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宇宙ガ、マルゴト、ヤッテクル

1985年。コナミ工業が一つのシューティングゲームを世に放った。「1.9.8.5. 宇宙ガ、マルゴト、ヤッテクル」のキャッチコピーと共に我々の前に現れたそのゲームは、今から振り返ればさして大きなものでもないモニターの中に、無限の大宇宙を感じさせてくれた。そのゲームの名は「グラディウス」 その後しばらくの間、コナミを代表するゲームとなる。


グラディウスは、1980年代前半にリリースされた作品群のほとんど全てがそうであるように、革新的な要素を多数搭載したゲームであった。

まず、誰もが心を奪われたのがそのBGMである。この時期のコナミ特有のSCCを駆使した甲高い電子音をうまく使って、神秘的でありながら勇壮で、時におどろおどろしく、だが確実に耳に残る名曲が揃っている。作曲者は当時大阪音楽大学に通っていた東野美紀。彼女はコナミで作曲のアルバイトをし、驚くべきことにこの「グラディウス」と「沙羅曼蛇」等の楽曲をバイト中に発表している。コナミという、創業50年を超える、いまは日本を代表するゲームメーカーの一つとなった会社を象徴するような楽曲を、「バイトの姉ちゃん」が作っていたとは不思議なものだ。

さらにグラディウスが他のSTGと一線を画していたのが、その多彩なステージ構成である。当時のSTGといえば、ステージが変わっても背景のカラーパレットと敵のキャラクターテーブル、そして難易度で差別化するのが一般的だった。だが、グラディウスはステージが変わると、構成そのものがガラッと変わる。一面は宇宙から火山、二面はストーンヘンジ(といわれているが意味は不明)、三面はなぜかモアイが口からイオンリング砲という武器で攻撃してきて、四面は逆火山ステージ、五面の触手、六面の細胞面を経て、最終ステージの要塞でマザーコンピュータと対峙するのだ。

さらに凄いのが、これら全てのステージのBGMが全て違うことだ。これは当時のゲーム業界では本当に画期的であった。ステージボスこそほとんどのステージでビッグコアが務めることになるが、そもそもゲームを通して同じBGMが続くのが当たり前だった時代である。しかも、各BGMは個性的で一度聞いたらなかなか忘れない魅力を有している。今でもコナミの音楽ゲームで初期グラディウスや沙羅曼蛇の曲が使われていることを鑑みると、これらの楽曲の完成度の高さが伺い知れる。

ゲームシステム面での特徴は、とにかく自機であるビックバイパーの攻撃手段の多彩さだ。自機は特定の敵を倒すことにより手に入るパワーアップカプセルの取得状況に応じてパワーアップボタンを押すことにより、様々な強化を果たしていくことになる。このシステムの素晴らしいところは、自機の強化の方針を自分で選択できることだ。一面の空中戦でいくつかのカプセルを取得できるが、この時点で自機のパワーアップ手段にプレーヤーによる違いが現れる。これだけでもこのゲームの懐の深さがわかる。

そして、自機のフル装備での攻撃がとにかく強い。自機の動きをトレースしながら、同じ攻撃手段でサポートしてくれるオプション、そしてこのゲームの象徴である一直線に伸びる美しいレーザーは、ほとんどの雑魚を一撃で破壊し貫通していく。さらに、初代のレーザーは見た目よりも上方向に当たり判定が強く、自機を素早く上下に移動させることにより、背景の向う側にある敵をも破壊するテクニック「レーザーワインダー」が最高に強くて格好いい。画面を縦横無尽に動き回りながら敵を葬っていくビックバイパーは、まさに惑星グラディウスの救世主であり、敵のバクテリアン軍にとっては恐怖の象徴であろう。

そんなビックバイパーも、一度やられてしまうと全てのパワーアップを失ってしまう。グラディウスは自機のパワーアップ状況やノーミスプレイ時間をもとにゲームの難易度が随時調整されるシステムが搭載されているが、一度死んだくらいでは難易度は下がりきらないので、残機が沢山あろうとも一気にゲームオーバーまで直行してしまうリスクを大いに孕んでいる。

だが、人は困難に直面するとそれを乗り越えようとするもので、グラディウスのプレーヤーにおいてもそれは例外ではなかった。グラディウスの敵は基本的に決められたアルゴリズムで移動し、自機を狙って攻撃をしてくる。これを逆手に取って、自らの動きをパターン化することで、敵の攻撃方向を固定し、一見突破は不可能に見えるような状況でも抜け出すことの出来る攻略法を編み出した。これを「復活パターン」という。高次周での復活パターンはもはや芸術の域に達しており、ゲームに詳しくない人間が見てもその凄さは伝わってくる。

AAAタイトルの制作費が高騰し、低予算のゲームはスマートフォンやインディーゲーム市場へと流れた。だが、一部のスマホゲーはやはり予算の高騰に悩まされており、例えばコナミのような巨大なメーカーがSTGをこの時代にフルプライスでリリースする可能性はほぼゼロに等しい。だが、ハードウェアの進歩は、かつてモニターの中にあった無限の大宇宙を持ち運べるまで身近にした。少し前の時代ではフィジカルなメディアでしか存在し得なかったゲームたちは、現代の電子の海で今でも元気に泳ぎ回っている。

むかしは良かったなどと言うつもりはない。むしろその手の懐古論は正直いって嫌いな部類に入る。だが、わずか数百円で80年代の子供達、そしてゲーマーが熱狂した歴史に残る傑作を手にできる時代が来たのだ。

そう、本当に、「宇宙ガ、マルゴト、ヤッテキタ」のである。

グラディウス #とは

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