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個の尊厳と自立の書

ときは1938年、前年にナチスドイツがズデーテン地方に進軍してチェコを解体、ファシズムが援護射撃をしたフランコ将軍らのスペイン内乱の真っ只中、ピカソが「ゲルニカ」を描くも、国家主義の脅威は隣国ポルトガルまで及んでいた。

新興出版社の文芸欄の編集を任されたペレイラは、記事を寄稿したある青年と知り合うことで事件に巻き込まれていく。文中、ところどころに挿入された「ペレイラは供述する」「ペレイラの供述によれば」という間接話法によって、作品は調書作成の体裁を取りながら、同時に事の次第が明らかになっていく。推理小説と思いきや、しかしそこには納得の結末が待っていた。

腐敗した国家とあからさまな暴力による言論統制のなかにあって、しかしペレイラは自らの信念を貫いていく。その孤独は決して孤立ではなく、「独立」への道のりであった。

「私の同志は私だけです」「ほんとうに孤独なときにこそ大切な問題とあい対する」

作家タブッキの狙いは、いかに周縁であっても、社会のなかで自立した個を描くこと、そして個と共同体との相克だったと思われる。

自立ではなく、自由が翻ってはむしろ個人が孤立し、一方では安易な連帯や「絆」が叫ばれている昨今、作品は「自らの脚で立つ」という大切な生き方を教えてくれている。

翻訳は瑞々しいエッセーで知られた須賀敦子さん。澱みない日本語は、さらにわたしたちの背中を押してくれる。

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