見出し画像

Cabinet of Curiosities 2022~12月25日公演<New Musical Atlas>について

新しい音の世界地図を描く(森 紀明)

1970年代以降、いわゆる「新しい音楽」を専門的に演奏するアンサンブルがヨーロッパで次々に生まれ、行政等からの財政的な支援を背景に多くの作曲家に委嘱をし、音楽祭等で初演・再演をするという形で現代音楽のレパートリー拡大に大きく貢献してきました。そして1990年代以降、特定の作曲家とより密接な形でコラボレーションを行い、結果その美学的な指向をよりクリアに主張するアンサンブルが多く生まれ、その流れは地域と規模を拡大しながら続いており、現在では数多くの現代音楽アンサンブルが世界各地でローカルかつ個性的な活動を行い、地域の音楽文化を豊かなものにしています。Cabinet of Curiosities 2022、2日目は「New Musical Atlas」と題し、その中でもキュレーションを含めとてもユニークな活動を展開しているアメリカ、イギリス、スウェーデン、ノルウェーを拠点とするアンサンブルとのコラボレーションから生まれた5作品をご紹介します。

アメリカ、ニューヨークを拠点とするWet Ink Ensembleの大きな特徴は、メンバーにコンポーザー=パフォーマーが4名含まれているという点にあります。本公演で作品を取り上げるEric Wubbelsは、彼/彼女らが「バンド」と呼ぶアンサンブルの共同ディレクター・ピアニスト・作曲家です。Wet Inkは、メンバーの多くが優れた即興演奏家であるのも特筆すべき点で、彼/彼女らはヨーロッパからの影響は認めつつ、ニューヨークやシカゴの即興音楽シーンと深い関わりがあるAnthony BraxtonCharmine LeeIngrid LaubrockKatherine Youngらの作品を取り上げるなど、幅広い視野を持ちながら即興音楽方面へもウィングを広げた独自の活動を行なっています。

イギリス、ロンドンを拠点とするApartment Houseは、その名がJohn Cageの作品「Apartment House 1776」からの引用であることからも示唆されるように、実験音楽方面のレパートリーを数多く演奏しているグループです。同様の美学的指向を持つレーベル「Another Timbre」から、本公演で取り上げるLaurence Craneの作品集を含むアルバムを多数リリースしています。「私は常に、実験音楽とビジュアル・アートやコンセプチュアル・アートの実践の間に直接的なつながりがあると考えてきました。 これは、私たちが演奏する多くの作品の基本であり、作曲を従来の純粋な音楽的現象と見なす体系では、ほとんど無視されているものです。」と設立者でありグループのチェロ奏者であるAnton Lukoszeviezeはその考えを語っています。

スウェーデン、ヨーテボリを拠点とするCurious Chamber Playersは、日用品などの非楽器を大量に扱うプロジェクトを数多く行なっています。彼/彼女らのレパートリーは、昨年の公演で作品を取り上げたアンサンブルの芸術監督・作曲家、Malin Bångと、指揮者・作曲家であり、24日の公演で取り上げる宗像礼の作品を中心に、本公演で取り上げるChristian Winther Christensenや、こちらも24日の公演で取り上げるHanna Hartmanなどのスカンジナビア出身の作曲家から、Elena RykovaTimothy McCormackなどのアメリカで学んだ作曲家まで、独自の新たな美学的視点を発信している野心的な作曲家の作品を多く含んでいます。近年は、サウンド・アート領域に接続するプロジェクトにも取り組んでおり、そこでは楽器と非楽器の境界はもはや見つけられません。

ノルウェー、オスロを拠点とするasamisimasaは、彼/彼女らの最初の2枚のアルバム、本公演で取り上げるØyvind Torvundとのコラボレーション「Neon Forest Space」と、昨年の公演で作品を取り上げたデンマーク人作曲家、Simon Steen-Andersenとのコラボレーション「Pretty Sound」に加えて、本公演で取り上げるMartin Schüttlerとのコラボレーション作品に象徴される、作曲家の発明心や逸脱を最大限尊重した緊密なコラボレーションを行なっています。他にもLaurence CraneMatthew SchlomowitzTrond Reinholdtsenのポートレート・アルバムをリリースしており、アンサンブル名が回文になっているところからも想像される通り、非常に遊び心溢れる活動を展開しています。

以上、それぞれ地域も方向性も異なるグループではありますが、レパートリーは重なり合っており、彼/彼女ら固有の視座を大事にして発信している点が共通しています。グローバル化が進み、全てが没個性化しがちな現代においてもなお独自の視点から現代の音楽について考察・実践すること、それはひいては私たちの暮らす社会における価値について考えることにつながるのではないでしょうか。ユニークな活動を続けているアンサンブルと作曲家によるコラボレーションの成果をみなさまとシェアすることで、私たちそれぞれの「新しい音の世界地図」を描き、社会について共に考える機会となることを願っています。(Cabinet of Curiosities 森 紀明)

公演情報まとめ(12月24日公演)

12月25日プログラム

◤ Cabinet of Curiosities 2022 New Musical Atlas ◢
2022年12月25日(日)17時開演(16時半開場)

エイヴィン・トルヴン(ノルウェー、1976-):ウィリバルト・モーター・ランドスケープ(2012)
Øyvind Torvund: Willibald Motor Landscape

エリック・バブルズ(アメリカ、1980-):形(2010-12)
Eric Wubbels: Katachi

クリスティアン・ヴィンター・クリステンセン(デンマーク、1977-):ほとんどト調の(2016)
Christian Winther Christensen: Almost in G

ローレンス・クレイン(イギリス、1961-):ベルリンのジョン・ホワイト(2003)
Laurence Crane: John White in Berlin

マルティン・シュットラー(ドイツ、1974-):自己実験、他者(2013)
Martin Schüttler: Selbstversuch, die Anderen

主催/企画/構成/制作:Cabinet of Curiosities
協力: ゲーテ・インスティトゥート東京
助成: 公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京 〔スタートアップ助成〕 
《Cabinet of Curiosities 2022 New Musical Atlas》

文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業
《Cabinet of Curiosities 2022 New Performative Music》
《Cabinet of Curiosities 2022 New Musical Atlas》

出演者

12月25日:太田真紀(ソプラノ)、齋藤志野(フルート)、キュサン・ジョン(クラリネット)、沓名大地(打楽器)、大瀧拓哉(ピアノ、キーボード)、山田岳(ギター、エレキギター)、 松岡麻衣子(ヴァイオリン)、下島万乃(チェロ)、佐原洸(エレクトロニクス)
指揮:馬場武蔵

チケットお申込み

チケット料金 (税込):
[フェスティバルパス ]6,000円 (一般)/3,000円 (学生)
[各公演チケット]4,000円 (一般)/2,000円 (学生)
[2公演後日配信チケット]2,000円 (各公演配信チケット 1,500円) 

https://forms.gle/8XwrRokczTsGxZvw6


若手作曲家のプラットフォームになるような場の提供を目指しています。一緒にシーンを盛り上げていきましょう。活動を応援したい方、ぜひサポートお願いします!