見出し画像

武司の仕事が早いわけ

武司の仕事が早いと、前回書きました。私がアイデアを言うと、大体2日以内にデザインを作って送ってきます。武司は午後3時くらいまでしか仕事をしないので、送られてくるのは朝です。つまり、ほぼ1日で考えて作ってきます。今までの人生、提出物は提出の前夜に用意するような私からすると、驚異的な早さです。デザイン以外でも、武司は「すぐやる課」なので、返事や決断も早い。その代わり遅いこと、モタモタしていることをすごく嫌います。理由があればともかく、ウダウダ、ぐずぐずしているのがダメなんですね。最近でこそ、私も少々は早くなりましたが、昔は忙しいと理由をつけて(実はそんなに忙しくもない)ぐずぐずしていたので、よく争いになったものです。

さて、そんな武司ですが、いったいどうしてそんなにすぐにアイデアが湧くのでしょうか。アイデアの出る蛇口があるとしますよね。それでひねったら「ジャーッ!」って出てくるなら、ホント、いいんでしょうけど。けどまあ、それくらいの勢いでてくるのが武司。

クリエイターなので、当然普段からアンテナを張って、気になるあれやこれやを自分の中にストックしているのはもちろんなのですが、それが普通にネットや本だけでなくて、落ちていたものだったりするんです。例えば、干からびたトカゲや、死んでカラカラに乾いたスズメバチ。首のない人形やどこかの小学生が落としたような壊れたキーホルダー。私から見たら「なんじゃそりゃ」ですよ、ホントに。

まあけど、そういった、身の周りで発生しているモロモロを自分の中に次々と落とし込んで行って、醸すんですね。つまりは、錬金とでも言いましょうか。素材の棚があって、私がなにか頼んだ時にはその棚からパーツをポイポイポイと釜に入れていく。もちろん、生の素材だけじゃなくて、ある程度まで樽の中で熟成させたようなのもある。発酵しているのもある。自分のエッセンスももちろん入っているわけです。それらをぐつぐつ煮ていって、上澄みを掬って濾したものが武司のデザイン。

彼の仕事が早いのは、常日頃から自分の中の棚に原料や作りかけの半製品、没ネタ、そんなものがぎっしりと並んでいるからではないかと思います。また、手元にいつも手帳を置いて、浮かんだことを常にメモしてもいます。では、誰もが自分の好きなものを収集して行けば、パパっとデザインができるようになるでしょうか。

もともと、現代美術畑であるので、昔からコラージュやなんかをよくやっていたせいか、そういう脳の構造になっているのではと思います。あと、やっぱ毎日なんか描いてますよね。ちっこいものでも。書いてもいるし。それから、やっぱ義憤ちゅうのがありますね。世の流れというか、流行ってるものが嫌い。けど、一方でまったくの機械音痴のクセにテレビでMac(半透明のヤツ)の宣伝を見て即購入。今ではそれを操ってデザインしてるわけだから、まあ、柔軟なんです。

これ、不思議なんですけど、もの作る人ってすごくこだわりがあるようでいて、実はすごい柔軟なことって多いように思います。けれど、一本芯は通ってる。その周囲をぐるぐるとらせん状に成長していく感じです。らせん状に上昇しながら、周囲のものを引力でどんどん巻き込んで自分に取り込んでいく。けど、大きくなりすぎないように随時排出もしていく。取り込んでは捨てても行く。それの繰り返しが作り手なんではないかと思います。

武司の仕事の早さに関して言うと、他に「常にシミュレーションしている」ということも大きい。例えば町を歩いているとき、「あ~、ここにうなぎ屋があったらすごくハマるなぁ」と思うそうです。で、自分でそのうなぎ屋の屋号を考えて、デザインもする。いや、勝手にやるんです。そんなのをほかのプロダクトでもいつもやってる。壁打ちみたいなものですね。それから「いや~、これ売れんやろ…」ってものも真剣に作ってる。そして店も持ってくる。そしてやっぱり売れない。けど気にせずまたなんか作ってる。

まあ、そうやって考えていくと、常日頃そういうことばっかり考えてる。頼まれないデザインを勝手にやりまくっている。それがストックされて、何か案件が浮上した時に湯水のようにアイデアが湧いてくるわけです。デザインが早いのは大いに助かるわけですが、本当になんでもやってくれて、暴走気味になることもしばしば。しかし、出せば出すほどまたアイデアが浮かぶようで、死ぬまで退屈はしなくて済みそうです。

※この記事は4月18日にUPした最初の記事から同日に書き直したものです。


ありがとうございます。サポートいただいたら嬉しいです。お店でたくさんサトナカ試食してください!