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Side storiesⅧ:Oasis

夏の盛り,水が滴るのならイイ男だけれども,汗が滴る昼日中。
お天道様の足元で,季節が肌を焦がします。
街中では,どこかセミの声も遠く聞こえて,耳にワンワン響くこともないものです。
大地は何処と探し回り,たどり着いたら電信柱じゃ,なんとも報われないはずなのに,それでもどこかでミンミン言っている。

そんな真夏に歩いていると・・・
最初の内は,頭の中を「暑い」が歩き回っていたのに,だんだん「熱い」が走り出す。
そのうちなんだか世界が真っ白で,頭の中で「あつい」が倒れてる。
なんて言っているうちに,本当に倒れているわけですが。

Leica M3 (Summitar)

ある真夏の,とある街中のおはなし。
足元に伸びる影はこれっぽっちしかなくて,トースターで焼かれた食パンはこんな気分なのかしらと頭がグルグル。
目的地はあるけれど,目的地はまだまだ先で,灰色の塀が続いています。
そんな折,まぶしい反射に思わず目を細めて,
首を横にめぐらすと,真っ白な壁に大きな窓,なにやらメニューが並んでいおり,小さく ”喫茶店” と。
窓の中は真っ暗ですが,横の扉には ”OPEN” と筆記体の札が。
無意識に取っ手に手を伸ばしていました。

カランカランと小気味良いカウベルの音。
一瞬目が眩んで。
もう一度,カランカランと扉が閉まったとたん,ハーと体内の熱気を全部吐き出して,クーラーで冷えた空気をいっぱいに吸い込んで。
お好きなところへと言ってくれるものだから,日の光から逃げるように奥の席に逃げさせてもらいましょう。
2人席の片側の椅子に腰を下ろし,立てかけてあるメニューを・・・。
妙に惹かれたのは ”クリームソーダ”
お互いにちょっと恥ずかしそうに,注文。
誰もいないことにちょっと安心。

天井の大きな羽は静かに,滑るようにクルクルとまわっていて,
カウンターで時たまカチャリとガラスの音がする以外は,冷房のコトコトいう音くらい。
氷の浮いた水を口に含むと,ほんのりとレモンの香りがして,隠れ家を見つけた気分になってきます。


そして,クリームソーダが届きます。
少し汗をかいたロンググラスに,エメラルドというにはあまりに鮮やかな緑。

小さな泡がのぼっては消えて,のぼっては消えて。
とあるカクテルのフィズという名前は,こんな泡が弾ける音だそうな。
フィズフィズ・・・フィズフィズ。

フィズがのぼった先ではバニラアイスが待っています。
ソーダの緑とアイスの白が溶けあって,混ざり合って,オズの国に浮かぶ雲はこんな感じでしょうか?
バニラビーンズの黒い影がちらほら見えるバニラアイス。
これは美味しいに違いない!

バニラアイス王が従えるのは2人の家来,
チェリー大臣とミント隊長。
ミント隊長の淡い緑はソーダ兵をよくまとめ,バニラ王をよく引立てます。
チェリー大臣の派手なピンクも,緑ばかりの世界には新鮮に映るものです。


さてさて,まずはストローでソーダをひと口。
ストローを緑色がズンズンのぼってきます。
甘いシロップに,ほんのりとバニラとクリームの柔らかな香りが広がった途端,喉にむかってソーダが駆け込んで,
跳ねまわる,ひと口目のソーダのなんと爽快なこと。

次にミント隊長は個性が強すぎるので,ちょいっとご遠慮いただいて・・・,
グラスの底まで届くスプーンでもって,バニラアイスをひと掬い。
ソーダと一緒にいただきます。
至福です。

チェリー大臣には強い信念がありますので,かみ砕けません。
最後にクリームまで飲みほして,
すっかり熱は通り過ぎ。


カランカランと扉を出ると,
またも眩しさに目を細め,
真っ白な世界が広がります。
だけどもお腹の中はフィズフィズと,
遠くに見える入道雲は子供でなくともアイスクリームに見えることでしょう。
青い空にアイスが浮かび,私の足取りはフィズフィズと。
世界はまるでクリームソーダ。

遠くまで,行けそうな気がします。

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