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小説「ムメイの花」 #13無意識の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。

今日も考える「ハナヲミヨ」の意味。
答えを探そうと意識を向けないと
ただ花を持っているだけになってしまう。



右手の花を意識をして考えよう。


家の前に立っていると
どこからか、目覚まし時計の音がした。

甲高い音を響かせているこの目覚まし時計は
今朝のムメイで一番元気だと思う。

焼き立てのパンの香りもする。
パンをくわえて遅刻をしないように走る人がいた。

寝グセをそのままにして眠そうに歩く人も。


そんなムメイ人たちがそれぞれ
「今日」という名の1日を生き、
この街を創り上げている。 

自分の気持ちを隠して、
無意識で”誰かのために”と信じ、
動かされている彼らがなんだか愛おしく思えた。


僕は自分に言い聞かせた。
「あぁ。だめだ、だめだ」


もう一度。
右手の花を意識して考える。


自分の未来のために、
花を見るチカラを探さないと。

僕は小さいとき、家の地下で
とある記録を見つけたことがある。

詳しくはあまり覚えていないけど、
家のことが詳しく書かれていたと思う。


「数字をこころとせよ」


これは言わずも知れた我が家の家訓。

「我々一族の運命は数字と共に。
 ムメイ人の発展と幸せ、そして夢のために」


物心がついたときには既に
この教えと数字と共に生活をしていた。


数字ではっきりと答えが出せたとき、
素晴らしい、さすがムメイの誇りだ!と
人々は賞賛した。

この先も同じ生活なんだろう
とは思っていたけど、
ちょっと試してみたことがある。

僕の気持ちを素直にさらけ出す実験だ。

結果は即効性があった。
僕のパワーでは人々は反応に困った顔をし、
静かにその場を去っていった。

数字を取り戻すと人々は喜び、
僕の元に集まってきた。

僕と数字では人の笑顔に
明らかな大差があった。


「そう言えば!」
僕は思わず声を出してしまった。

朝起きてから花を摘み取ろうと
屋根に手をのばしたとき、
花の成長が遅かった気がした。

まあ、花だってそんな日もあったりするか。


……また僕は無意識に
別のことを考えていた。



僕も無意識に生かされている
愛おしいひとりだ。



3度目の正直。
右手の花を意識をして考える。


花も僕と同じで咲く場所は選べない。

でも、何も考えていないように見えて
意識をして咲いているのだろうか?

意識をしなければ、
他の花と紛れてしまうだろう。

もしかして、
僕の役割は花のためなのか?
1本の花を特別にしてあげることなのか?

未知なる無意識が僕を動かし、
言葉にできない無意識が僕を曇らせた。



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