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優しい人

嬉しいことがあると、残しておきたくなる。


今日、コンビニで買い物をすませて家へ帰ろうとしたときのこと。出口を出てすぐに、指からするりとあるものがなくなったことに気がついた。

指輪だ。小指とひとさし指にはめていた、ひとさし指の指輪。するりとした瞬間に気がついたので、その場をすぐに探せば見つかると思った。けれど意外と見つからない。

大した指輪じゃない。高価でもないし、誰かからもらったわけでもない。けれど何となく「まあいいか」という気持ちになれなかった。

5本セットで買ったこの指輪、実は以前も小指のほうを落としてしまったことがあって。そのときのほうがするりの瞬間に気がつかなかったので、もうないよなぁ…と諦めて探していたら見つかって。だから何となく今回も探したら見つかるような、何となく今回も戻ってきてほしいような、そんな感じがした。

2~3分うろうろしただろうか。
うーん、本当に見つからない。

ぱっと顔を上げると、ガードレール脇に止まった車近くにいるおじさんと目が合った。私が何かを探してることに気がついたらしい。「何か探してるんですか?」と声をかけてくれた。

「あ、指輪がなくなってしまって。でも大したものじゃないので別にいいんですけど…」とあいまいな返答をすると、ええ~指輪かぁ、見つかるんかねぇ~と、目が合ったおじさんと、そのお仲間のおじさんがガードレールを手前に越えて、一緒に探し始めてくれた。目が合ったおじさんは特に、姿勢を落として濃いグレーの歩道に目を凝らしてくれていた。

「おっ」

指から抜けたことにすぐ気がついたのになぜか見つからなかった指輪は、歩道からほんの少しずれたところに転がっていた。それを、おじさんが見つけてくれたのだ。

「はい」

さっと手渡して去っていくおじさん。「ありがとうございます!」と急いでお礼を伝える。お仲間たちは「まじか!お前すげ~な~」と称えている。見つけてくれたおじさんは、こちらを振り向くことはなかった。


高価でもないし、思い出が詰まってるわけでもない指輪。でもこの指輪は、今日とても大切なものになった。

嬉しいなぁ、シンプルに。なくしものを一緒に探してくれるその優しさが。カッコイイなぁ。見つけたらさっと立ち去るその爽やかさが。私のなくしものを一緒に探しても、見つかっても、その人たちには何の得もない。それなのに優しさをくれる。これはギフトだと思った。

おじさんはきっと「優しくしてあげた」とは思ってないだろう。でも、それが本当の優しさなのかもしれない。自己満足でもなく、あなたのためと恩を着せるでもなく。「一緒に探す」というシンプルな行動が嬉しかったから、忘れないようにこうして書いている。ギフトを受け取った私は、それを別の誰かへ渡していくことができるのだろう。


人は優しい。
優しい人でありたい。




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