人のコート着て歩いてるのさ
先日スナックのママをまたやりました。
スナックは19:30〜0:00 のシフトのため、職場から銀座にダッシュで向かう。
「会員制」と書かれたドアを開けると、ダークなお香の薫りの中で店長が柿ピー(ピーなし))を小瓶に詰め替えている。
既に本業のほうで朝7:00から働いているので、4時間の営業はアドレナリンで乗り切る。
シンデレラタイムの0:00をまわると、人を追い出す。
そそくさと店仕舞いをし、終電に乗りたい店長と駅に走る。
走りながらコートのポケットに手を突っ込むと、なんかポケットが深い。いつもより。
・・・?
慌てて自分の着ているものを見ると、いつもの黒ではなく紺色がかっている。
やれやれ。誰のだ。
誰も何も見ていない
駅に向かう途中で、最後にスナックを出て行った(追い出した) 3人のサラリーマンを追い越したことに気がついた。
わたしのことを芸能人の誰々に似てるとか、追っかけしたいとか、なんやかんやと言ってくれてた人たちだ。
おー!
飲みに誘ってくれたりしないかなーと半ば期待しながら手を振ったのに、誰も気づいていない。
「え?うそ?」
と言いながら小走りで振り返りつつ手を振り続けたのだが、
「そんなもんだよ」
と同じく小走りの店長に諭される。新橋駅はすぐそこだ。
横を走っている店長は、大柄な図体で、サイドを剃り上げた長髪で、横須賀のドブ坂ストリートに売ってそうな虎の刺繍が入った黒いジャンパーを着て、何よりピンクのヒゲを小さいゴムで縛っているという控えめに言ってとても特徴的な見た目をしている。
電車の時間まであと2分。手を振るのを諦めたわたしに店長は言う。
「いかに人が何も見てないか。人が人のこと興味ないか。」
たしかにわたしもこれを書きながら、店長は髪までピンクだったか、どんな髪型だったかすらあんまりちゃんと思い出せない。この日会うのは2度目だったが、顔さえもあやしい。
まさかさっきまで飲んでた店の店員たちが自分たちを追い越すとは思っていないだろうから、そう言う思い込みの類もあるだろうが、10人くらいしかいない店で4時間近くも一緒にいたのだ。
何より、あなたたちあんだけ「かわいいね」みたいな絡みしてきてなんも見てねーじゃねーか!という気になる。
出会い頭の褒め言葉はどんだけ適当なものかを知ったと同時に (もともとまともに真に受けるべきものでもない) 、店長の言う通りいかに人は人のことを気にしていないかを目の当たりにしてちょっと気が楽になった。
人のコート着て歩いてるのさ
店に来てくれた知り合いたちの発言から照合するに、わたしが入れ違って着ているコートは、例の最後まで飲んでいた3人のサラリーマンたちの誰かのものなのだということになった。
店長の友人の友人くらいの繋がりなので、連絡手段がないことはないが、
なんかまぁいっか。
と、深めのポケットに手を突っ込みながら思う。
男物だけど、なんかおしゃれだし、買い物してないのに気分転換になったし。
知らない人のコート(しかもバーで入れ違った)を着て街を歩いてるなんて客観的に考えてどうかと思うが、どうってことないコートに銀座の香りがしみ込んだ気がする。
女物の黒コートと交換になっちゃって、相手は困ってないといいけど。まぁ、誰も他人のことなんて何も気にしてないのさ。
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