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「一葉のポルトレ」を読んで

生前親交のあった文学者、友人や家族らが捉えた一葉についてのポートレイト集「一葉のポルトレ」を読む。追想を寄せたのは、薄田泣菫すすきだきゅうきん戸川秋骨とがわしゅうこつ岡野知十おかのちじゅう疋田達子ひきたたつこ平田禿木ひらたとうぼく星野天知ほしのてんち馬場孤蝶ばばこちょう三宅花圃みやけかほ半井桃水なからいとうすい、島崎藤村、幸田露伴、田辺夏子、そして妹の樋口くに、読めば読むほど一葉という人はいかなる人物だったのか分からなくなってしまうほど、それぞれが見た一葉の面影を書き送っている。

なかでも鮮烈だったのは薄田泣菫のもの、一葉の面影をに描いてみたとしながら、たった一度きりの、しかもその日に二度も会った一葉の姿を記している。それは写真のように決定的な瞬間を映し出し、目がうたれるかに実に具体的で鮮明、読み手の前にその一葉が現れるかのようだった。読み終わるやではなくなっていた。

もうひとり、田辺夏子、歌塾萩の舎はぎのやに入門して以来の大親友、一葉が病に臥して一日も欠かさず見舞いに訪れた人である。この追慕は、一葉死後45年経ったときのものだが、平明な言葉で綴りながら一葉の手を握り、優しく包みこみ、ついには抱擁するかのようだった。

いずれもがその人が知る一葉像に違いないが、自分が一葉を知るにはその作品と日記を読むほかない。原文の文語を読む人はあまり多くはいないと聞くが、私は少しでも一葉のそばにいたくて、美しさきわまりない擬古文の錦繍織物にひとり顔をうずめる。

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