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日々の糧としてのパン。|京都・農家パン弥栄窯

2年前の6月。
教室の生徒さん達と1泊2日の京都旅行に出かけました。
一番目の訪問先は、「富士酢」の飯尾醸造さん。
そう、京都といっても広うございまして、目指す飯尾醸造さんがある宮津市は京都駅から北に向かって、電車でも車でも2時間ぐらいかかるのです。
飯尾さんとこのお酢のことも書きたいのですが、長くなるのでまたの機会に譲るとして。

飯尾さんは、お酢屋の五代目であると同時に地域の旗振り役でもあります。
「丹後を日本のサン・セバスチャンに!」と願い、まずは飯尾醸造から、と東京からシチリア料理が得意なシェフを招聘し、お酢を使ったイタリアンレストラン「aceto」を2017年に開店させました。今年は念願のお寿司屋さんもオープン。
教室旅行の訪問先については、丹後のキーパーソンである飯尾さんにも相談させていただき、飯尾さん自らアポイントを取ってくれたところも。
そのうちの一軒が農家パン弥栄窯(やさかがま)さんでした。

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京丹後市の山間の古民家。
我々のバスは大きすぎたため、手前で降りて、てくてく歩いて。

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弥栄窯の主で、パンを焼く、太田さん。
まだ若く、穏やかな物腰だけれど、しっかりとした芯がある人です。
京都での学生時代に東日本大震災が起こり、土と近い生き方に憧れを抱いて、当時お付き合いしていた彼女(奥様)の影響でパンを焼き始め、畑の片隅で小麦を育て、脱穀し。
雑誌で見たフランス・ノルマンディ地方のオーガニック・ファーム、そこで焼く「農家パン」に感銘を受け、教えを受けるべくこの農園に向かったという行動の人でもあります。

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帰国してこの土地に住み、自らレンガで窯を築き、麦を育て、薪でパンを焼くという「半農半パン」生活を始められました。


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石臼や、窯、粉を合わせるフネなどを見せていただき、ついつい興奮しがちな我々。
生まれたばかりの赤ちゃんのお昼寝を邪魔しないように、静かに、静かに。

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育休中でパン焼きの回数も減らしている、ということでしたが、特別にブリオッシュをご用意いただきました。

このブリオッシュ、ちょっと面白い話があって。
人数分より少し多くご用意いただいたので、帰りのバスの中で「もう一つ欲しい人?」と希望者を募ったら、手を挙げた人が多数。
ご夫婦でご参加の方が「うちは二つあるから」と遠慮されたのです。
が、翌日、このブリオッシュを食べたご主人が「なんであの時、手を下げたんだ!」と奥様を責めた、という(笑)

そんな逸話を持つブリオッシュはこちら。

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え、これがブリオッシュ?
カンパーニュじゃないの?
ブリオッシュって、バターがたっぷり入ってて、黄色くて、もっとふわふわした柔らかいやつでしょ?
と思いますよね。
私もそう思いました。
でもね、これが弥栄窯の農家パンの基本、ノルマンディのオーガニックファームで焼かれていたブリオッシュ・ペイザンヌ(農家のブリオッシュ)なんです。

原材料は、北海道産の有機小麦、地元の「ミルク工房そら」のジャージー牛乳、洗双糖、発酵バター、自家製発酵種、京丹後産海塩。

噛みしめると粉の風味とバターの香り。ほんのり甘くて。


そのあとすぐ、弥栄窯が火事にあったと知りました。
ご家族がご無事だったのは不幸中の幸いですが、しばらくパンは焼けないと……。


2年が経ち、先日「弥栄窯さん、パンの通販、再開したよ」と聞き、注文しました。
4つのパンが入った箱のずっしり重いこと!

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カンパーニュ・ビオ(田舎パン)、セーグル・エ・リ(玄米粉とライ麦のパン)、コンプレ・ビオ(全粒粉パン)、そしてあのブリオッシュ・ペイザンヌ。

自家発酵種と国産の粉を使い、薪窯で焼き上げたパンの滋味深いこと。
バターや牛乳が入っているのは、ブリオッシュだけ。
食べ比べると、リッチ。
ブリオッシュがブリオッシュであることがよーくわかります。

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ポトフのお残りと一緒に。

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セーグルに北海道・白糠酪恵舎のバターをのせて。
しみじみ、おいしい。

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邪道とは思いつつ。
カンパーニュにアボカドとクワルクを混ぜたディップを塗り、オータムポエムとベビーリーフ、エディブルフラワーを。

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コンプレに卵、イタリアンパセリ。
もちろんおいしいのだけど、やっぱりシンプルにいただくのが、パンそのものを味わえますね。

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「グルメよりも、日々の糧として誰かと分かち合っていただけますように」
パンに添えられた言葉が、沁みます。
パンを噛みしめながら、味わいながら、自問自答してみます。
浮き足立ってないか、ちゃんと地に足をつけて生きているか、と。

明日の食事会にお越しの方に、こちらのパン、お出ししようと思います。
健康で、食卓を囲むことができる幸せを分かち合うために。



弥栄窯さんが紹介された、2018年の「料理通信」の記事、webでも読むことができます。


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