 五色の青は、決して他の色を侵すことなく絡み合っている。キラキラした粒が全体に言っていて、まるで宇宙を瓶詰めにしたようだった。
グラスの上部に開いた穴にストローを挿す。飲んでみると、口の中がすうっと冷えるような、爽やかな甘さが広がった。
 シュテールルを味わっていると、突然、口の中でパチパチと音がした。驚いてメニューをもう一度確認すると、「ルミェイヴ粒が弾ける新食感」と書いてあった。中に入っていた、キラキラした粒はこれのことだったのか。
 飲み終わっても、まだ喉の辺りが冷たかった。流行り物とは得てして味がそうでもなかったりするのだが、シュテールルは値段に見合うだけの価値はあったと思う。
 店によって様々、ルミェイヴ粒の弾け方や青の重なり方など、いろいろと工夫がなされているらしい。
 今日はこの辺りで筆を置こう。持ち帰ってきたばかりのシュテールルが、温くなってしまう前に。



相変わらず謎単語連発、パラレルワールドのエッセイ(という設定)にお付き合い頂き、ありがとうございます。
サーティワンのホッピングシャワー食べたことあったら、もうちょっと具体的に味の描写できたんかな〜