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小説「ムメイの花」 #28手放しの花

僕の名前はブラボー。

今は朝の6時。
僕の家は店を営んでいる。
代々続く本屋だ。

いつも開店前の店の掃除をし、
綺麗になったばかりのカウンターで
お気に入りの本を読んでから
フェアリーズの活動へ向かう。
それが僕のモーニングルーティーン。

今朝は朝起きてから
屋根に手を伸ばし、花を採ってみた。

いつもと違うことをするのも悪くない。
昨日のフェアリーズの活動だって
いつもと違うことをしたから発見があった。

自分の目で確かめるのは大切。
やってみると確かに発見がある。

アルファが言っていた、
花の異変は本当だとわかったんだ。

前は全ての花が咲いていたのに
今は片手で数えるほどしか咲いていない。


僕は花を本の上に置き、
いつものように掃除を終わらせた。
そして椅子に腰をかけ、本を読もうと
ページを開いたところだった。

昨日の活動で出会った
ムメイ人の言葉が頭をよぎる。


「この世のすべてが適当」

✴︎

僕は小さいときからずっと
毎日開店前の掃除を任されている。

店には幼馴染もよく遊びに来た。

少しばかりのお小遣いを持ち
自由に好きなものを手に入れていく。

一方僕は掃除をして、
どこかに出向くことはなく
来る人を待つだけ。

父さんからの掃除のご褒美と言えば
お金ではなく決まって本だった。

「ブラボーは本を読みなさい」

真面目な顔をして言うのに
幼馴染が店に遊びに来ると、
また大きくなったか!と笑顔を見せた。


幼馴染によると
ミルクを買ってくればお小遣いをもらえるとか
洗濯をするとお小遣いをもらえると聞いた。

だから母さんにも
ご褒美のお願いをしてみたことがある。
すると母さんはこう言った。

「お店の大切な本をもらってるじゃない。
 お父さんに許しをもらって」

ブラボーという名前が
父さんと母さんから与えられたなら、
褒められても良いと思った日もある。

へこたれながらも僕は
毎日父さんがくれる本を読み続けた。

今は本しか与えられない僕が
いつかブラボーという名前どおりに
賞賛され、注目をされるようになってやる!
そう思って。

この想いがきっかけで
ある日を境に『注目される方法』の本を
覚えるまで読み込もうと決めた。

✴︎

「この世のすべてが適当」

顔も見せない適当なムメイ人の言葉は
今、僕の背中を押していた。


記憶に強く残るネガティブな出来事。

ポジティブに生きよう!と言われても
根がネガティブな僕は
100%ポジティブになることなんて無理だ。

ポジティブに言い換えられても
いつも長続きしない。

ネガティブが一時的にポジティブの仮面を被り、
その場しのぎの演技で僕を騙しているだけなんだ。
ヤツはすぐに仮面を外す。

なのに仮面がなければネガティブは
いくらでもネガティブを放出する。

どこかでこの考えを
断ち切らなければと思っていたのは確か。
でもその方法が見出せなかったのも確か。


それが今、わかった気がする。

あのムメイ人の言ったとおり
「この世のすべてが適当」と思ったら
仮面がない方が楽だと思えたんだ。

ネガティブを適当に捉え、
適当に受け流したとき、
ネガティブで良いじゃん!
そう思えた。

これが僕にとって
ポジティブの在り方なのかもしれない。

例えば、僕の過去を適当に捉えたなら
父さんはお金で買えない知識を与えようとしていた。
母さんは人を立てることを教えてくれていた。

適当な意味を持たせていると、
父さんはいつかこんなことを言っていたっけ。

「お前は子供たちが遊びに来る所を
 毎日欠かさず綺麗にしている。
 商売とはこう言うことだ。
 立派なことを学んでいるぞ。
 ブラボー、お前は他の子より賢く偉い」


時計を見ると、7時になる頃だった。

「おっと、もうこんな時間」

今日も適当にフェアリーズの活動へ向かおう。
花のことも適当に……
いやこれは真剣に相談をしよう。

僕は開いたページに摘んだ花を
しおり代わりに挟んで閉じた。



本を抱えていつもどおり、店を出る。

奥にいる父さんと母さんに
聞こえるようはっきりと挨拶をして。

「いってきまーす」


店の外に出たとき、
改めて店に体を向けた。


ぱんぱん、ありがとう。

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