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緑地帯 映画監督へ(中国新聞にて) 4話 森ガキ侑大

福岡での入社式の日の出来事は今でも忘れられない。同期とランチを食べながら好きなCMや映像の話ができるのかと思っていたら、いきなり仕事が降ってきた。
 もやしをふんだんに使った、ちゃんぽん麺のCMの撮影準備で、もやしのひげをひたすらもぎ取るというもの。CMは何度も撮り直すため、大量のもやしを使う。この大変地味な作業が数日間、朝から深夜まで続いた。
 いきなり、映像業界から先制パンチを食らった気がした。やっぱり、お金をもらうということは大変なんだ。そう自分に言い聞かせようとしたが、その後も果物の種を取る作業や、背丈よりも深い池の底に入って落ち葉を拾う仕事などが続き心が折れそうになった。
 想像していたディレクターとは、ほど遠い作業を一人前になるまでひたすらしていたように思う。思ったようなCM制作ができず、福岡に来た意味を自問自答する日々。そして焦りもあった。
 だがその会社は制作部のアシスタントディレクターのような職務を経て才能が認められたならばディレクターへの道が開けるという仕組みだったので、とにかく職務をこなすしかない。その上で企画は提案し続けた。
 深夜に仕事を終えて、2時から4時までが僕の企画書づくりの時間。普段の業務が終わると紙とペンを持って、毎日、眠い目をこすりながら企画を練った。企画書を書いてプロデューサーの机の上に置くが、そのままごみ箱に捨てられる日が続いた。そんな毎日を送って3年が過ぎようとしていたある日、転機が訪れた。(映画監督=広島市出身)


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