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小説「ムメイの花」 #18執着の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。


今日も花の調子はやっぱり良くない。
下を向き、へこたれている。


花は僕であり、僕は花となった今。
僕は花と一体化できているはずなんだ。

そろそろ答えを知るべきなのに、見つからない。
「ハナヲミヨ」の答えは何なんだ?
はやく僕に答えを教えてくれ!


人の気配に気が付くこともなく
突然のカメラのフラッシュを感じ、僕は驚いた。

デルタだ。

「やっと気が付いたぁ。あ、おはよぉ」

デルタを見るといつの間にか
ブラボーとチャーリーも揃っていた。

ブラボーはしっかり片手に本を抱えていた。
今日はつまずいて
本を落とすこともなく来れたのだろうか。

「最近、前に増してぼーっとしてるよね
 チャーリーだって何回も声をかけていたんだよ」

「何回声をかけたら良いんだ!
 もう今日は1日分の挨拶を
 仕切ったくらいだよ! 」

チャーリーは今日も花を片手に1本ずつ、
2本しか持っていなかった。

「あぁ、みんないたんだね。おはよう」


僕の浮ついた挨拶に、
ブラボーは心配そうに言った。
八の字眉がより演出を手助けする。

「今も花のことだけを考えていたの?」

「四六時中、花のことを考えているなんて
 アルファは花のしもべだな!」

ブラボーとチャーリーの会話を
デルタはカメラに収めながら言った。

「もう花の虜だぁ」

「アルファ、本当に大丈夫?」
心配さが増した声色でブラボーは聞いた。

「最近、実は……」

僕が放った言葉はみんなに届かず、
チャーリーの言葉によって遮られた。

「それってもしかして
 花に呪われてるんじゃないか!?」

「花に取り憑かれたぁ。
 花の幽霊、写るかなぁ。どんな亡霊だろぉ」

デルタがカメラのフラッシュを光らせる度、
ブラボーはびくっと驚き、両手で本を抱えながら言った。

「もう、本当に写ったらどうするのさ。
 近くに幽霊がいるなんて嫌だよ、やめてくれよ」

そんなブラボーをさらに怖がらせるかの如く、
チャーリーは深刻そうな顔をして話し始めた。

「ボク、どこかで聞いたことあるよ。
 ムメイにロケットすらなかった
 ずっとずっと昔、
 強い権力を持った女王様がいたんだって。

 女王様は自分に構ってくれないと
 目の前のムメイ人を小さくして
 花に閉じ込めちゃったとか。

 閉じ込められたムメイ人の中には
 そのまま忘れられてしまって今では……」

「いやいや!もういいよ、チャーリー!
 こうなったらお祓いをしてもらおう、
 あの噂のところに!」

ブラボーの声量は
今日会った中で1番の大きさだった。

「あの噂って、野蛮な霊媒師がいると
 言われているところ?
 そういう変なところに行ってはいけないって
 パパが言ってたよ!」

「ムメイにはその人しか
 お祓いできる人がいないだろ?
 絶対に祓ってもらうべきだ!」


勝手に会話が進んでいく。
お祓いなんて正直、どうでも良い。

それよりも僕は花の答えが欲しい。

なのに、
答えを見つけなければという気持ちと
身体が正反対なんだ。


最近、実は……

眠りが浅い。
やる気が起きない。
考えがまとまらない。


花を見なければ、
答えは見つかるはずはないんだ。

花を見なければ……
探さなければ……
見つけなければ……

みんなの会話は、僕には関係がなく
どこか他人事に聞こえて仕方がない。

気が付けば明日、その野蛮な霊媒師と
言われる人の元へ向かうことになっていた。

そうと決まると
みんなは花と共にいる僕だけを取り残すように
急いでそれぞれの1日へ向かっていった。



何も変わらない日々から脱する決断になる
ということは、まだ誰も気が付かずに。


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