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小説「ムメイの花」 #27適当の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。


毎朝起きてすぐに部屋の窓を開け
家の屋根に向かって手を伸ばすも、
花が時間通りに咲かなくなっているのが明らか。

右手の花を毎日見ていると
咲いている時間も日に日に短くなっている。



花と共に家の前に立っていると
いつものようにひとりずつ
フェアリーズのメンバーが集まってきた。

今朝1番に見えたのはチャーリー。
チャーリーが手に持つ花も2本のままだ。

「花、今朝も小さいねぇ。あ、おはよぉ」

デルタはいつの間にか僕の横に立ち、
花に向かってカメラを向けていた。
僕が気がつかなかっただけで
実はデルタが1番だったのかもしれない。

「チャーリー、デルタ、おはよう。
 今朝はブラボーが最後なんて珍しいね」


3人で、ぱんぱんありがとう活動の話をしていると、
いつもより慌てた様子のブラボーが走ってきた。

「ボク、今日はつまずかないに賭けてみるとする」
「そんなの槍が降るくらいの確率だよ、チャーリー。
 僕は100%躓くに賭けるね。デルタもそうだろ?」
「どっちにしろブラボーは躓くもんねぇ」

答えは僕の予想どおり。
石に躓き、抱えていた本を落とす。

「ブラボー、少しは学習しろよな!」

勝手に怒られるブラボーが来たことで
今朝も無事フェアリーズは揃った。


「みんなおはよう!見て見て!」

ブラボーはどこかから
ちぎって持ってきた紙を見せた。

花のことを知りたいムメイ人はコール・ミー・メイビー 
0000-87ハナ-1355イミココ

「完全にアルファのことだぁ」

珍しいことは続くもので、
デルタが1番に食いつく。

「デルタもそう思うだろ?
 これを見ていて遅くなってしまったよ」

「怪しいなぁ、ボクは怪しい方に賭ける」
「うん、僕もこれはチャーリーに賛成。
 怪しい方に賭けよう」

特に賭けることは決めていなかった。
一杯のコーヒーでも賭けておけばよかったと後悔。
あれこれ考える僕をカメラに収め、デルタは言った。

「でぇ、誰が電話するぅ?」

電話をするしない議論を展開し、
結果的にこの情報をもってきた
ブラボーが電話をかけることに。

電話を求め、ブラボーの家である本屋へ
フェアリーズ一行は向かった。


到着早々、みんなで電話を囲む。

「ハナイミココっと」
電話番号を声に出し、
チャーリーはダイアルを回した。

咳払いをしてブラボーが受話器を握る。

プルルルル……


「はい!お電話ありがとうございます。
 こちらフォックストロットでございます!」
「あ、あの……」
「はい?もしもーし?」

こういうときブラボーの長身は困る。
受話器から漏れる音を拾おうとするも、
受話器を見上げることしかできない。

1番背の小さいチャーリーは
ボリュームを最大限上げようと
音量ボタンを連打した。

「あの、もしもし……」

「はい!フォックストロットでございます!
 ご要件はなんでしょう?
 適当にお答えしますよ」

急に相手の声が大きくなり
思わずブラボーは受話器を手放した。

花のことを知っているらしきムメイ人は
オトコの人のよう。
とっても明るい声で陽気だ。

受話器を放ったまま、会話は続いた。

「僕にはこんな友人がいます。
 ある人に『ハナヲミヨ』といわれて、
 ずっと花の答えに悩んでいるんです。
 花の答えを教えてくれませんか?」

「悩んでいる?その、ある人というのは
 本気で『花を見なさい』と言ったんでしょうか?
 この世のすべては適当ですよ

「この世のすべてが適当?」

「悩んでいたって何も変わりやしません。
 過去や今も悩んでいたって未来は変わりません。
 なのに悩みは頭に残ってしまう。不思議ですねえ。
 まっ、それもすべて適当ですけどね」

「どうしたら適当と思えるように?」

「目の前に起きた出来事に
 適当な意味を持たせたら良いです。
 どうせ過去も今も適当なんですから、
 未来にとって都合良く捉えた方が適当で幸せですよ」


「適当が答え……」

「ご納得いただけました?
 またご不明な点がありましたら
 いつでもお問い合わせを!
 では失礼します、はい、はーい、はぁい。
 ええ、はい、では、失礼しまぁす〜」


プー、プー、プー。

一方的に電話は切れた。
ブラボーは黙ったまま受話器戻す。


「テキトーなヤツ!適当が答えって何だ!」
チャーリーの言葉と反対にデルタは興味を示した。

「面白い人ぉ。起きたことに
 適当な意味を持たせるだってぇ、アルファ」

「適当な意味があるとしたら……
 『ハナヲミヨ』の言葉がなければ
 僕はこの電話番号を気にすることもなかった。
 このムメイ人とも関わらなかっただろう」

「適当な意味はいろんな意味がありそうだねぇ」

チャーリー、デルタと僕の3人は
電話に向かって、ぱんぱんありがとうをした。


ブラボーは何も言わず、
ぼーっと一点を見たまま、考え込んでいる。
期待はずれだったのだろうか。

何より、こんな様子のブラボーを
僕は初めて見たかもしれない。

今朝は珍しいことが続く。

しばらくしてから
ブラボーは改めて電話に体を向けた。
そしてゆっくりと。

ぱんぱん、ありがとう。

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