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桜の妖精 4

いつの間にか、僕達は隣町まで歩いていた。
 
「あー喋り過ぎて喉乾いちゃった。この先にファミレスあるから行こう」
桜花は僕の手を取って、走り出した。
「おい、ちょっと・・」
お構いなしにどんどん進んでいく。
(彼女のペースにのまれているな)
僕は、心の中で苦笑した。
 
ファミレスでドリンクバーを注文し、一息つくと
「今日はたくさん歩いたね、疲れた?」
顔を覗き込んで訊いてくる桜花。
「ちょっとね、普段あんまり歩かないから」
「そっか、私はいつも一人で歩いていたから、今日は智史君が一緒で、楽しくて」
「僕も楽しかったよ。まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった」
「イヤだった?」
「ううん。君に逢えて良かった」
「私も」
ドリンクをストローでクルクルとかき混ぜながら答える桜花。
 
今日の出来事を脳裏で再生するように、二人の間に沈黙が流れた。
 
その沈黙を破り、口を開いたのは桜花だった。
「智史君、明日の予定は?もう決まってる?」
「いや・・・何も決めてないんだ。桜を観に行くことしか決めてなかったから」
「もし、良かったら案内したい所があるの」
「じゃ、お言葉に甘えて。よろしく」
「今日は駅前のホテル?明日十時に迎えに行くね」
「わかった」
「じゃ、約束。指切りしよ」
 
差し出された小指に絡めた時、花びらと戯れていた華奢な指先と、走り出した時に繋いだ柔らかな手の感触を思い出し、急に女性を感じて、僕はドキドキしてしまった。
 
ファミレスを出た帰り道、手を繋いだまま一駅だけ電車に乗り、僕等が出逢った場所近くのホテル前で別れた。
 
僕達の一日目は、こんな風に過ぎていったんだ。


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