見出し画像

文学フリマへの不安@おまけ短文

不安だああああああああああ

なにがどうというわけでもないのですが。
ただ文学フリマが不安だという。
一人も立ち寄ってくれなかったらどうしよう、という思いが毎夜毎夜浮かび上がって、しまいには参加するんじゃなかったとすら思ってしまっている次第。
なにか手を付けていれば気もまぎれよう。ということで短い文を書いてみたので乗せておきます。
昔なろうに乗せたSSを手直ししたものです。
追記。毎日投稿・・・できませんでした。どんまい自分。


おまけ短文:うつくしきかな本の虫


病なのだ、と本を捲る手を止めずに彼女は言った。

「病?」
今日の授業を終えて、私たちは名残惜しむみたいに夕日の差し込む教室にいた。先ほどまでいた男子のグループも数分ほど前に賑やかな声を木霊させながら帰っていった。読みづらいだろうとカーテンを閉めようとした私を止めたのは彼女で、開いた窓からは野球部の元気な掛け声が聞こえてくる。
病って、最近では色々ある。
心の病もあるし、身体の病もある。人によっては病でないことも、人によっては病になったりする。
彼女は皆勤賞を取るくらい元気で、健康で、でも、どこかに薄暗い闇みたいな病を抱えているのかもしれなくて。それを今になってようやっと言ってくれたのかもしれなかった。
俯いた顔を覗き込む。どこかに兆候があったんじゃないかって思って。だけど、放課後の夕日を浴びる彼女の頬は健康的にピンクに塗られていて、ちょっと見惚れちゃったくらいだった。

「病って、なんの病?」
私は慎重に彼女に語り掛けた。背もたれに乗せていた顎を持ち上げて、ごくりと音が鳴るくらい溜まった唾を飲みこんだ。
彼女は、本から目を逸らさずに、私の方を見ずに、真剣な声で言った。

「虫になる病」
「……虫?」
その言葉でふとひらめいた。彼女から借りたちょっと古い本の話。
起きたら虫になっていたとある男の話だった。
自慢じゃないけど、ちょっと虫に詳しい私は、当時どんな虫か想像してみたことがあった。
だけど私の結論は、きっと彼は心の病だとか、そういった、当時蔑まれるものになってしまった、あくまで人間なのだと思っていた。

「……なんだっけ、変身?」
怖くて、問い詰めるみたいにならないように気を付けながら彼女に訊いてみた。もしかしたら、とんでもない告白を聴いてしまったのかもしれないと、思って。

「ああ、カフカの? その虫じゃないの」
くすりと笑った唇は、きっと先週私があげた新作のリップが塗られてる。私はとうとう観念して、彼女に直接的に訊いてみた。

「じゃあ、なんの虫?」
冗談めかして、私は彼女の読んでいる本を指さした。彼女は本当に本が好きで、読むことが好きで、読む休憩に読んでるくらい、文字を、本を、読むことを愛していた。だから、

「もしかして、本の虫?」
私の言葉に、彼女は初めて本から顔を上げた。普段重そうに下がっている二重瞼が真ん丸に持ち上がって、すごく可愛らしかった。気分が良くなって、私はようやく、にっこり笑えた。

「あたり?」
「ふふ、あたり」
いたずらっ子みたいに彼女は笑って、本にしおりを挟んだ。

「今日はもう終わり?」
「うん。切りもいいし」
私は荷物を持って立ち上がった彼女に倣って自分の鞄を背負った。五時のチャイムが鳴る。

「……私ね」
「うん?」
つぶやきみたいな私の声に、彼女は笑って続きを促した。

「貴女がどんな病でも、虫でも、きっと綺麗なままだよ」
逆光に照らされた彼女の頬は、チークを塗ったみたいに真っ赤だった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?