森下周子とわたなべゆきこがききたい

渡邉理恵に〇〇について聞いてみた(2)

ちょっときいてみたい音楽の話。第一弾は打楽器奏者、渡邉理恵さん。
インタビュー連載(1)はこちらから。

――そもそもこの時代に、現代音楽アンサンブルって機能してるんでしょうか。 30年前に現代音楽アンサンブルが欧州で乱立した時代があって、その老舗アンサンブルのメンバーも今は60代、入れ替わりつつあります。今の時代現代音楽アンサンブルを作る意味ってどの辺にあるんでしょうか。 

理恵さんは、その辺りどのようなビジョンをお持ちでしょうか?

私が一時期参加していたアンサンブルは、「同時代に生まれた作品を演奏する」という目的のもと活動していたんですが、不思議なことに彼らは(舞台上で)いつも同じポジションで演奏をしているんですね。曲によって打楽器はこっち、ヴァイオリンはこっちって変えていっても良いと思うんですよ、寧ろそこから考えるべきだと思うんです。でも、変えない。新しいことをしようとしているのに、そもそも既存の枠組みに疑問がない。これじゃあ、今の時代に新たに音楽を作る意味がないんじゃないかって思うんです。

――なるほど。本当に新しいことがしたいのかっていうことですよね。前述のクラングフォルム・ウィーン(Klangforum Wien)の創始者であるベアート・フラー(Beat Furrer)、彼が30年前に彼がアンサンブルを作ったときはもっと切実だったと思うんですよ。自分が聞きたい曲を演奏するアンサンブルがない、奏者も近くにいない。そういう状況で、否が応でも自らがアンサンブルを立ち上げなければならない環境があった。

でも、今はそうじゃないですよね。現代音楽のアンサンブルも腐るようにある、でもリハーサルの数が異様に少ない。新作でも、リハーサル二回で本番って、もうフォーマット化してるじゃないですか? でも絶対足りないと思うんですよ。

絶対足りないよね。

――そして悪循環なことに、そのフォーマットを作曲家側も理解してしまっていて、その回数で出来る事しか書かなくなっているような気がしていて。自分の創造の幅を狭めて、その枠内で出来ることだけを書くようになってしまっているんじゃないかって。そして悲しいかな、そういった曲のほうが演奏家も満足するし、結果演奏される。でもそれって本末転倒だし、凄く残念なことだと思うんです。

実際メンバー内では複数のアンサンブルを掛け持ちしている例も多々あって、みんなそれぞれ忙しいのは致し方ない。ただ個人の準備段階として、もう少し出来る事があるんじゃないか、とは思います。それぞれが楽譜を細部まで読み込んだ上でリハーサルができるのか、そうでないのか、この二つには雲泥の差があると思うんです。きちんと読んだ上で(この“きちんと”も個人差があるのだけど)演奏すると、一回目の合わせでも余裕がある。こういった状態であれば、今のフォーマットでも十分対応していけるんじゃないかって思うんですけれどね。

――今欧州で新しい若手現代音楽アンサンブルが乱立していることの背景には1つ、老舗アンサンブルの教育プロジェクトが関連していると思うんですね。理恵さんもムジークファブリック(Musikfabrik)が行っている教育プログラム「Studio Musikfabrik」に講師として参加されていますよね。こういった活動についてはどうお考えですか?

まず若い演奏家同士、仲間ができることはとても良いことだと思います。そして、西洋音楽の歴史の中にいる、現代音楽アンサンブルがそのレパートリーを教えたい、伝えていきたいと考えるのは、至極当然のように思うんですね。

――確かにそういったレパートリーを伝えていくことが西洋の歴史の中ではとても重要なんでしょうね。

――わたしは
ドイツ・フランクフルトを拠点に活動しているアンサンブルモデルンのもと、2016年から一年間作曲家として研修をしていた時期があるんですが、アカデミー生はとにかく短期間で多くの作品を教わるんですね。そこで一年みっちりやると、もう相当譜読みの筋肉がついちゃう、楽譜を素早く正確に読めるようになる。どんな作品でも、太刀打ちできるようになるんです。多くの優秀な演奏家を輩出しているとても有意義なプログラムだと思うんですが、ただ初見にのみ関して言うと、初見に強くなることって実はメリットとデメリット、あるような気もするんです。

日本人音楽家は往々にして初見に強いんですよね、もともと。日本のアカデミズムの中で教育されてくると、その辺は既に鍛えられているので。初見は便利なんですけれども、でも本当のところを言うとちゃんと時間をとって練習したほうがいいに決まってる(笑)当たり前ですけど。

だから、初見によるデメリットというよりは、初見は譜読みの時間を短縮するものと考えると、その後じっくり音楽と向き合える時間が確保できるという意味でメリットはあると思うんです。

【渡邉理恵に〇〇について聞いてみた。 (3)につづきます。 】

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