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カッシーラー『アインシュタインの相対性理論』/ 要約&解説

ちょっとひとこと

 はじめまして。
 ここでまとめる一連の文章は、エルンスト・カッシーラーの『アインシュタインの相対性理論』(以下、『相対性理論』)についての読書メモです。
 といっても物理の解説書ではありません。相対性理論が認識論においてどのような意義を持つのかということについての、カッシーラーという哲学者による論考です。
 科学哲学を勉強された方であれば、「相対性理論の哲学的意義」などと聞くと、何人かの思想家の名前がすぐに浮かぶでしょう。
 あるいは、物理と哲学と一体何の関係があるんだ、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
 実はそれが大いに関係あるのです。相対性理論をめぐる哲学的議論はとても面白く、知的好奇心が刺激されます。それだけではなく、科学技術に関わる人間にものの見方を考え直すきっかけを与えてくれるものです。ものの見方とは、言い換えれば世界観です。現代の我々は当然のように、科学的世界解釈と人間的多様性の奇妙な混合の中で生きていますが、こうした世界観が築かれる端緒、ダイナミックな思想の転換がまさにアインシュタインが生きていた時代――19世紀末から20世紀前半にかけてはじまりつつありました。
 世界観の解明は哲学の仕事であって、カッシーラーはこの点に関してカントの哲学を受け継ぎながらも壮大な主著、『シンボル形式の哲学』を書きました。『相対性理論』はその入り口だと、訳者の山本義隆氏が指摘しています。
 したがって、この文章の目的は『相対性理論』を理解することで、カッシーラーの主著である『シンボル形式の哲学』への足掛かりとすることです。
 カッシーラーについては日本語の解説書籍などが少ないので独力で読み解くしかない状況です。また、『相対性理論』はかなり入手しづらい状況になっているので、まとめておけば誰かの役に立つこともひょっとしてあるかもしれません。本文に依拠しつつ、筆者の少ない知識を総動員して要約・解釈していきたいと思います。

・要約に用いた本

E・カッシーラー『アインシュタインの相対性理論』、山本義隆訳、河出書房新社(1981).
E. Cassirer, "Zur Einstein'shen Relativitatstheorie; Erkenntnistheoretische Betrachtungen," Bruno Cassirer Verlag, (1921).


各章の要約へのリンク

 


諸注意

注意1:概ね本文の流れに沿って要約しています。筆者自身の意見や解釈を述べたり、本文の流れから外れる際は「❕」で明記します。それ以外の部分は、日本語的に筆者の意見に読めるようなところも、基本的には全て本文に依拠しています。というのもいちいち「カッシーラーによれば~」とか「~とカッシーラーは述べている」と書いていると煩雑だからです。とはいえ、要約している以上は筆者の言葉も多分に入り込んでしまうことはご了承ください。
注意2:便宜上、節に分けて見出しをつけています。元の本には章による区切りのみでこれらの見出しはありません。
注意3:訳文ではドイツ語が適宜ルビで補われていますが、ここでは省略します。


蛇足――自己紹介的な

 簡単に筆者(このnoteの)の興味について。筆者は物理が専門です。学部生~修士学生の頃、論理実証主義に興味を持ち、ウィーン学団関連の本などを読んでいる中でたまたまハンス・ライヘンバッハの相対性理論およびカント哲学に関する論考(『Relativitätstheorie und Erkenntnis A Priori』)を読みました。ライヘンバッハはカッシーラーの弟子です。ウィーン学団の中心的な人物でもあります。上の論考はウィーン学団の例の声明が出る前に書かれたものですが、ライヘンバッハの論理偏重的な姿勢はすでに表れています。自らの分析手法を「logical analysis」と呼び、アインシュタインの相対性理論に内在される論理構造を基にしてカント哲学を批判しました。この論理偏重姿勢はウィーン学団界隈に共通する特徴だと思いますが、21世紀に生きる身としては読んでいて違和感を感じる部分が多かったです。一方、同じ頃に入手したのがこの『相対性理論』だったため、筆者はカッシーラーも同系統の哲学者なのだと勝手に誤解し、『相対性理論』は流し読みしただけで放置していました。
 数年後、筆者は論理実証主義など全く忘れ去り、神話や昔話の解釈本を読んでいました。神話学の入門書がきっかけでカッシーラーの『シンボル形式』を知り、カッシーラーが科学哲学には収まらない射程を持つ哲学者であることにようやく気が付きました。カッシーラーはあらゆる人間文化をシンボル活動として分析しようとします。個人的にこれにとても興味を惹かれました。というのも、シンボル形式は認識論や物理学のみならず、言語、神話、芸術などまで相手にした理論です。ウィーン学団のような論理偏重姿勢とは一線を画しながら、我々が当然のように抱く科学的世界観に内包されている論理・構造といった考えを押し進めたものに思われるからです。
 要するに、物理をやっている人間からするといかにも面白そうな理論なんです。
 カッシーラーの理論に関しては、あまりに理論的で現実問題への言及が少ないという批判もあるようですが、そのことを心に留めつつ世界観の探求を行おうではないですか。
 さて、『シンボル形式』にいきなり挑むのは無謀と思い、一般向け解説書がないか探してみましたが、カッシーラーに関する体系的な(日本語の)研究書はほとんど見当たりません。自分で頑張って読み解くしかないようです。訳者の山本氏によれば、『相対性理論』は『シンボル形式』へとつながるもののようです。都合のよいことに、筆者は物理系なので、相対性理論自体に関していちから勉強する必要がありません(多分)。そういうわけで『相対性理論』から精読してみることにしました。
 この文章を書き始めた動機はざっとこのような感じです。筆者は哲学は素人なので、もし間違いなどがあれば優しくご教示ください。



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