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被爆3世の私が8月6日に思うこと(1)

私の祖父(母の父)は、広島で被爆しました。
祖父は最初の奥さんを原爆の影響で亡くし、私の祖母と再婚して母が生まれました。母と母の姉は腹違いの姉妹になります。

つまり、広島に原爆が落ちなければ、祖父の奥さんが亡くなっていなければ、母も私もこの世に生まれていないということ。だからといって、当然落ちてよかったなんて思わない。思うわけない。じゃあ、どんなことを思うか?という話です。

広島・平和記念公園

①原爆投下された8月6日の、広島での祖父の話

祖父は朝、電車に乗ってる時に原爆が落ちました。
列車は爆風で横転し、窓ガラスも割れて粉々になりましたが、幸い祖父は鉄でできた車両という箱の中にいたおかげで軽症で済んだようです。
爆心地からも少し離れていました。

祖父は、何が起こったのかすぐ理解はできなかったけれど、とりあえず助かったと思ったあと真っ先に向かったのは、爆心地に近い自宅方向。そこには妻がいるはず。

しかしどうやってそこまで行けば良いのか。
近くに転がっていた自転車に乗ろうと思ったけれど、ハンドルは熱すぎて握れず、タイヤのゴムも地面の熱で溶けてしまい使い物にならなかったため自分の脚で向かうことにしました。自分の靴底も溶けているというのに。

しかし、街ごと吹き飛ばされていて、目印になるような建物もほとんど残っていない焼け野原。どこが自宅だったか分からないほど街は変わり果てていました。

小学校の修学旅行は広島でした。
私は、他の子たちより少し違った気持ちを
感じて見ていたかもしれません。

近づいていくほどに、ぼろ着れを纏い全身の皮膚がただれ落ちながら歩きまわる人などの怪我人と、真っ黒な死体だらけの光景。川には水を求めて無くなった死体が山のように折り重なっていたそうです。
【死の雨】【死の灰】も降っていました。

動ける身体の男性は貴重だったので、当然、自分の妻探しだけに専念できるわけもなく、怪我人を介抱したり助けられる人は助けたり、亡くなった人たちをトラックの荷台に積んで運んだり。
作業に追われ、妻に会えたのは何日もたってからでした。

②祖父の最初の妻の話

その時、祖父の奥さんは自宅で被爆しました。
あまりの眩しさに咄嗟に両手で顔を覆ったので、顔だけ無事で手の甲から腕、身体の背面以外のほとんどに火傷を負いました。

顔には覆った手の指の型が残っていました。
しかし、周りも全身火傷の人たちばかり。ガラス片が降り注いで怪我も負いましたが、病院も医者も看護師も何も機能しなくなった焼け野原で充分な手当てなど受けられるはずもない。
顔が無事で目も見えたため、しばらくはもっと酷い人たちの救助を手伝っていたそうです。

夫に再会できたのは何日もあと、そして妊娠に気がついたのもそれから何ヶ月もたってからでした。
生理がこなくても、被爆や火傷の影響だろうと思っていて、妊娠を想像しなかったそうです。

重症の火傷を負い、満足な手当ても受けられなかった上、赤ちゃんを産む病院や体制も充分でなかったけれど、堕ろせる時期もとっくに過ぎていたし堕ろす病院などもない。産む選択しか出来ませんでした。でも他の選択肢が残っていたとしても産んでいただろう、と祖父。
妊娠が分かった時には、放射能の怖さもまだ分かっていなかったし、二人とも素直に喜んだそうです。

しかし、無事に女の子を産んだけれど、出産後の出血が止まらず奥さんは赤ちゃんを一度だけ抱いたあとすぐ亡くなりました。被爆や火傷が影響したのは明らかでした。
このとき生まれた女の子が、私の母の姉です。
今も健在で、母とも仲が良い、70代後半の私の伯母さんです。

③私の祖母(祖父の後妻)の話

私の祖母は、看護師でした。
爆心地からはかなり離れたところに居たため無事でしたが、被爆者の手当てや治療のために広島に来ていました。

祖父とは血の繋がりはない遠い親戚でしたが、祖父の奥さんが出産後に亡くなったことを知り、
「私がその赤ちゃんを一緒に育てていきたい」
と名乗り出る形で、祖父と結婚しました。逆プロポーズですね、祖母も凄い人だったと尊敬します。祖父は再婚、祖母は初婚です。

恋愛感情ではない結婚でしたが祖母はその女の子を大切に育て、のちに男の子(私の伯父)と女の子(私の母)も生まれました。
3人の子どもたちを分け隔てなく育て、長女のみ母親が違うということは本人にも弟妹にも成人し就職するまで黙っていたそうです。

母も、姉と自分は全然似てないなぁとは思っていたものの、まさか腹違いだったとは想像もしておらず、聞いた時には衝撃を受けたそうです。
ですがすぐに、だからと言って姉との関係や母への感謝などの何かが変わる訳でもない、と思えて気にならなくなり、お姉さんとは現在も仲良しです。

祖父の手記は、広島平和記念資料館に寄贈され、
現在でも閲覧できます。

(2)へ続きます ~④⑤⑥

長くなってしまうので、続きは次回。

④被爆2世の母とその姉兄の話
⑤被爆3世の私が思うこと
⑥祖父の手記について

続きが気になっていただけた方は、次回もよろしくお願いします。

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