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近況報告をしなければいけないプレッシャー

久しぶりの人に会う時、LINEで話す時、近況報告をしなければいけないプレッシャーがある。

私は、ざっくり言うと心が壊れて仕事を辞めた。その後、徐々に体調は回復して転職活動も始めているが、不意打ちで時折やって来る不調の波と戦いながら一進一退を繰り返し今を生きている。

そんな日々の中でも、しばらく連絡を取っていなかった友達に、ふと気になったことがあり連絡を取りたい瞬間がある。
でも、その度に付き纏うのが、「あれからどうしてるの?元気?」と言う質問に答えなければいけないプレッシャーが脳裏を過ぎり、そのめんどくささから、結局連絡を取るのをやめてしまう。

そんな時、高校時代からの友人ユカさんから久しぶりのLINEがきた。
そこに書かれていたのはたった一文。

「〇〇(現在テレビでも大活躍中の売れっ子芸人)って、おんなじ高校で同級生やったみたいやねんけど知ってた?」

ユカさんは医療従事者で、日に日に感染者が止め処なく増え続けていた主要都市の一角で勤務している。

私はこのコロナの最中、ずっと彼女のことが気がかりだった。恐らく私の計り知れない労力を日々費やし、毎日神経を張り巡らせ戦っている。

その大変さを考えたら、私がわざわざ声をかけるまでもなく、日々間違いなく彼女は頑張って働いている。それを思うと、なんて言葉をかけていいのかがわからなかった。

ほんの一言、「大変な最中だけどそっちは大丈夫??」などとLINEを送るのが一般的なんだろうけど、私にはそれができなかった。
きっと今は間違いなく大変な時期だから、もう少し、もう少し落ち着いた頃に連絡してみよう。

そんな、「もう少し落ち着いた頃」なんて、いつやってくる保証なんてどこにもないのに、ただ、なんとなく今はやめておこう。そんな私の中で勝手な理由づけをして、連絡を取るのを躊躇っていた。

それが、そんな私の勝手な気遣いを他所に、ユカさんからのLINEは、なんてことのない日常の延長線上にある繋がりに満ちていた。

私はLINEを見た瞬間、思わず吹き出してしまい、安堵の気持ちが溢れ出た。

もちろん私はその芸人が同窓生なのは知っていたし、今ほどに売れっ子になるもう随分前から、彼らの活躍は地元の間では話題になっていた。同級生達はみんな、彼らの活躍が誇りで自慢だった。

ユカさんは昔からサバサバしているが少し天然なところもあり、物忘れも割と激しい。高校卒業後は地元を離れ海外で暮らしていた経歴もあるので、恐らく高校からの友達で今も繋がっているのは私くらいしかいない。
だから、テレビで大活躍している売れっ子芸人が隣のクラスにいた同級生なんて事実が身近で話題に上ることもないし、全く想像もしなかったのだろう。

その日のLINEは、彼女の記憶の中に隠れて埋もれてしまった、テレビで活躍している売れっ子芸人と、かつての同窓生をただひたすらに繋ぎ合わせる話に終始した。

そしてユカさんは、最後まで自分の大変な近況を語ることも、私の近況を聞いてくることもなく、飼っている猫たちの写真を送ってくれて、コロナ落ち着いたらまた会いに来てやってなーとだけ私に告げてくれた。

彼女はいつも、私の近況がどうであれ、ずっと長く友達でいてくれている。

物理的な距離が離れているので、身近な人と同じような付き合いは今はできていないけど、話題に起承転結がなくても話し始めることのできる間柄っていうのはとても居心地が良い。

日常の延長線上にいる関係性の人達は、ずっと長く繋がっていられる。私が不調でも好調でも関係なく繋がっていてくれている。

私は何を躊躇っていたんだろう。
もしかしたら私は、近況報告をしないといけないプレッシャーを、勝手に背負ってしまっているだけなのかもしれない。



お読みいただきありがとうございます。 感情から湧き立つ陰と陽を解き放つ場を作りたくてnoteを始めてみました。試行錯誤の拙い文章ですが、わたしの綴る言葉のかけらが、どなたかの陰と陽にも寄り添うことがありましたらそれは幸いです。どうぞよろしくお願いいたします🌳