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【短編小説】魅惑の永遠快楽死パック

A.S.(アフター・シンギュラリティ)0020年。東京都。
大学の授業はアバターに頼んで、リアルの僕は、お昼にデートの待ち合わせだ。

「今日も雨かぁ。ジメジメしてて蒸し暑いなぁ。ほんと、梅雨明け早くしてほしいわ・・」

そう呟きながら、身体を覆うナノボットをオフにすると、不快な雨が全身に降り注いだ。

この不快感が、生きている感覚を呼び起こす。

カーツワイル(AI)が地球環境をコントロールするようになり、働くことや生活も必要がなくなった。することがなくなった人類は"刺激"を身体に与えることで、どうやって死を迎えるかを考えるようになった。

「刺激」の広告は、街中いたるところのAIから発信されている。

頻繁に網膜ディスプレイに投影されるから、昨日ついつい「ジメジメ梅雨体験」をポチってしまった僕。

お昼のデートの待ちあわせ場所に着いた。
デイリー彼女の全身をなめわますようにジロジロ見ながら、ずぶ濡れのままで話しかけた。

「ジメジメ梅雨体験ってのは、不快指数高くてお買い得だったよ!」

すかさず彼女がつぶやく。

「なに?この鼻をツンとする不潔な臭いは?」

「これはオマケの"洗濯物生乾き臭"だよ!気に入ってくれた?」

「うん、とっても不潔で臭くてゲロ吐きそうなくらいステキ」

オマケの生乾き臭が彼女にウケるとは!今日はとってもついてる日だ。

「実は私も、昨日AI広告をポチッとしちゃったの・・・」

「お、どんな体験を買ったの?」

「夏のキャンペーンで"永遠快楽死パック"ってやつ。すぐに死ねるんだって・・嘘みたいでしょ?」

そんなお得なキャンペーンがあるのか・・しかもすぐに死ねるってどういうことだ?

僕は耳を疑った。

「で、そのパックを使ってみたの?」

「うん、いま使ってるんだけどね。私、死んでるように見える?」

彼女の顔色が悪い気がした。
白い肌というより、少し薄紫色に変色している。

「ん〜まだ生きてるような気がするけどね・・だって喋ってるし」

「そだよね。でもさっきから変な気分なの・・・あなたを見てすごく興奮してる・・」

彼女の目つきが変わり、瞳孔が真っ白になっていた。
ふらふらと僕に近づいてきて、いきなり腕を肩にまわされた。
押し倒され、僕は自然と彼女に身体を預けていた。
生臭い獣臭が嗅覚を刺激する。

「すごく、おいしいよ・・・」

彼女がつぶやいた・・・そこからの記憶はない。


今、痛みも不快感も感じない僕は生きてるのか、死んでるのか?

おしまい
(998文字)

kesun4さんに誘われて、NNさんのオープン企画「ゾンビネタで1000文字以内小説」に乗っかってみました。ゾンビネタってかSFになっちゃいますね〜。短編小説は難しいですね。


©️Mahalopine

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