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夜が暗いとはかぎらない(寺地はるな/ポプラ社/山本周五郎賞ノミネート候補作品)


<著者について>

寺地はるなさん

佐賀県に生まれ。35歳から会社勤めと主婦業の傍ら小説を書き始め、文芸誌へ応募。『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞。恋愛や結婚、家族愛など、誰もが身近に感じられるテーマを独特の世界観で綴ることを得意としている。ブロガーとしても活動。Instagramには読書記録をアップしている。

<山本周五郎賞とは?>

大衆文学・時代小説の分野で小説・文芸書に贈られる。エンターテインメント性が高く、日本の大衆文学賞として「直木賞」の対抗馬的な立ち位置だといわれることが多いが、大御所やベテラン作家が受賞する直木賞に比べて、山本周五郎賞は中堅作家が受賞する傾向が強い。ちなみに、山本周五郎は、直木三十五賞において授賞決定後に辞退をした史上唯一の人物です。

<あらすじ>

大阪市近郊にある暁町。閉店が決まった「あかつきマーケット」のマスコット・あかつきが突然失踪した。かと思いきや、町のあちこちに出没し、人助けをしているという。いったいなぜ―?さまざまな葛藤を抱えながら今日も頑張る人たちに寄りそう、心にやさしい明かりをともす13の物語。

<感想>

宮部みゆきさんが『淡く優しく、でも甘くない筆致が快い。終盤、印象的なタイトルの意味がこころにしみてくる』と帯にコメントなさってます。

大阪市近郊の暁町に昔からあって、もう閉店が決まっている「あかつきマーケット」が舞台です。

決して可愛いとは言えないマスコットキャラクターの
''あかつきん''が突然失踪してしまいます。かと思いきや、町のあちこちに出没し、人助けをしているらしい?そのうち「しっぽを掴むと幸せになれる」という噂まで流れ始め……。


表題作「夜が暗いとはかぎらない」含め、暁町で暮らす''あかつきん''とすれ違う人々のささやかな日常を描いた、13作からなる短編集です。

大事件は起きません。
平凡な人生こそ幸せな人生と言ってしまうと、本当でも何だか味気ない気がしませんか。
毎日慌ただしさに追われ、悲しみや後悔もあり、でも希望を持ち、自分の、誰かの安らぎの場所を作って生きていく…
寺地さんは平凡の中の様々を、丁寧に掬い取って見せてくれます。

「一色で塗りつぶせるような単純な人間なんかいない」「あらゆる色が、ひとりの人間のなかに存在しているのだ」「人の声に色がついて聞こえる女性」寺地さんは色をたくさん使われます。

友人でも考え方、色がまったく同じ人なんていないと知っているはずなのに、
みんな違うのが当たり前なのに、そのくい違いに勝手に傷つくことさへあります。

人生を「幸せ」か「不幸せ」の2色で判断するなんて。無数の色にまみれ、あがき続ける私達のの上に、夜が来て朝が来る。

各短編に登場する人同士は絶妙なつながっていて、その人格がだんだん分かることで、自分が物語の中で、その人達と関わっているような錯覚さえ覚えます。

若い頃は、受験会場で、他の皆が自分より優秀に見えました。
また「人の心を読めたらいいな」と思ったりしたけれど、今は「喋ってくれることだけでじゅうぶん、心の中までてにおえない」と私も思います。

比べているわけじゃないけれど、今でも、自分以外のすべての人は、自分より強く迷わず生きているように見える時があります。
でもそうじゃないのかも。自分だけじゃなく、多くの人が見えない着ぐるみを着ていきているのかもしれない。弱さやあさましい気持ちや泣き言や嫉妬を内側に隠して、他人には笑顔を見せているのかもしれない。

読んだ人が人に優しくなれるような、小さな幸せも気づかせてくれるような本ですもの、是非ご一読をおすすめします。


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