見出し画像

上座に座ってくれず、私を困らせた上司の話

「私が出会ったすごい人」この連載の第2弾は、今もお世話になっている元上司Mさんについて書こうと思う。


お前、成り上がりだな!

Mさんとは約7年前、某サービスの会社の採用面接にて出会った。
私は既にそこに勤める友人に紹介してもらい、当時事業責任者だったMさんとカジュアル面談をさせてもらうことになったのだ。

言語化できないのだが、私は「人」に関する勘がいい。わりと短期間でその人の人間性や、タイプなどを感覚的に把握するスキルを持っていると自負している。

「Mさんは大丈夫な気がする!」
そんな無根拠な自信を胸に、私はそこでまぁ普通は面接で言わないような過去まで、洗いざらいぶっちゃけた。

Mさんは「ウケるな。フリーターでキャバ嬢とかやってて、そこからリクルートのトップセールスになったの?成り上がりだな」と笑った。

どうやら私の勘は間違ってなかったらしい。

MさんもMさんでどうやらストレートボールしか投げないタイプらしく「うちの部署、高学歴のやつが多いから○○さんみたいなやつがいたら面白いかもな!」と謎の評価を返してくれ、見事採用に至った。もはや面白枠採用である。
(ちなみにその後の面接が不出来すぎて、役員面接で落とされそうになったのだが、Mさんが「俺が責任取ります」と言って採用してくれた。頭が上がらない)

上座に座ってくれない上司

Mさんは、私が前職のリクルートでお世話になったどの上司ともタイプが違った。
リクルートも破天荒なタイプの人が多い会社であるが、とはいえやはり大手企業の常識とルールみたいなものの上に成り立っていて、スタンス的にも昭和の義理人情や礼儀を重んじる人が多かった(当時は)

上司を下の名前で呼ぶ、役職で呼ばないなどの文化は財閥系企業や、老舗メーカーなどと比べるとかなり現代的なのだろうが、それでも普段のコミュニケーションは割と体育会系で、敬語をはじめとする礼儀作法なんかは、新人時代に徹底的に叩き込まれる。

そんな環境下で育ってきた私は、Mさんの上司としてのスタンスに面食らった。
はっきり言うと、最初はかなりやりにくかった。
なんせMさんは上司としての敬られ方を極端に嫌うタイプだったのだ。

例えば一緒にタクシーに乗るときは「お前先に乗れ」と絶対上座に座ってくれない(もちろん会議室や飲み会でも)
エレベーターでも「早く降りろ」と何故か私を先に降ろしてくれたり。
口調こそ命令風なものの、行動は上司と部下のそれじゃない。

え?なんで???
上司ってそういうの「うむ、ありがとう」って言って受諾してくれるものじゃないの?
なんで上座に座ってくれないの?なんで私今上座にいるのーー!

と大混乱。
また1on1面談では「ちょっとオレ今日腰痛いから、寝ていい?」と言われ、Mさんが会議室の床にPCを広げてゴロ寝、私は1人椅子に座ったまま進行するというカオス状態に陥ったことも。

寝ていいってどういうこと?ノーとも言えないし…なんなんだこの謎の状態は…

ちなみにこのことをカナダ人の夫に話すと「最高だね、君のボス!」と爆笑していた。
うん、たしかに何か海外的なところがあるよな…言動に…

他にも丁寧に話そうと前置きを説明すると「それはいいから本題は?」と切り込まれるのが日常的なコミュニケーション。

ましてや低俗なお世辞なんて言おうもんなら、逆に評価を下げられそうな勢いだった。

おだてられる事に価値はない

一連の行為に最初こそ戸惑っていたものの、次第に私はその関係性が心地よく、また本質的であることに気付き始めていた。

Mさんの行動は破天荒なように見えて、実は一貫している。それは「既存のルールは関係なく、合理さで意思決定する」ということである。

それこそ、タクシーのどこが上座だとか、エスカレーターに上司と乗るときのルールだとか、そんな本質的に意味のないことは彼にとってはどうでもいいことなのだ。
敬られたり、おだてられることに価値はない。そういう判断なのである。
むしろ、合理的に「降りやすいからタクシーは後に乗りたい」とかそういうことなのだろう。

今まで頑なに世間の、大人の常識だと思って生きてきたものを根底から崩されるのは、そしてそれが本質的な状態だというのは、実に爽快だった。

無論、それらの建前やポーズやマナーが必要な場もあるわけで、きちんと学べたことには感謝しているが(ゆえにMさんの元で育つ新卒は転職したら大変なのではと心配している)本来的にはそれらに価値も意味もない。

また、Mさんがすごいのは合理さをベースに仕事をするのに、周囲の感情にも敏感なところである。

だから、冷たい印象もないし、いつも乱暴な言葉遣いで「モラハラですよ!」とか皆に突っ込まれながらも、部のメンバー全員に慕われていた。

何より毎日のモラハラ発言も、Mさんの照れ隠しのようなところがあって、皆それがわかっているから笑えていたのだろう。
(「うるせー家の前でうんこするぞ!」発言は衝撃だったけどww)

また、仕事しような

Mさんが会社を去るとき、slackで「また仕事しような」と言ってくれた言葉が嬉しくて、ずっと心に留めている。

決して言葉数が多いわけではないMさんだが、節目節目で、いつも嬉しい言葉をかけてくれる。

私が「今から始めるのは遅すぎると否定された」とぼやいたときは「そんな事言うやつはクソだ。努力さえできれば遅すぎるなんてことはない。お前には努力できる才能がある」と言ってくれて泣きそうになった。

お世辞や遠回しのコミュニケーションを嫌うMさんからの言葉は、だからこそいつだって本音で言ってくれているという安心感がある。

もちろん「お前のそこがイケてないわ」
と率直なフィードバックもいつもくれていた。
だけど、それに傷つくこともなく、素直に受け止めさせてくれる不思議な力があった。

まだその時が訪れていないけれど、いつかまた一緒に仕事がしたいなぁと、あれからずっと思っている。

未だにかなりお世話になっているので、こんなポエムnoteを書くのは恥ずかしいのだが「私が出会ったすごい人」の連載は、素直に頭に浮かんだ人を書いているので、勝手ながら書かせて頂いた。

これからも「モラハラですよ!捕まりますよ!」とツッコみつつ、お世話になり続けたい、そんな恩師である。
(恩師とかうるせー!うんこするぞ!と言われそう)

本代に使わせていただきます!!感謝!