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【読書感想文】きょうも芸の夢をみる

(1074文字)

noteの街の住民で、お笑い芸人ファビアンさんの短編集。

笑ったり、ときには傷ついたり、
もがき苦しみながらもいつか売れる日を夢みる----。
等身大の芸人たちの、痛々しいほどの感情が繊細に描かれた、
芸人青春小説の新たな傑作が誕生。

ショートショート的要素を取り入れた短編集全11篇を収録。

帯より

奇抜な発想のまな板で活字に笑いを練り込み、感情のスパイスを振りかけて焼き上げた、面白くもほんのりほろ苦い、そんな短編集でした。

1話目の「禁断のコント」でまずは笑わせておいて、2話目の「腸々〜cho cho〜」からリアルな芸人たちの感情に惹き込まれていく。よくこんなこと考えつくなぁという、あり得ない状況なんだけど。
3話目の「エルパソ」は、今日で解散するというコンビの話。これは切ないなぁ。

それ以降の話も、主人公が奇抜な発想からのあり得ない設定や状況に置かれていくのだけど、芸人さんが書いた芸人の話なので、ディテールがリアルなんですよね。
それが芸人の世界の厳しさを感じさせる。
だから、いつのまにか主人公たちを応援する気持ちで読んでいる自分に気がつく。

そうやって笑いながら読み進めていくと、10話目の「まい君」はまた少し違ったテイスト。
サンパチマイクが喋るという、これまたあり得ない設定なんだけど、慢心と羨望や嫉妬などが練り込まれていたそれまでの話と違って、毎日の習慣から道がつながっていくのが爽快。
そして、芸人たちのボケの羅列。お、サンドウィッチマンだ、これは確かチュートリアル、この滑走路のネタ誰だっけ?これはノンスタイルだったかな、U字工事も出てきた、いくよくるよ懐かしい、お、やすよともこ、かまいたちのこれは最近だよな、ファナスティ?あ、ダイアンか、とかなんとか、読んでいるだけでにやけてしまった。
そして最後はちょっとほろっとさせる。

最終話の「藍情」は、M-1にチャレンジする芸人とその親の話。
時々、ラジオなどで聞いていたけど、吉本の芸人さんたちは、M-1に向かって舞台でネタを磨いていくわけですよね。事務所も応援して、勝ち進んでいくと優先的に舞台にブッキングしてくれる。
そういう緊張感のある時間が描かれていて、今や年末の風物詩となったこの大きな大会の舞台裏を垣間見られた。
そしてこの話はお笑い要素薄め。ここまで笑わせておいて、この締め方はニクイなぁ。
この話は、もっともっと先が読んでみたいですね。主人公たちはこれからですもんね。

軽くも読めるけど、味わいながら読むと、芸人の世界の空気感が伝わってくる短編集。オススメです。


ファビアンさんのnoteはこちら。


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