#29  夜のBrooklyn・迷子で半泣き・・・ニューヨーク1人旅  2018年11月1日(木)1日目・・・29

一通り、Whole foods market(ホールフーズ・マーケット)の店内を把握し、晩御飯を手に入れた。お腹もすいたし、シャワーも浴びたい。
そろそろお散歩がてら近場をフラッとして宿に帰ろう。
明日からはManhattanを探索する3週間の旅の始まりだ。
しっかり休養して明日に備えよう。時計を見ると20:30を過ぎていた。
 
Whole foods marketを出て宿に帰ろうと歩き出した。
ところが、出口が入ってきた入り口と違うところだったらしく、外に出るとさっきと違う風景だった。
とりあえず歩き出したが、どうやら宿とは違う方向に歩いたらしく、教えてもらった目印の時計台は見えなかった。

宿から歩きながら見た風景とは違う、見知らぬ街並みが続いた。さすが方向オンチ選手権で世界一に輝ける、スーパー方向オンチの私だ。10分、15分、歩いても歩いても歩いても、右に曲がっても左に曲がっても宿に着けない。そして自分が今、どの方向に向いていて、どこにいるかもわからなくなった。もはやWhole foods marketさえどこだかわからなくなり、焦った。

20:30過ぎにWhole foods marketを出たのに、気づくと時計は21:15。
45分も迷子になっていた。
大通りに車はビュンビュン走っているが、歩道には道を尋ねられる人は歩いていない。しかも暗くて周りの様子はあまりよくわからない。

途中、マクドナルドやStarbucksを見つけ、日本で見ている店構えや、お店のロゴが同じなことにホッと安心した。
New Yorkに来たなら、Starbucksには行かないとネ!と迷子になってさまよいながらも、入店を楽しみにした。
後にイヤというほど利用するハメになるのだが……。
 
歩けど歩けど一向に宿には着けず、焦りが大きくなり、うろたえた。
後から冷静になってみれば、宿に電話やメールをすれば、すぐに陽子さんが助けてくれたと思うのだが、その時は気が動転して思いつかなかった。
それに、ネットはフリーだが、通話には1分100円かかるので〝New Yorkで通話〟は、はなっから考えていなかった。
 
初海外、初一人旅、初New York、初迷子。帰りたいのに帰れない。
英語ができないことも合わさって、心細くて泣きそうになった。
もう永遠に帰れないかもしれないとさえ思えてくるほど、パニックになった。
 
困り果てていると、向こうから犬を散歩している女性が歩いてきた。
犬を散歩させる人ならきっとご近所の人だ。この人を逃したら、もう人に聞けないかもしれない。相手は女性だし襲われることはないだろう。
宿の名前を言っても知らないだろうし、駅を聞いて説明されても聞き取れない。仕方がないので、
「Excuse me. Where?」
と言いながら、持っていたWhole foods marketの紙袋に描かれていたロゴマークを指差した。

Whole foods marketでお買い物をした日本人が、Whole foods marketはどこかと聞いているのだから滑稽だ。

女性は一瞬何のことかわからなかったようだ。私のWhereがカタカナ英語だったから聞き取れなかったのだろうか。けれど、これ以上もう何も言えないので、何度も何度もWhole foods marketのロゴマークを指差した。
心の中で〝ここ!ここ! ここWhole foods marketに戻りたいのっ!! どうやって行ったらいいの?!?!?!〟と必死に叫びながら、何度も何度もロゴマークを指差した。するとおねえさんは、
「Oh!」
と言いながら、説明してくれたが、案の定理解できない。もうこうなったら言わずにはいられない。日本語で、
「え? あっちに行ってこっちに曲がるの?」
と言いながら空中で指をさした。〝そうよ〟と言いっているように、おねえさんは頷いてくれた。
ああ助かった。これでとりあえず、ここからWhole foods marketの方角だけはわかった。これで戻れるだろう。今度はやたらむやみに歩かずに、慎重に帰ろう。

そうして15分程歩くと、やっとWhole foods marketが見えてきた。
おそらく気温は15度前後だったと思うが、冬コートを着ていた私は汗だくだった。成田空港の荷物預かりであんなに恋しかった冬コートが、このときは邪魔だった。

ぐるぐるぐるぐる歩き回り、焦り、不安で半泣き状態になりながら、やっと見えてきたWhole foods marketが、ほんの少しだけ懐かしくなり、ドッと疲れを感じた。そして今度は慎重に慎重にWhole foods marketから宿に向かって歩いた。

が、ところがである。

辿り着いたのは、Whole foods marketも宿も通り越して、Atlantics Avenue - Barclays Center(アトランティック・アベニュー-バークレイズ・センター) station。
ふりだしに戻った。何をやっているのだ私は。自分でも驚いた。
でも大丈夫。駅からなら簡単に宿に行ける。駅を出たら歩道を右手に進み、2つ目の信号を左に曲がると宿がある通りに出るから。
 
19:30に宿を出て、晩御飯を買って帰っただけなのに、部屋に戻ると22:00をすぎていた。慣れていれば、行って帰ってくるのに15~20分ほどの行程である。
 
初日の最後が迷子で半泣きなんて、いかにもドンクサイ私らしい終わり方である。部屋に帰りつき、1人で笑ってしまった。
 
日本の自宅を出て、いきなり長女に驚かれ、迷子になって宿に辿り着くまで、私は数えきれないほど大勢の人に親切にされ、助けられた。
本当にたくさんの人に。それだけで感動して胸がジーンと熱くなる。
 
35年以上憧れ続けたNew Yorkの空気感は、想像していたよりもずっとあたたかみがあり、優しかった。きっと素晴らしい3週間になる。
根拠のない確信にわくわくした。

自宅を出てから何時間が経ったのだろう。時差ボケも疲労もなく、エキサイティングな長い長い長―――――――い、出発から到着の1日だった。

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