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こんな時期だからこそ、綺麗事を言おうと思う

コロナ禍によって

呉服業界のいろいろな面がどんどん可視化されている気がします。

私のような、ある程度表に出るタイプの作り手という立場だと、お客さま(エンドユーザ)の正直なご意見、ご感想を直接伺える事が多いもので、とても参考になります。

それは和装の業界で多くの時間を過ごす私の耳に痛い話も多いのですが・・・

今回は、そんなお話を伺った上で、私自身が思う事、考える事などを・・・

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2020年の5月末ぐらいにコロナの非常事態宣言が終わってしばらくしてから、私は工房構成員といろいろな呉服売り場を観察してみたのですが、そこにあったのは「早くコロナ前に戻らないかなあ・・・」という倦怠感のようなもので「〇〇%OFFセール!」以外の部分は何も変えていないようでした。

焦燥感のようなものは感じましたが、しかし基本的には根本的な変化は考えていない様子で「withコロナ、afterコロナの、新しい時代になっても何も変えるつもりは無い」という無意識の強い意思すら感じました。「長年やっているやり方を今更変えられないだろ、変えてもっと悪くなったらどうするんだ?だったら今まで通りで良い!」という態度・・・でしょうか。

それを観た時、私の方は別の焦燥感を感じました。

このnoteで何度も話題にしておりますが、コロナ禍で、いろいろなお店で盛んに行われているセール。

一時は、セールのラッシュが一区切り、という感じになりましたが、結局またセールの連続に入っています。

セールは、作り手でも問屋業でも販売業でも「現在+未来」の利益が減るわけですから辛いのは当然です。しかしどんな社会状況であろうと少しでも売上を作らなければ、金融機関からの借り入れが出来なくなりますし、その他弊害がありますから、セールの連続が毒にもなる事を知ってはいても、セールをするしか手が無いからセールをしたくなるわけです。それは私のようなセールをする事すら出来ない零細にも良く分かります・・・

いつもここで書いておりますが、セールそのものが悪いわけではありません。しかし、セールに哲学が無いと、普段、伝統文化云々と言って販売していたことが無効化されてしまいます。

例えば・・・独自の個性を打ち出している高級品がメインのお店でも、普段は扱わないような作風の、安い商品を借りてセールを続ける事で本来のお店の美意識から外れてしまい、今まで培って来たブランドイメージを自ら壊しているところも出てきました。

また、通常は作家という扱いの人の作品が、ありえないほど安い価格で販売されていて(流通による価格の違いではなく、お店での値引き)せっかく積み上げた作家さんの評価を下げてしまっているケースもあります。

「終わりのないセールは実質的に通常価格の固定的値下げ」になってしまい、セール価格が新しいスタンダードな価格になってしまいます。業界としては「早く元に戻りたい」わけですが「元に戻れなくなる」事を繰り返しているわけです。

何にしても、危機脱却に対する業界の結論が「セールの連続」となってしまっている事に、多くの和装ファンの方々は失望しています。

いろいろな混乱のなかで、呉服業界の「文化的奥行きの小ささ」が露呈してしまった感があります。(もちろん、自分は別だと思っていません)

また、普段は口ではキレイな事を言いながら作り手の事を実質的に下に置いているような業者さんが、急にYou Tubeで作り手を持ち上げたり、その他いろいろな紹介をするのも「普段は作り手なんて人間国宝でもなければただの職人とかメーカーという扱いで放置しているのに、こういう時に急に持ち上げて、自分たちは作り手を大切にしている、なんてやっても普段は何も尊敬が無いのがバレバレじゃん」・・・そのような面でもお客さまは興ざめ、という事になっています。

・・・そんな感じで、いろいろな事が可視化されてしまいました。

そして、お客さまがたは、あっという間にセール、その他に関する情報を立体的に共有し、どのお店が「信用出来るか」「使えるのか」を見定めるのです。

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それと、セールの連続と、いつまでも次の時代への姿勢を示せない呉服業界の態度によって副次的に起こった事ですが、お客さま方にとても重要な変化が起こった気がします。

それは・・・

和装ファンの方々に「哲学の無いセールの雨」を浴びせ続けて来た結果、お客さまがたは現状流通している呉服の、商品・流通・価格について幅広く、かつ深度をもって把握し、理解を深め始めた、という事です。

言ってしまえば、お客さまに呉服業界人が知って欲しく無かった不都合な秘密がバレ初めているのです。(もちろん、元から正直にやっている業界人にとっては何でも無い事ですが)

別にそれを具体的に白状しているところは無いのですが「状況証拠的にバレている」わけです。

セール価格により、今まで手が出なかった着物や帯にも手が届くようになる場合があり「実際に購入する真剣度で比較検討するようになる」と「安いから買う」のではなく「本当に欲しいものを買う」といった具合に、買い物に、よりシビアになるという面もあります。そうなると「なんとなく有名作家のものだから欲しいと思っていたけども、冷静に観ると欲しいものでは無かった。必要なものでも無かった。これなら安くなっていても買わないな」なんて事も起こります。

ようするに、このコロナ禍で、お客さまがたは沢山の情報を得て、いろいろな体験をし、さらにご自身で具体的な行動もされているという事です。

具体的には

*世の中の行動自粛によって、着物好きの方々は家にある着物や帯、その他を確認し、断捨離したり、整理したりすることにより、お客さまにとって必要なものと必要でないものとが明確になった=お金の問題ではなく、無駄な買い物をしなくなった

*世の中の行動自粛によって家にいる時間が長くなった環境で、セールの案内が矢の雨のように届くので、気になる着物や帯を非常に綿密に比較検討出来た。セール品だけでなく、同じようなタイプの着物や帯の品質と価格を具体的に比較検討出来た

・・・という事があります。

それにより、上にも書いた

*呉服業界が、新たな未来像を提示出来ていない状態で、あからさまに売れれば何でも良い、という姿勢である事に和装ファンは嫌気がさして来た

という状況になりつつあるようです。

・・・と、そんなご意見をお聞きします。

これは私が言っているのではなく、そういう現実の声があります、というものをここに書いているだけです・・・

繰り返しになりますが

今まで、業界が意図的に、あいまいにして都合よく商売していた、そのあいまいなところが「セールの雨」で可視化されてしまい、それがお客さまにバレ始めている。さらに新しい提案を持っておらず、ただ売りつけようとして来る呉服業界に警戒心を持ち始めた

・・・という状況になっているようです。

誰だって、買い物をする際に、騙されたくないですし、納得した買い物をしたいのです

だから、私の考えでは「お客さまに正確な情報をお届けする事」が特にこの状況では大切ではないかと思います。

ある意味、当たり前の事なのですが・・・

キチンと、取り扱い商品の事を「販売者の実感を交えて、責任持って伝える」こと。

その良さ、同時に欠点も。特性をとにかく伝達する。判断するのはお客さまです。

何よりも大切なのは「売りつける事」ではなく「納得してお買い物をしていただく事」ではないでしょうか?

お客さまの判断の手助けをする事が、現代の販売方法だと思います。お客さまでは分からない、プロだからこその、情報を伝達する事が必要です。

昔は余計な事を言うな、良い事だけを言え、これは有名だ、これは権威だ、これは人気だ、もう作れる人がいない・・こんな値段ではもう買えない(実は高い)・・その他その他・・・とにかく、買うまで帰らせるな、という時代でしたが、今はもうそういう時代ではないのです。変に押し売りしても、クーリングオフされたり、ネットで批判を書かれるのがオチです。

仮に高価なものであっても、買う人にご納得いただければ何も問題は無いのです。安いから買う、という時代はもう終わっていて「これならこの価格は当然だ」「それでも欲しい」となれば、他人から観て高価であろうが、買いたい人は購入に至るのです。逆に、どんなに安いものであっても、購入時に不信感を感じたら、強く不快を感じ、その不快が長く尾を引く事になります。

・・・そんな時代になっていると、私は個人的には思っているのですが、しかしそれは昔から当たり前の事でもあります。

 * * * * 

いろいろな混乱のなか、作り手として何を語れば良いのか?と言えば、私はやはり・・・

こんな時代だからこそ、私は傍から見たら「綺麗事」を物怖じせずに言って行こうと思います。

こういう時だからこそ、経済的に厳しくても、真摯に文化を語り、その重要性、そして楽しさと奥深さを訴えるべきだと私は思います。また、その文化を担う人と技術について、語り、その実証としての作品づくりをするべきだと思います。

【言っている事とやっている事が一致している事】が大切です。

これは作品づくりでも同じで、自分の制作について語っている事と、作品が一致していなければなりません。当たり前の事なのですが、これはかなりむづかしい事でもあります。

言うまでもなく、ウチに余裕があって、こんなことを書いているのではありません。ウチレベルの弱小は本当にどうにもならないぐらいに危機です。

それが当工房の姿勢です。

出来る事は本当に少ないのですが、それでも少しづつ語り、実現したいと思います。

それ以外に私に、工房に、出来る事もないですしね。


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