渡邉理恵に〇〇について聞いてみた(3)
ちょっときいてみたい音楽のはなし。第一弾は打楽器奏者、渡邉理恵さん。
インタビュー連載(2)はこちらから。
――例えば、欧州では前述のムジークファブリックの「Studio Musikfabrik」や、先ほど名前が出たアンサンブルモデルンの「International Ensemble Modern Academy(IEMA)」、クラングフォルム・ウィーンの「Performance Practice in Contemporary Music(PPCM)」など多くのアンサンブルが現代音楽の演奏家育成プログラムを行っていて、一部は大学と提携し、修士課程が取れるものなどもあります。例えば日本でこういったアカデミーは必要だと思われますか?
必然性があるかないか聞かれると正直わからないですね。ただ私個人の話で言うと、この10年間で、コミュニケーションが取れる根気強く経験豊富な指揮者と、例えば一曲に付き3時間×3回のリハーサルをトコトンやってきたことは、演奏家として大きく成長させてくれました。そういうことを若手の室内楽奏者として経験できる環境があれば、日本のアンサンブルシーンというのはまた変わってくるんじゃないでしょうか。中規模以上のアンサンブルだと指揮者が命ですから。
――なるほど。そういった優秀な指揮者の方とのやり取りで勉強出来ることは沢山ありそうですね。
でも、実際日本の現代音楽シーンどうなって欲しいとか、こういうプログラムやって欲しいっていうのはあんまり考えたことないですね。逆に聞いてみたいんです、アンサンブルとしてどういうことをやっていきたいのか?って。
個人レベルだと色んな活動されている方いらっしゃるけれど、現代音楽っていう大きな枠組みで考えた時に「こういうことをやっていきたい」とか、ある種の音楽的なビジョンや特徴が外からはちょっと見えにくいような気はします。
――今現在何をしてるっていう話はあっても、これから全体としてどうなっていくべきかっていう方向では、あまり話を伺うチャンスがない気はします。
私も日本にいたとき、10年20年先にどうありたいか、そのためにはどうしたら良いかを言葉で人に伝えたり、こういうと大げさですが長い人類の歴史の中で、今自分がどういう場所にいて将来どんなことができるのか、なんて考えたこともありませんでした。
「自分の現実を見ていないみたいで恥ずかしい」という気持ちもあったかもしれません。
でも言葉にして人に伝えることで、自分自身を理解したり、新たな一面が見えたりするので、正しい・間違い、可能・不可能は一旦置いて、語り合える仲間がいるのは面白いのでは、と思います。
――個人レベルで動いているものはあるにしても、毎日の生活の中で忙殺されてしまう部分もあるんじゃないかと思います。
そうですね。日本は音楽シーンも東京・京都の都市に集中しているし、さらに現代音楽は人気演奏家にオファーが殺到して、本当に忙しそう!
その点ドイツは、連邦州立国家ということもあり、シーン自体が広く、それぞれが地方都市のアンサンブルという感覚が私はあります。もちろんベルリンフェスティバルのようにビッグネーム(そして豊富な資金!)もありますが、だからと言って地方の音楽シーンの質が劣るわけではありません。そこでしか聞けないような面白いプログラムやコンサートシリーズを作り、情熱を持って来てくれる聴衆も少なからず見て来ました。音楽的な意見やスタイルが違っていてもそれは人間の多様性として、興味深く聴いてくれるんです。
前述のとおり、私はアンサンブルを脱退しましたが、そのアンサンブルのメンバーと今でも一緒に演奏したり、音楽や経済的なこともオープンを話したりしています。もちろんドイツと日本の国民性の違いもあって、全てをオープンに語り合うのが難しいこともあると思いますが、そういう仲間と腹を割って話し合える環境は大事だと思うんです。
そうだ、私は最近自分の音楽活動と収入源を、場合によっては分けて考えるための手段として第二の職業=副業について色々と考えることがあって。
――なるほど、副業というアイディアがありますよね。何足か草鞋を履いていることで、経済的なストレスを貯めないようにする、っていうのも一つあるのかもしれません。
そういった面でいうと経済的にリスクを分散させることって気持ち的にも大事ですよね。寧ろそういうことをもっと大学で教えてくれたらいいのになって思います。
――なるほど、そうですね。
お金の話ってあんまりしないじゃないですか、日本で。でもしたほうがいいと思うんです。
――コンサートをするのにどれだけお金がかかるとか、運営にどのくらい時間を割かなければいけないのか、とか、そういう話はもっとしていっても良いですよね。経済的な部分がクリアになることで、やりたいことのビジョンクリアになってくるんじゃないかと思います。日本の若い方に向けてほかに思うことはありますか?
そうですね。特に作曲家の方にはもっと好きなことをどんどんやって欲しいっていうのはありますね。好きなことを徹底して追求したり。そして若い演奏家の方には色々聞いてほしいって思います。
今の時代簡単にググれば色々な事が知れるし音源も聞けるし、ネットを通じていろんなライブコンサート情報は得られます。好きなことはもちろん、好きじゃないものも一杯聞いたら結構いい事があるのになと思います。好きじゃない、興味がないから終わっちゃうっていうのじゃなくて、なぜ自分はその音楽を嫌いかと分析するとか、、。大学や大学生って色々方向にアクセスできる格好の場だと思うんですよ。だからそれを生かさないのは勿体無いな、と思ってしまう。
――学校から離れて時間が経ってから、その有難みを感じました。
GoogleやYouTubeがもっと昔からあれば、その後の悩める10年間はなかったかもしれないなぁって思うことがあるんです。もっと勉強しておきたかったなぁって。
――私ももっと若いときに勉強しておけば良かったと思うことばかりです。
――最後に理恵さんの近年やられているプロジェクトの話をお聞きして終わりたいと思います。数年前から理恵さんは「本田祐也の作品整理室」というプロジェクトをされていますよね。理恵さんの活動のお陰で、ここドイツでも本田さんの作品を聞く機会が増えました。日本国内のみならず、欧州の素晴らしい演奏家たちも彼の音楽に共鳴し、活動に参加しています。ここからこのプロジェクトの現在の予定などをお聞きしたいと思います。
数年前にこのプロジェクト始めてました。と言っても最初はすごく小さなきっかけで、99%デジタル人間の家人に本田くんの残した楽譜の話をしたら「今日、デジタルデータで保存されていないなんてありえない!火事とかあったらどうするの!!」と言われ、、。
私は一時帰国中は基本的に暇だったので、誰もやらないのであれば私がとりあえずスキャンしようかなと(笑)。約2週間毎日スキャンをしていて、作曲家って本当にすごいな、と改めて痛感しました。
彼の作品アーカイブ活動のほか、昨年は日本でもイベントを行いました。作品リストもホームページ上で公開していて、本田祐也の音楽に興味を持ってくださる方からも多くお問い合わせ頂いています。
今年2019年5月1日と4日に、アハトブリュッケンフェスティバル(ケルン)で、コンサートも予定されています。本田祐也作品の再演、そしてそこから新しい創造の可能性を探る「トラベルムジカ」というプロジェクトで、私は代表としてプログラミング・構成と共に演奏もします。ドイツにいらっしゃる方は、是非こちらのコンサートにお越しください。
――長時間のインタビューにお付き合いいただきまして、ありがとうございました!今年のアハトブリュッケンでのコンサート楽しみにしています。
「ちょっときいてみたい 音楽のはなし」では同時代に生きる音楽家のインタビューをお届けしています。紙媒体のマガジンを目指して、記事ストック中です。 執筆サポートメンバーやインタビューリクエストも募集中です。以下コメント欄、またはホームページよりお問合せください。
次号「ちょっときいてみたい 音楽のはなし vol.2」では、チェリスト 北嶋愛季さんをお迎えします(作曲家、坂田直樹さんインタビューは、4月に延期になりました)。どんな話が飛び出すのか、楽しみです。
若手作曲家のプラットフォームになるような場の提供を目指しています。一緒にシーンを盛り上げていきましょう。活動を応援したい方、ぜひサポートお願いします!