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小説「ムメイの花」 #14本質の花

朝の日課。
家の前に……
右手には1本の……



今日はやたらとシーツの肌触りが最高だ。
僕が持つ体温と調和をして
全身を優しく包み込んでくれる。

目覚まし時計がならないと思いつつも、
目を閉じ、ベッドに身を委ねていた。


遠くの方で
ロケットが飛んでいく音が聞こえる。

……あれ?ロケットの音?!



状況に気がついた僕は
あわてて飛び起きた。


ロケットの出発時間ということは
今、7時のはず。

朝の日課である、
花と一緒に家の前に立つ時間だ。
急いで準備しなければ。


花のことを考えるようになって、
寝付きの悪い日々が続いている。
最近は眠りも浅い。

さすがに寝坊までするとは、
自分でも驚きが隠せない。


花を摘み取ろうと部屋の窓を開け、
天井に向かって手を伸ばした。

夢から覚めたばかりだからか、
花になかなか手が届かない。

「ん、ちゃんと咲いていない?」

ひとりごとを言ったあと、
念の為に時計を確認する。
ーー7:05 am

いつもなら満開状態で咲いているはず。


花は小さく、
手の届きにくいところに咲いていた。

「花が成長していないのか?
 それとも僕が小さくなったのか?」

僕は目を擦り、何回か瞬きをした。


部屋から外を眺めていると、
いつもとは違う角度から
ムメイの朝を見ることができた。


少し離れた広場に
集荷のお兄さんが見える。
毎朝、荷物を集め配達をしてくれている。


お兄さんは大きめの紙を持ち、
声を張っている。

紙は3枚が1組になっていた。


テキパキと指示を出していくお兄さん。
さすが毎日取り組んでいるだけある。
指示が明確で無駄がない。

そういうの、大好きだ。


お兄さんの声はよく聞こえた。
「1枚はあんたの控えだよ。
 2枚目は僕ので
 3枚目は荷物に貼ってね」



お兄さんの活動を
ぼんやり見ながら僕は考えた。


1枚1枚、紙はそれぞれ役割を持っている。
でも3枚あろうと紙であることは変わらない。


僕はいつも無口な花を1本持っているけど、
例え3本持とうが、
花であることは紛れもない事実。


花自身が「1本の花」である自覚があれば良いんだ。


他のムメイ人の朝を見てみようと
集荷のお兄さんから目線をずらしたとき、
チャーリーの姿が見えた。

今日もいつもの僕と同じように
花を持ち、自分の家の前に立っている。

ひとつだけいつもと違う点を見つけた。

それは、
今日のチャーリーが握っている花が2本
ということ。


何があったんだ。

いずれにせよ、
何本になろうとそれでも花は花。



僕はもう一度窓から手を伸ばし、
今度は背伸びをしながら
自分だけの花を1本摘み取った。


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