ききたい

森紀明に〇〇について聞いてみた(1)

PPP Project 「ちょっときいてみたい 音楽の話」第五弾は、作曲家でサックス奏者の森紀明さん。森さんは、日本でサックスを学んだ後、アメリカ、ボストンのバークリー音楽大学でジャズを、ドイツ、ケルン音楽大学大学院で作曲、電子音楽を学び、現在は拠点を日本に移し、幅広く活動されています。今回はアハト・ブリュッケン音楽祭でのプロジェクトのためにドイツに二週間ほど滞在されており、忙しいリハーサルの合間にお話を伺うことができました(インタビュアー:わたなべゆきこ)。

――(わたなべ)渡邉理恵さんがお話していた、本田祐也さんの作品を再演する「トラベルムジカ」。ケルンのアハト・ブリュッケン音楽祭での本番間近ですね(2019年4月30日時点)。今回は「トラベルムジカ」演奏メンバーとして、ケルンに来られている森くんに最近の活動や思考についてお聞きしたいと思います。

(森)今回のプロジェクトは、理恵さんの企画、構成によるものなんだけど、コンサートだけじゃなくて、教育プログラムなども含んだ大型複合イベントなんです。彼女の人生をかけたプロジェクトに参加させてもらうことが出来て、友人としてとても光栄に感じてます。

――先日ケルンのライブハウス「Loft(ロフト)」で聞かせて頂いたコンサートも、とっても面白かったです。どういう経緯で参加することになったんでしょうか。

これも理恵さんが繋げてくれた縁で、彼女と、彼女の友人であるサックス奏者のヨハネス(Johannes Ludwig)が企画をしてくれて、演奏家として参加すると共に、僕の曲も何曲か提供させてもらいました。

――サックスって、何というかズルいというか。かっこいい。

あぁ、そう?

――他の楽器にはない「かっこよさ」があると思いました。

例えば?

――サックスって所謂オーケストラの楽器とは、どことなく違う印象なんです。弦楽器とかって、一音弾いただけで、もうザ・クラシック。なんだけど、サックスってその佇まいが、それとは違う。

なるほど。クラシックもあるんだけど、ジャズのイメージが強いですよね、サックスって。

――わたしも実は、高校生の時にジャズバンドで、ドラムを叩いていて時期があったんです。そういうバンドでね、サックスって花形楽器じゃないですか。
森くんは、どういう経緯でサックスを始めたんですか?

高校の吹奏楽部で始めたんです。

――へぇ。吹奏楽。

何か長く続けられるものをやりたいなと思って。

――長くできるもの?

中学のときは剣道やっていたんだけど、でもスポーツだとどこかでやめることを考えるでしょ、でも音楽は一生続けられるんじゃないかな、と。あとは、おっしゃる通り、見た目もかっこいいと思ったし、たまたま吹奏楽部でサックスに空きがあったので。

――吹奏楽の中でサックスって、どちらかというとメインのほう?

サックスって吹奏楽の中だと、接着剤のような感じかな。吹奏楽でのクラリネットってオーケストラでの弦楽器の役割を担うことが多いけど、サックスは、音色的にも金管と木管をつなぐ立ち位置。

――ホルンみたいに?

あぁ、そうかも。ホルンの役割と似ているかもしれない。ホルン、サックス、ユーフォニアムって潤滑油的な存在なんです。

――さっき、ちらっと、森くんが教えている音楽教室のウェブサイトを見ていたんだけど、そこに一人一人講師の指導コメントが書いてあって。
森先生のコメントは「音楽は一生付き合っても飽きることのない友人のようなものです」、でね、それを読んで森くんらしいな、と思ったんだけど、今話してくれたこととも繋がりました。

途中で辞めちゃう人も多いでしょ。もちろん色んな事情があるのは、わかるんです。でも、音楽ってやればやるほど、知れば知るほど、演奏の先にある、新しく刺激的な世界が開けてきて人生を豊かにしてくれるもので。だから、その世界を見る前に辞めちゃうのはもったいないなって。環境的に続けること自体が難しいのかもしれないけど、それぞれのペースとやり方で関わってもらえたらいいな、と思っています。

――教育の現場では、なるべく長く続けて欲しい、音楽を楽しんでほしいなって思うんだけど、その一方で、最前線で音楽活動している人にとって、その活動が成り立たないなら、音楽自体をやめてしまおう、って、そうなってしまう気持ちもわかるんです。つらいんだろうな、その状況って。

わたなべさんはやめようと思ったこと、ない?

――うーん(しばし考える)、、、ない、、かな。作曲すること自体が悦なので・・・でもね、表舞台から足を洗うって、負けた感じがしませんか?何か具体的な対象があるわけではないけど、あきらめた感。

あぁ、なるほど。それって表舞台にいたことのある人が言うことな気がする。もしくは表舞台を目指していた人とか。僕はそういうの、、、なかったんで。

――森くんは戦わない。

戦わない(笑)?

――リングに上がらない。

あぁ、そうかも。そういうものは避けてきたのかもしれない・・・というか作曲の場合は特に始めるのが遅かったから、リングがどこにあるのかも知らなかった(笑)

――リングに上がると絶対勝敗があって、負けるとその場にいるのが辛くなる、だからやめたくなる。でも、森くんが言うように、ずっと継続するためには、そもそもリングに上がらないっていう選択肢もあると思うんです。

もちろん、自分と一緒に頑張ってきた仲間がキラキラ活躍してるのに、自分は輝けないって悔しいんだろうなって、それは想像できる。

――わかるけど、自分はリングには上がらない。

なんかね、誰々に負けたくないから頑張る、みたいなのが昔から苦手で。だから音楽でもコンペティティブなものがモチベーションになることってなかったですね。

――うーん。

もっと個人的な行為として、考えていたのかな。コンクールに挑戦したこともあったけど、のし上がっていくぞっていう気負いは、ほぼなかった。今となっては、その欠片もないし。
それに、アメリカやヨーロッパで知り合った友人や同僚で、世界的にキラキラ活躍してる人って、ジャンルを問わず結構いるんです。だけど、彼らと比べて自分は日の目を見ないから音楽やめようとは思わないなぁ。

――でも、そういう人って案外少ないと思うんです。

少ない?

――戦っちゃう、人って自然と。勝ちたい欲求って自然と生まれちゃう。森くんみたいに欲がない人って、あんまりいないんじゃないかなって。

そういう風に見える?

――うん、欲ないように見える。リング上がらない時点で。

確かに、周りと比較するとそうかもしれない。

――でも、そういう価値観が、森くんが持ってる音楽観とも結びついている気もするなぁ。

それって?

――超個人的な行為っておっしゃっていて、まさにそういうことなんだけど、音楽を聞くと「単にこれやりたいから、やってるんだろうな」って感じたんです。そこに、誰かに対して勝ちたい欲もないし、邪念がない、というか。どこかでジャッジする必要もなくて、素直に聞ける安心感がある。案外醸し出せないんじゃないかって思うんです。そこに到達するのって凄く実は難しい。

どういうこと?

――例えば、「かっこよく見せたい」と思ってしまう、人って。勝ちたいからコンペでうける楽譜書くとか。そういう「勝ちたい欲求」って目に見えないけど、深層心理に入り込んでる。そこを取り除いて、本当にやりたいことを見つけるのって、凄く時間がかかる作業だと思うんですよね。

なるほど。実は僕、作曲家になりたいと思った事ってなかったんです。作曲って特別な才能がある人しかできないって思ってたから、そういう考えすら浮かばなかった。だけどアメリカ留学中に、授業の課題で書かなきゃいけなくて、やってみたらすごく楽しかったんですね。とてもシンプルな曲だったんだけど。で、それを友達に演奏してもらった時に、今まで感じたことがない種類の幸福感を感じて。「こりゃ楽しいや」って、そこからより楽しそうな方へ向かって進んできた結果、今がある感じなので、コンペでうける楽譜とかっていう発想にはならなかったですね。

ただ、自分の欲のなさをコンプレックスに感じていた時期もあったんですよ。だって欲があるって必ずしも悪いことじゃない。例えばサッカーの世界だと、クリスティアーノ・ロナウドってずっと点を取り続けてるでしょ、タイトルも総ざらいしていて。だけど、それでもなお、点を決めたい、タイトルを取りたいって思い続けてる、これも一種の欲だと思うんです。
そして、恐らく音楽も同じで、社会的に認知されようとか、有名になりたいとか、実際そこまで行くには、やっぱり欲が必要だと思うんです。自分を追い込んで、もっとより良く向上したいって思うことも、欲がないと出来ない。だから「必要な欲」ってあるし、その人が成長する上での助けになることも多いと思うんですね。


森紀明に〇〇についてきてみた(2)につづきます(6月5日更新予定)。

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