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キクラボヲキク【わたなべゆきこ】

2020年4月11日(土)・12日(日)&4月18日(土)・19日(日)に、JWCM(女性作曲家会議)&PPP Project 共催で行うキクラボ1に関するインタビューシリーズ、わたなべゆきこ編。わたなべに代わって前々回、ママパパ音楽家会議について話してくれた渡辺愛がインタビュアーです。(編集・校正:森下周子)。

※2020年4月18日・19日に予定していた「春のコンポジションアカデミー」は7月11日(土)に延期いたします。

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キクラボヲキク【渡辺愛①】
キクラボヲキク【渡辺愛②】
キクラボヲキク【牛島安希子】

わたしは「外」人

ー(愛)まずは、4月18日・19日に開催する「春のコンポジションアカデミー」の話を聞かせてください。キクラボの一環として、「えいごカフェ」という座談会を予定してるじゃない?

サブタイトルに、「『外』国人作曲家から見た外と内」って書いてあるんだけど、なんでこれをしようと思ったの?

(ゆきこ)「えいごカフェ」では「『外』国人」を大きなテーマにしてるんですね。なんで今「外国人」なのかっていうと、「女性作曲家」の次をやるとしたら、「ジェンダー」とは違うマイノリティを扱いたかったっていうのが一つ。中堅女性作曲家サミットでは、自分自身がマイノリティ側で、問題について当事者として考えるっていう構図なんだけど、日本における「『外』人」をテーマにするっていうことは、私はマジョリティ側になるわけなんですよね。どちらが「中」になるかによって、「外」が変わるって、まずそれ自体が面白いなって。

私は今ドイツで外国人として生活してるんだけど、ここでは私完全に「外人」じゃないですか。「留学生」から今は変わって「移民」として生活している。「外」人として生きるっていうことは、要は「外」から「中」を見ることなんです。外から中を見ることで、見えないものが見える。その経験を日本でやってみたかったんですよね。例えば日本で活動している外国人の音楽家は、今日本で活動する上でどんなことを感じているのかなぁって。

ー(愛)それがヨハナン・ケンドラーさんのこと?

(ゆきこ)そう、彼はイスラエル出身でアメリカでも勉強してた人なんだけど、日本人の奥さんがいて日本で生活されている。

ー(愛)じゃあ、彼から話を聞くのがメインなの?

(ゆきこ)在日で活動されてる外国人音楽家はもちろんなんだけど、そうじゃなくて「外」から「中」を見た経験がある人っていう観点で、4人の音楽家を集めました。

ー(愛)メインゲストの小林純生さんはイギリスに住まれていたのよね。

(ゆきこ)小林さんは、とっても面白い作曲家で、彼の音楽、私大好きなんだけど、日本では音大を出ていなくて、イギリスで言語学を勉強したっていう少し変わった経歴の持ち主なんです。音大には所属していないのに、そこら中のフェスティバルやコンクールで、今まで何度も名前を見かけていて、それこそ彼と知り合ったのも、とある海外の音楽フェスだったんですけど、面白い人がいるなぁって思っていて。

今は帰国して日本で作曲を教えてるんだけど。言葉と音楽の関係性から多文化の話なんかも聞けたらいいな、と思ってます。

ー(愛)自分が「『外』人」っていう立場に置かれた人が集まって議論する場、という感じかな。

(ゆきこ)そうですね。実は国籍云々じゃなくて、誰もが「『外』人」になり得ると思うんです。一度外から中を見た経験があれば、そこの感覚を共有できるんじゃないかって思いました。なので、ヨハナンさん、小林さんのほかにはイギリスで勉強されて、2011年からベルリンを拠点にしている森下周子さん

あとアメリカとドイツで生活されていたサックス奏者で作曲家の森紀明さんにもパネリストとして登壇をお願いしています。

ー(愛)おもしろい面子だね。

(ゆきこ)一つ「えいごカフェ」関連で、どうしても言いたかったことがあるんです。

わたし、学生のとき企画運営活動をしていたんですね。コンサートを企画するだけじゃなくて、勉強するための場作りとか、作曲や楽器のレクチャーなんかも定期的にやっていて、留学から帰ってきたばかりの音楽家に講師をお願いすることもありました。海外で活動されていた演奏家から学ぶことって沢山あるんだけど、なぜかアカデミックな場ではそれができなかったんです。だから、自分で場所を作ってやらざるを得なかった。でも本当はそれって変じゃない?って思うんですよ。海外で勉強してきた人が、その熱のまま、それを伝える場所がない。必死に勉強して獲得してきた技術があっても、帰って来て場がないって変だし、もったいないって。それは、もう10年以上前のことだけど、状況は変わってないように思うんです。

ー(愛)そうなんですね。

(ゆきこ)今自分の周りを見ても、それぞれの能力を発揮できるポジションにいない。宝の持ち腐れですよね、活躍の場がない。それってね、もう普通みたくなっちゃってるんだけど結構問題で、私たちっていつでも先行投資してきてるんですよね。でも、投資して勉強して能力をつけても、それを発揮する場所がなかったら、腐っちゃうでしょ。それに、今から留学する若い作曲家にとっても、夢がない。これって国内だけの問題じゃなくて、アジアから欧米に勉強に来ている多くの学生が悩んでいる問題です。本当だったらね、今日本でもがいているもっと若い人たちに、少しでも還元していくべきだと思うんです。ほら、ドメスティックにやってこなきゃ駄目とか、コネつくらないと仕事なんてあるわけないじゃんっていうのが通説みたくなっちゃってるけど…でもほんとにそうかな、それって学生さん、もっと言えば、日本のね、未来の音楽のために良いことなの?って思う。

(一つの解決のためのプラットフォームモデルとして、わたなべゆきこと森下周子が1年前から開講しているオンラインゼミ「さっきょく塾」)

(ゆきこ)「えいごカフェ」では、そういうこととか個人的に思っていることなんかを、ざっくばらんに話したいっていうのがあります。あ、なんか熱く話してたら、長くなっちゃった(笑)

ー(愛)なるほど。じゃあ日本なら武生や以前なら秋吉台、海外ならさらに色々あるけど、そのような世にある作曲のセミナーと比べて、今回のコンポジションアカデミーの特色はそういうところなのかな?

(ゆきこ)「キクラボ」にひっかけるわけじゃないけど、「きく」が大事だと思うんです。アカデミックな場所だと、講師と生徒がいて、持って来た作品に「こうしたら?」っていう指南をしていくわけなんだけど、そうではなくて「何がやりたいのか」「どんなことを考えているのか」をまずは聞こうと思うんです。

作曲って、いろんなプロセスがあるでしょ。アイデアを得る・インスピレーションを得る、それを具現化していく、楽譜にして演奏にしていく。それぞれ間間に細かいプロセスがあって。それが、楽譜を見て音源を聴いて何かを言うってスタイルだと、そのプロセスを全部ギュッと圧縮しちゃってるっていうか。


ー(愛)結果だけみる、みたいな。

(ゆきこ)そういう部分もあると思う。でも、わたしはそこに至るまでの「過程」が好きなんですね。どんなことに興味があって、それをどういうふうにやったら具現化できるか。隙間にポテンシャルが眠っていることもあるし。でも、アカデミックな場では、そこが議論されにくくて、書法の話になりがちじゃないですか。日本で若い学生さんを見てて思うのは、書法っていうのは、実はみんなよくできるんです。物凄くよく書けてる。でもね、そもそも「よく書けてる」って何かっていうこと。それがどういう意味なのか?そして、その前段階の、インスピレーションを得るってところを、何をどう考えてるのか。そういうのって、みんなで話し合うことで開けてくると思う。今回は二日間かけて、それをじっくりやりたいと思ってます。

ところでキクラボって?


ー(愛)イベントタイトル「キクラボ」について、まだ誰も話してなかったんじゃないかな?

(ゆきこ)あ!そうかも。

ー(愛)もともとサロンで妄想的に盛り上がった或る企画があって、それを「聴くラボ」と呼んでたんだよね。

(ゆきこ)去年の秋でしたよね、私たち(jwcmメンバー)だけじゃなくサロンのメンバーを巻き込んでどんどん話が発展していって、イベント名はどうしようかってなった時、それが出てきた。結構長くみんなで話し合ったのは覚えてます。

ー(愛)単体の企画アイディアだった「聴くラボ」を拝借してカタカナの「キクラボ」。今回はコンサートではないじゃない?ワークショップやトーク、作曲アカデミーのほうもディスカッションが中心。何のイベントだか分かり辛くなる恐れもあるから、チラシをみたときにキャッチーな言葉があるといいよねって、皆が言ってて。

(ゆきこ)自分としては「それってなに?」みたいな、余白があるタイトルがいいなっていうのはありました。「キクラボ」は愛さんが言うように内容も様々だし、テーマも「ジェンダー」や「外国人」、「教育」なんかも入ってて、とにかく色々なものが詰まってるイベント。だから「何それ?」を引き出せるタイトルが合いそうだなーと。でもキクラボって検索したら、どこかの会社のプロジェクトで既にあった(笑)

ー(愛)まあ、ありそうだよね(笑)


ー(愛)そういえばちょっと前に、キクラボの告知をFacebookの個人投稿でしていたじゃない。その呼びかけの最後に、こう書いていたじゃない?


何かを変えていきたい、一緒に知って一緒に考えたい、気持ちを共有したい

それが印象的だったんだけど、何を変えたい?

(ゆきこ)「何を変えていきたい」まではいかない。でも、「『何かを変えたいかもしれない』人」が集える場所になるといいな、と思っています。何かを変えたいの「何か」がはっきりしてるとしたら、それって「〇〇運動」になっちゃう。それとは違うんです。

ー(愛)何かが形になる前の……目標があってターゲットがあって、そこに向かってっていうんじゃなくて、それぞれ抱えているものだったり、問題意識以前の曖昧な思いであったりを持ち寄って集まって揉まれることで、それが具体化したり違うヒントが得られたりする、それが面白い……という感じ?

(ゆきこ)そうそう。これ、うまく伝わるかわからないんだけけど、まず目的があって、そのゴールに向かっていくっていうアイディアが、そもそも薄いというか、ないんです、これは作曲しててもそうなんだけど。う~ん…。
多分ゴールはあっても、「そこにいくためのプロセスが楽しい」んでしょうね。そこを共有したい。何となく歩いてる、そのプロセスの脇道に、別の「面白いもの」が落ちてるかもしれないし。だから、ジェンダーに興味がない人、もっと言っちゃえば音楽にもアートにも興味がない人にも是非来て欲しい、何か見つかるかもしれませんよって。


ー(愛)刺激的な2日間になりそうだね。ありがとうございました!

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