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【読書感想】独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖

(1008文字)

相互フォローしていただいている笹目いく子先生のデビュー作。

いやぁ、主人公の久弥、カッコ良すぎでしょ(笑)
若くして剣の達人でありながら三味線の名手。その上、長身で彫りの深い顔立ち、優しくて三味線の門人たちにも慕われ、もちろん彼を慕う麗しい娘も登場する。
大名の庶子で、お家の騒動に左右されてしまう宿命を背負い、自身を律しなければならない生活を強いられている。
序盤でその状況が分かった時にはもう、久弥に感情移入しちゃっている自分がいましたよ。
作者の思う壺(笑)

物語は久弥が大火に見舞われた江戸で、身元のわからない子供を保護するところから始まり、やがて青馬と名付けられたその子と、久弥を慕う門人であり人気芸者の真澄の3人を中心に進んでいく。
青馬の事情が明らかになって、どうなるのかとヒヤヒヤしながら、真澄の想いに応えることができない久弥に歯痒さを感じながら、どんどん引き込まれていく。
作者の思う壺(笑)

この前半で好きなシーンが、久弥が近江屋の隠居、文右衛門を訪ねるところですね。
自分に何かが起きた際には、青馬の後見役をと頼みに行くが、話は真澄のことに及ぶ。そこでの会話ね。
久弥は思慮深くしっかりした若者ではあるけど、やっぱり豪商として歳を重ねてきた経験を持つ文右衛門の方が、人の機微は一枚上手。
あまりにもヒーローな久弥が、等身大の若者に見えるこのシーン。
なんだか少しホッとするというか、文右衛門という理解者がいることに有り難さを感じた。

青馬の問題が解決した途端に巻き起こるお家騒動の中心に巻き込まれていく久弥。
ここからはもう、チャンチャンバラバラが巻き起こる跡目争い。
しかし、このお話が良いのが、そこに情が深く絡んでくるところ。
敵を一掃して一件落着、とはならない。
情が深い久弥から広がっていき、彼に呼応するように親子の情や兄弟の情、主従の情など、壊れた家中を繋ぐ金継ぎのように作用していく。

そして最後は大円団。
そりゃそうでしょう。
こうした時代物は大円団じゃなきゃいけないんです。
それでもラスト近くでは思わず目元にじわっと熱いものが溜まってしまう。
最後まで作者の思う壺(笑)

いやぁ、とにかくサッパリしましたね。それが読後感。
正しい時代小説。

それにしても、魅力的な主人公に次から次へと引き込んで読み進めさせるストーリー。やっぱり賞を取る作品って必要な要素が揃っているんだなぁと勉強になりました。
笹目先生の次回作にも期待です。


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